第14章 ── 第23話

 本日も工房で作業ですよ。


 エマに指示して、自動生産された歩兵ゴーレムに「ゴーレム製造クリエイト・ゴーレム」の各魔法を使って命を吹き込んでもらいます。

 呪文を教えるのは少々大変なはずなんだけど、そこはエマの才能だろうか。彼女は各呪文を簡単に覚えてしまう。加護のおかげもあるかも。


「エマ凄ぇ」

「当然よ」


 エマはそう言いながら、ゴーレムに命を吹き込んでみせた。

 出来上がったゴーレムは、工房の入り口に自動的に歩いていく。そのまま駐屯地の駐機場に歩いていくのだ。


「大丈夫そうだね?」

「余裕よ? さっさと他のゴーレム、設計してきなさいよ」

「うん、そうするよ。後はよろしくね」



 ではお言葉に甘えて遠距離攻撃型ゴーレムの作成と魔法支援型ゴーレムの作成です。


 まず、遠距離攻撃型ゴーレムは、ゴーレムという部分を生かしてみたい。無生物なのだから、どのようにもデザインできるんだからね。


 ということでこのゴーレム、通常は弓などを使う仕様なのだが、状況に応じて身体がいしゆみに変形します。俗にアーバレストと呼ばれる巨大なものだが、人間の扱える大きさじゃない。バリスタに近い感じですかね。

 この場合、他のゴーレムに射撃操作をしてもらう必要が出てくるので、二体一組としよう。


 さて、問題。アーバレストだかバリスタの弓部分の加工が問題ですな。

 真ん中から二つに折れて九〇度回転して、背中に収納する形がスマートなのだが、可動部分が多いせいで強度が問題になる。

 色々四苦八苦してラッチ固定方式を採用。試しに作った可動部分で検証した結果いい具合のようです。


 アーバレストの矢は背中に収納しますが、短槍ほどの大きさになりましたよ。これを背中に二本。やじりはミスリル製です。これ、飛んできたら凶悪ですなぁ。


 また、太ももの外側部分には通常の弓の矢を装填する矢筒機能。パカッと開くと矢が入っている感じです。


 本体に矢などを収納する設計にしたせいで、歩兵より少々背丈が高くなってしまった。

 後方ユニットなので比較的細身だからヒョロヒョロノッポな感じですなぁ……昆虫のナナフシみたい。見た目が異様なので心理的なダメージも期待できそうですが。



 続いて、魔法支援型ゴーレムです。

 このゴーレムに必要なのは魔法を打ち出すための魔法回路と、魔力を充填しておくためのバッテリーのような回路の搭載だ。

 使用可能魔法を保持しておく頭脳回路も必要か。使わせたい魔法を状況に応じて入れ替えられたら尚良しなのだが。


 本体デザインはそれほど難しくはないのだが、組み込み回路で再び四苦八苦することになった。

 継戦能力や威力の高い魔法の使用を考えると大型の魔力蓄積回路が必須だし、頭脳回路も複雑怪奇なものになる。

 要は大型化してしまうわけだ。このままだとお相撲さんみたいになっちゃう。

 微妙にカッコよくない気がするが……ミスリル糸で編んだマントでも装備させてみようか。


「おお? これはこれで……いいんじゃないか?」


 後方で魔法を打ち出す重ゴーレムって感じで。


 両腕に魔法発射機構を備えているので、左右で違う魔法を打ち出すことも可能だ。

 身体の隅々にまで魔力蓄積回路が組み込まれているので、四肢も身体も太めなのだが、強度はそれほどでもない感じ。

 頭部から胸部分までかけて、肥大化してしまった魔法記憶用の頭脳回路が組み込まれているので、ここも強度に問題はある。

 ミスリルのマントで防御力を補強できてるし、マントの襟部分を立てて装甲板のようにしてあるし……大丈夫かな?


 遠距離攻撃型と魔法支援型ゴーレム用の特殊なゴーレム製造クリエイト・ゴーレムの魔法の作成も難関だったが、単純な機能の魔法を組み合わせて重ねがけすることで、複雑な機能を十全に使用できるようになった。



 と、ここまでで一日が終わってしまった。熱中してたらあっという間ですね。


 エマの作業しているところに顔を出すと、彼女はじっとりと汗まみれになりながら、作業を続けていた。


「休憩したら?」


 新たなゴーレムに命が吹き込まれたところで、俺はエマに声を掛けた。


「あ、ケント。他のは出来たの?」

「うん。何とかね。新しい機構の呪文方程式に苦労したけど」


 エマが呆れた顔になる。


「貴方、やっぱ普通じゃないわね」

「ん? 何で?」

「そんな簡単に魔法なんか作れないわよ。前から思ってたけど異常だわ」

「そうなの?」


 エマによれば、魔法の構築は世界に充満する魔力との契約であり、新魔法を造るには、普通なら何年も要するものだという。


「そうなのか? 魔力の流れを各センテンスでちょいちょいと動かすだけのような気がするけどね」


 エマがガックリと肩を落とす。


「そんなことが出来るのはイルシス神さまくらいよ……」

「うーん。俺と他の人で魔法のシステムが違うのかね?」


 何度か触り部分を説明したが、この世界の魔法はプログラム言語や方程式のような感じだと俺は思っている。全ての魔法はその方式に則っているし、俺の理解に齟齬はないはずなんだが。


 まず、魔法を使用する際に唱える呪文。これはセンテンスの組み合わせだ。この呪文に魔力を載せることで、様々な現象を発生させる。


 センテンスの組み合わせは、それほど難しいものでもない。


 まずは魔法レベルのセンテンスが呪文の先頭に来る。これにより行使する魔法のレベルが決まる。


 続いて唱えるのは各種魔法効果の発動形状などに関するものだ。


 術者と魔法の発動地点の距離を示すセンテンス


 そして、形状のセンテンス。術者から発動地点までの距離にどのように魔法が発揮されるかが決まる。円状や球状、線状に効果が発揮されるなどは、これによって決まる。


 範囲のセンテンスというのもある。これは効果範囲を決める事ができる。魔法効果を一〇メートル四方に広げるなら、このセンテンスは必須だね。


 また、敵と味方を区別するためのセンテンスも存在し、これによって敵のみ、味方のみ、無差別と発動効果を制限することも可能だ。


 発動形状などを組み込んだ後には、発動効果のタイプのセンテンスだ。ダメージを与える効果、貫通効果、移動や治癒、付与などを術式に取り入れる。


 あと、細かい所だけど、呪文を唱えて発動するまでの時間、所謂いわゆる「キャストタイム」を設定するセンテンスや、呪文発動後に他の行動ができなくなる時間設定などの不思議なセンテンスが存在するのだが、これらは消費MPを減らしたりするためのもので、俺やエマにはあまり関係ない代物だ。


 呪文効果がどの程度持続するかを設定するセンテンスもあるのだが、魔法道具を造る上では非常に重要なセンテンスなんですよ。

 効果を永続させるのに必要なんだけど、ものすごいMP食います。一分程度の持続型の魔法なら、消費MPは二倍程度だが、永続型にすると消費MPは二〇倍になる。

 トリシアが一度やったの見たけど、半死半生的な衰弱状態になったからねぇ。普通には使えないわ。イルシスの加護さまさまですよ。


 最後に属性を司るセンテンス。これにより、どのような属性を魔力に与えるかを決定する。炎属性ならフォーリオ、水ならウータリス、風ならウィンディアというセンテンスを使う。


 この属性を混ぜ合わせることで、複雑な魔法効果を発揮させることもでき、そういった属性と属性を組み合わせる場合には接続詞的なセンテンスを用います。

 ただ、この接続詞的なセンテンスなんだけど、単体属性の時でも使うことが出来るらしいんだよね。無くても効果同じなんだけど、あっても良いらしい……ここは俺には良くわからない。もしかして趣味の問題なのかな?


 といった事をエマに話して聞かせると、エマは目を丸くしている。


「はあ……言ってる事は判るんだけど、そうじゃないのよね。

 魔法の呪文は一つの詩なのよ。その詩を魔力に受け取って貰わないといけないの。魔力は意思を持っているから、魔力が気に入らない詩なら魔法なんて発動しないわよ。

 魔力が気にいるセンテンスを組み立てられなければ、いくらセンテンスの語呂を増やしても無意味だわ」


 良くわからないが……魔力は生き物みたいなものなのか? 魔力の精霊とかいるのかも。


 しかし、俺が適当に組んでいるセンテンスは何で魔法として効果が発揮するんだろね?

 エマに教えたゴーレム製造クリエイト・ゴーレムなんかも効果を発揮しているんだが?


「貴方の作った呪文だけど、私が見ても理路整然としていて破綻がないわね。魔力が気に入りそうなのよね。魔力が率先して受け入れている感じがしているもの」

「そうなの?」

「各センテンスの組み合わせの順番っていうのかしら、私も良くわからないけど、使ってみるといい感じなのよ」


 ふーむ。詩を創る能力は俺にはないんだがなぁ。魔力と相性がいいのかもしれん。何せ魔法剣士マジック・ソードマスターだしね。


 エマとの魔法談義で判ったけど、魔法について全く無学だったはずのエマが魔法理論に非常に詳しくなっているね。ジルベルトさんと話し合わせたら面白そうだな。彼がトリエンに来た時が楽しみだな。


 新しく作った二つのゴーレムに命を吹き込み、設計図などをデータベースに登録して、本日の作業を終了する。

 明日からは増産していこう。エマと二人でやれば楽勝でしょう。



 エマと二人で館に戻ると、アースラが新人部隊長たちを集めて何かしてた。


「おらおら、どうした? まだまだだぞ?」


 アースラがどこから持ってきたのか竹刀を片手に、基礎体力トレーニングをする七人の間を歩き回っている。


「何してんの?」

「お、ケント。今、こいつらの基礎体力を測定中だ」


 全員、汗まみれ、かつ真っ赤な顔で必死にスクワットをしている。


「いつからやらせてるんだよ?」

「ん? まだ一時間も経ってないが?」

「え? そんなもん?」


 どうみても二時間くらいさせてる感じなんだけど。


「トリシアたちなら、まだまだイケるくらいだぞ?」


 俺はアチャーといった感じのポーズになってしまう。


「トリシアたちと一緒にしたらダメだよ。彼らのレベルだと、半分にも満たないよ?」

「マジで?」

「マジで。一五から二〇レベルくらい」


 アースラが逆にポカーンとした顔になる。


「マジか……よし、やめ!」


 アースラの掛け声で、全員例外なくぶっ倒れて動けなくなってしまう。


「無茶させるわね……全く慈悲深くないわ……」


 俺は息の荒いみんなにSP回復ポーションを配って飲ませる。


「はぁはぁ……これは……はぁはぁ……何かの拷問なのかと……はぁはぁ」


 フォフマイアーが掠れ声で訴えてくる。


「うーん。ゴメン。前にも言ったと思うけど、彼がそれなんだよ」


 フォフマイアーが目を見開く。


「で、では……?」

「うん。多分、有無を言わさず従わされたでしょ? 抵抗する気も起こさせなかったんじゃない?」

「た、確かに……もう従わねば命はないといった感じで……」


 カイルもブンブンと頷いている。


「閣下……『彼がそれ』とは……ハァハァ……何なんですか?」


 元帝国兵の一人ヘインズが代表で質問する。


「ああ、君らには言ってなかったか。うちの館には素性も知れないような人物が出入りします。この彼のように」


 アースラが竹刀をブンと振って俺を叩きに来たが、俺はスイと軽く避ける。


「で、彼のような人物にはあまり逆らわない方が良いです」


 アースラが連打してくるが、俺はヒョイヒョイと躱す。


「お前、また強くなったんじゃねぇの?」


 アースラが微妙な顔で言う。


「ま、彼のような人物は見た目で判断してはダメです。只のオッサンに見えますが」

「おっさんじゃねえ! お兄さんだ!」

「三〇越えてお兄さんはないでしょが!」

「うっ……そうとも言うかな?」


 アースラが少し萎れて、竹刀を下ろした。


「それで……この方は一体……」

「あ。そうだった。彼はアースラ・ベルセリオス。ティエルローゼだと英雄神アースラと言われていますね」


 七人全員の顔がポカーンとしたものになってしまう。今までハァハァと息をしていたはずなのに、息するのも忘れてませんか?


「この事は他言は無用です。もし他言したら神罰が落ちますよ?」

「そのくらいじゃ落とさねぇよ」

「だそうですが、大騒ぎになりますのでダメです」


 アースラが憤慨した声を上げるが、俺は構わず口止めをする。

 みんなは顔を青くしてコクコクと頷くばかり。


 ま、英雄神の洗礼を受けて、ちょっとビックリしたかもしれないが、良い経験になっただろう。

 これも任務の一つだと思って諦めてくれ。

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