第14章 ── 第21話

 新たな転送装置を作った日の夜には、王都で雇った家臣たちが全員がトリエンに到着した。


 ちょうど一週間(八日)だね。


 で、この日の夜、新人たちのレセプション・パーティを行うことにした。

 館の中庭で園遊会的なものだが、前回やった貴族たちのものと違い、使用人や役場の人間なども連れてきている。


 今回は、軍事の新人、行政の新人、メイドの新人の三種類です。


 軍部とは協力関係が必要になる衛兵隊から一〇人の衛兵隊長を、役場からは行政長官と上級役人たち、館のメイドたちを参加させます。


「それではトリエンの防衛を担う新人たちを紹介しよう。

 トリエン防衛軍指揮官にエルネスト・フォフマイアー子爵」


 俺はフォフマイアー子爵を紹介する。


 壇上に上がったフォフマイアー子爵は集まっている客たちに一礼する。集まった客たちがパチパチと拍手をする。


「冒険者から貴族になった俺と違い、彼は最初から貴族だったわけだけど、冒険者を経験したことで庶民感覚の判る人物だ。我が領土の民たちを守るために奮起するものと期待している」


 俺は次の人間を壇上に上げる。


「続いて、指揮官補佐フローレンス・ヘインズ」


 ヘインズ元兵長は緊張した面持ちで壇上に上がってくる。


「彼は元帝国の歩兵隊を指揮する兵長だったが、俺に仕えたいとトリエンにやってきた。帝国軍の主力部隊の兵長だから優秀だぞ? 彼にはフォフマイアーと手を取って防衛軍を運営してもらう」


 ヘインズが強張った顔でペコリと頭を下げた。


「さて、続いて! トリエン防衛軍の花形になるだろう主力五部隊の指揮官たちだ。カイル・ロッテル、エクリア・ワッツ、モーガン・バトラー、ゼイン・グローリィ、ポール・マッカラン!」


 五人が壇上へ上がってくる。カイル以外は、ヘインズ同様に平民が着るような野暮ったい感じの簡素な服だがちゃんと洗濯もされていて清潔な服装だ。カイルはパーティだからか王都の園遊会でも見た少々派手な貴族服だ。

 カイルは少し派手好きなのかもね。言い忘れたけど、フォフマイアーは貴族服ながらシンプルでスッキリした服だったよ。


「彼らがこれから創設される防衛軍の各部隊を指揮することになる。まだ一兵も用意していないが、明日からガンガンと兵を配備する予定だ。それら兵を率いて任務に勤しんでもらいたい」


 俺がここまで言うと、カイルが手を上げて俺の方を見た。


「はい、カイル・ロッテル隊長」


 俺は先生のような口調でカイルに話しかける。


「明日から兵を配備と申されましたが、どのような構成の兵士たちなのでしょうか? 軍であるならば、槍兵、騎兵、弓兵などの構成割合によって部隊色を出すこともあります」


 ふむ。要は自分の部隊がどんなかを知りたいのだな。


「王国の軍学を学んできたロッテル隊長らしい真面目な良い質問ですね。ただ、それはあまり気にしないほうが良いかもしれません」


 五人のみならず、指揮官のフォフマイアーもヘインズも首を傾げる。


「仕方ないですね。秘密にしておくつもりでしたが、この際だから発表しますよ。君たちが指揮する全ての兵は、ミスリルで出来た戦闘用ゴーレムとなります」


 ゴーレム部隊創設を知っていた者以外が、驚愕の顔を浮かべた。


「ゴ、ゴーレム……?」


 俺の応えにカイルが言葉を失った。


「あ、ゴーレムは一種類ではありません。槍、剣、盾、射撃、魔法などを使うゴーレムを予定しているので編成に希望があったら園遊会の後にでも俺に言って下さいね。明日から俺はゴーレム作りに専念するつもりですから、それまでに」


 五人のポカーン顔が凄く笑えた。


 ちなみにゴーレムのデータ・リンクを使用した魔力無線をゴーレムには仕込むつもりなので、総指揮官、部隊長間の通信はバッチリになるだろう。この世界にはない現代的な発想だ。


「続いて行政の新人を紹介するよ~。ソリス・ファーガソン、前に」


 俺の言葉にファーガソン准男爵が壇上に上がる。


「はい。彼には行政長官クリストファの補佐として、行政副長官を務めてもらいます。彼は俺がスカウトして来てもらいました」


 クリストファが嬉しそうにパチパチと率先して拍手をし始める。つられて他の客も拍手喝采。


「スカウトはケントの素敵用語じゃぞ」


 隅の方にいたマリスが隣のアマレットに言っているのが聞き耳スキルで聞こえた。しまった。英語だったか。


「さて、クリスと彼の部下として、オットー・セネール、ジンネマン・ポーフィルの二人を付けます」


 二人の王国貴族も壇上に上がる。拍手がより大きくなる。


「クリスを含めた、この四人がトリエン地方の行政を担う事になります。俺がいなかったり、別の事で手が離せない時は、俺に代わって行政における決定を行う重要な人物たちになります」


 三人が顔を引きつらせる。


 ま、このくらいのプレッシャーは与えておいてもバチは当たらないだろ。俺が納得できないような行政判断をしたら困るからね。


「さて、続いて我が屋敷内の人事です。今回は三人のお嬢さんを新たな仲間として迎えます。フィリア・メイナード、バーバラ・シルレット、ネリス・シャーテンブルク」


 名前を呼ぶと、ドレス姿の三人が壇上へ上がった。なかなかの器量よしが三人壇上に上がったせいで、会場内の男性たちから盛大な拍手が。


「はい、フィリア・メイナード嬢は、魔法及び工房担当官間のエマ・マクスウェルの侍女として来てもらいました」


 エマが以前買ってやったドレスで壇の近くまで来て貴族の優雅なお辞儀をしした。


「エマは研究やら何やらで工房に籠もりっきりになる事が多いので、服装とかが女の子らしくない状態になることも多々あり……」


 そこまで言うとエマが慌てたように俺に詰め寄ってきた。


「な、何言ってるのよ! 乙女の秘密を喋っちゃダメでしょ!」


 そんな事を言っている段階で、モロバレしてますけど?


 俺たちのやり取りを見た周囲の客からクスクスという忍び笑いが漏れ聞こえてくる。


 振り返ったエマが顔を真っ赤にしてマリスとトリシアの方に走っていく。そのまま彼女らの後ろに隠れてしまった。

 ちょっと悪ノリしすぎたかな。後でカツサンドでも持って謝りに行かねば……新作のエビカツを使ってみるか。


「さて、バーバラ・シルレット嬢、ネリス・シャーテンブルク嬢ですが、行儀見習いのメイドさんとなります。俺みたいな冒険者上がりには行儀もあったもんじゃありませんので、メイド頭のアマレットさんたちに任せますのでよろしく」


 俺の言葉にアマレットさんがエレガントな礼を以て応える。


「以上が新人になります」


 紹介忘れはないかな? あ! 忘れてた!


「と、言いたい所ですが、まだ紹介していない人がいました」


 俺は壇上から彼を探す。

 入り口の近くの隅っこの篝火かがりびに手をかざして暖を取っている人物を発見する。彼が最後の一人だ。


 俺は壇上から飛び降りて、彼のところへと行く。


「はい。今度は君の番だよ」


 俺は彼の腕を引っ張って壇上へと上がらせる。


「閣下……私は別に結構なのですが……」

「そうはいかない。君も大抜擢の人物だから新人だ」


 彼は俺の腕力にはかない様もないので、ズルズルと壇上に引きずりあげられてしまう。


「はい。この人が最後です」


 壇上に上がった小太りの背の低い男に客たちの視線が集まる。


「あれ? あの人って在庫係の……」

「名前なんだっけ?」


 役人系の客たちから口々に囁き声が漏れる。


「彼は、キース・エドガー君。今回、トリエン都市開発官に抜擢した重要人物です」


 紹介されるエドガーはダラダラと冷や汗をかき始め、ハンカチで報われない努力を開始する。


「なんか冴えないな」

「都市開発官って何かしら?」


 外見と中身は別だろ。


「さて、都市開発官という役職名にみなさんは馴染みがないかもしれませんが、これは重要な仕事です。今後、トリエンは大きく成長、発展していくことになります。

 帝国との貿易が本格化し、物流がどんどん増えていくでしょう。そうなれば、トリエン周辺への人の流入が活発化して行きます。

 トリエンの街では賄いきれないほどでしょう。そうなる前にトリエンの街をより大きく作っていく必要が出てきます。その責任者が彼、キース・エドガー君だ。彼の能力は新たなるトリエンを作り出す上でこの上なく重要なものです。

 より大きく、より住みやすい都市トリエンを彼の手で作り上げてもらうつもりです」


 俺がそう説明すると、客たちはシーンと静まり返ってしまう。クリスだけがウンウンと頷いている。


「エドガー、トリエンの発展を頼むよ。君に任せる」


 俺はエドガーに右手を差し出す。エドガーは戸惑っていたがおずおずと俺の右手を両手で掴んだ。


 それを見た観客が「おお!?」と驚きの声を上げ、そしてまばらに拍手が起こり始める。そして他の客も拍手に参加していき、盛大な拍手合戦になった。


 エドガーは目を白黒させていたが、俺の手を離すと、ペコペコと周囲に頭を下げた。


 これで良い。家柄や貴族位などは、俺にはどうでもいい。能力があるものが重要なポストに就けるという前例を皆の前に知らしめる。これがエドガーを最後、劇的に紹介した理由だ。

 こうしておけば、上を目指す野心を持つものは、自ずと努力し実績を上げるに違いない。

 それこそが狙いだからな。そうやって野に埋もれた優秀な人材が俺の元に集まってくれば、トリエンは安泰だろう。


 ま、のし上がろうとして不正や犯罪を以て俺に取り入ろうとする輩も出てくるだろうが、そこはレベッカ率いる「T-DIO」、トリエン地方情報局に処理させるつもりだ。


「さて、エドガー君が最後の新人紹介だが、ここで一つ皆に報告しておこうと思う。現在、俺はブリスター孤児院に要請して、小間使いや雑用などをこなしてくれる人員を派遣してもらう体制を整えた」


 俺はハリスに合図を送る。合図を見たハリスは後ろの扉を開けた。


 扉から、二〇人ほどの子供たちが列になって入ってきた。みんな俺がデザインした制服を着ている。


 子供たちはリオを先頭に壇の下までくると客たちの方に身体を向けた。


「この子供たちを雇ってくれる家のものを募集しています。彼女らに家事や雑用などをやってもらいたい方は申請してください。彼らの就業規則や賃金などは書類にしてありますので、興味がある方はハリスから書類を受け取って下さい」


 俺がそう言うと子供たちが一斉に頭を下げた。


「可愛らしいな」

「ふむ、雑用か。ウチも何人か雇うか」

「あのお揃いの服はどこで売ってるのかな?」


 参加者や新人たちが興味を示している。

 いい傾向だ。やはり制服が好評のようだ。プレゼンは成功と言えそうだ。



 新人の紹介が終わり、その後の園遊会は各部署の人々が親睦を深めたり、雑談や食事などが行われる。


 エドガーはクリスを筆頭に新人役人たちに囲まれて汗ダラダラ。上級役人たちもそれに加わろうと団子状態になっている。


 軍部新人は衛兵隊の隊長たちに挨拶していた。今後、彼らがトリエンの治安と防衛を担うわけだから親交を深めておいてもらいたい。


 ブリスター孤児院の子供たちはちょこまか会場内を走り回ったり、出されている俺の料理に舌鼓を打ったりと可愛らしい。


 仲間たちやマストールもそれらに加わり、宴もたけなわと言った感じだ。


 こうして、トリエンの運営が本格的に始まることになる。

 今後、トリエンがどう発展していくのか、非常に楽しみだ。

 まだまだ手間は掛かるだろうけど、トリエンが住みよい領地になって行けばいいなぁ。

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