第14章 ── 第20話

 翌日の朝、朝食を摂っていると、リヒャルトさんが来客だと言う。


 食事もそうそうに表に出ると、そこにはマストール率いるドワーフ部隊がいた。それと共に何台もの荷車に大量のミスリルが!


「おお。マストール、マジで来たんだ」

「当然じゃろ。ミスリルも届けねばならんからな。この後もどんどん届くぞ」


 やっとミスリルの在庫が増えたな。これでゴーレム作りが始められるね。


「助かるよ。今日からやるとしますかなぁ」

「ふむ。ワシはいつでも良いぞ」


 俺は念話チャンネルを開く。


『フロルで御座います、ご主人さま』

「あ、フロルか? 作業用ゴーレム部隊を繰り出して欲しい。ミスリルが大量に届いたんだ」

「畏まりました。お屋敷でよろしいでしょうか?」

「うん。よろしく」


 俺が念話を切るとマストールが不思議そうな顔をしていた。


「あ、念話してたんだ。これから作業用ゴーレムがミスリルを取りに来るよ」

「ふむ。ヌシといると飽きないのう。トリシアがご執心なわけじゃな」


 しばらくすると、町中を二〇体の作業用ゴーレムが行進してきた。結構な数の衛兵隊が制止もできずについて来たのが笑える。


「あ、衛兵のみなさんご苦労さま。これは俺のゴーレム部隊だから安心して」


 俺は必死にゴーレムを押し止めようと無駄な努力をしている衛兵たちに話しかけた。


「領主閣下の!? 失礼しました! このゴーレムたちが東門からやってきて町中が大騒ぎになりまして!」


 マジ、ゴメン。先に周知しておくべきだった……


「済まない。連絡入れておけばよかったな。これからこのゴーレムたちが頻繁に街に現れることになると思うんで、衛兵隊に周知しておいてくれるかな?」

「畏まりました閣下!」


 衛兵たちが綺麗に敬礼をしてゴーレムたちから離れ、街の警備任務に戻っていく。


「やはり、領主閣下は凄いな!」

「あのゴーレムが来た時は肝が冷えたよ……」

「しかし、あれだけのゴーレムはどこから来たんだ?」

「わからん」


 去っていく衛兵たちの声を聞き耳スキルが拾ってきた。


 ブリストル墓地から歩いてきたっぽいなぁ。どこかに物資搬入口を作る必要あるかもしれないな。新しい転送装置をラインで作って館のどこかに置くとするか。


「さて、騒動も終わったようじゃな。どこで作業する?」

「あー、まだ完全に準備できてないんだ。二・三日待ってよ」

「ふむ。そうか。お前ら! ミスリルを荷車から下ろしたら帰っていいぞ! 後続部隊も運搬が終わったら帰るように伝えておけ!」

「判りました、親方!」


 ドワーフたちがミスリルを館の庭に下ろし始める。


「この第一陣で一割程度じゃな。ワシの工房は最大稼働でミスリルの増産中じゃ」

「助かるなぁ。で、代金の方は?」

「ワシは聞いておらんが?」

「あれ? 陛下がマストールと話し合ってくれって言ってたけど?」

「そうか? そうじゃな。お前が思う金額で良い」


 俺の言い値で良いのかよ!? 不当に安く提示したらどうするつもりなんだよ。


「うーむ。五〇トンだからなぁ。金貨で五〇万枚くらいかな?」

「それで良い」

「こんなに一度に届くと思ってなかったから、お金の用意がまだなんだけど……」

「そんなものはいつでも良い。それよりもゴーレムを造らせろ」


 マストールにとってはそっちが目的らしい。


「あ、そうだ。マストール。これを見てくれ。これの加工法って知ってる?」


 俺はインベントリ・バッグからオリハルコンのインゴットを一つ取り出す。


「そ、それは……いや、ありえん……しかし……」


 マストールがワナワナと震えながら手を伸ばしてくるが、インゴットを手に取る前に引っ込めてしまう。


「ん? どうしたの?」

「ケント……お前、何モンなんじゃ……?」

「俺は冒険者だな。ここの領主でもあるけど」

「そういう事を聞いているんじゃないんじゃがな……まさか、オリハルコンのインゴットが出てくるとは思わなんだ」

「神界の金属だとか言われてたっけ? これを加工して武器とか作りたいんだよね」

「ふむ……オリハルコンの加工か……腕がなるな!」


 マストールが職人魂に火をけている。目にはその炎が見えるようだ。


「アダマンタイトもまだ満足に採掘ができてないというのにのう。オリハルコンを出されたら笑うしかないと言うもんじゃ。オリハルコンがどうにかできるならアダマンチウムも簡単なもんじゃろうし、一丁やってみるか」


 そう言ってマストールが笑い出す。


「鍛冶施設は工房にしかないんだよな。一緒に行こう」

「うむ。そうするとしよう」


 工房についたマストールを許可リストに登録し、工房の鍛冶部屋に連れていく。


 工房の鍛冶部屋は、生産ラインがある部屋に隣接している。殆どの鍛冶用器具は魔法道具なので使用法の説明などに時間を要したが、マストールの鍛冶知識は相当なもので、どんどん理解してくれたので助かった。


 鍛冶部屋にオリハルコンのインゴットを五個ほど置いてマストールに自由に使ってもらうことにする。まだインベントリ・バッグ内に一〇個ほどあるので何の問題もない。


 マストールを残して鍛冶部屋を出た俺は実験室に顔を出す。エマとフィルが実験室におり、エマは魔法書を片手にサンドイッチに齧りついている。

 フィルはというと、目に隈を作りながら魔法薬の研究開発を続けていた。


「フィル、寝てる?」

「領主閣下……研究はまだまだでして……」

「いや、そっちじゃなく。目の下にくまできてるよ? ちゃんと寝ないと良い研究ができないと思うんだけど」

「あ、そうですね……」


 フィルが手を止めたのをエマが見てフンと鼻を鳴らす。


「フィルったら研究に夢中なのよ。ここ一週間、殆ど寝てないみたい」

「寝ろ! 今すぐ! 死んでもらっては困るよ!」

「いや、少々寝なくても……」

「いや、寝ろ! 一週間寝ないと人間は死ぬって聞いたことがある!」

「それは真で……?」


 俺はしかめっ面で頷く。


「寝ることに致します……ご心配をお掛けして申し訳ありません」


 うーむ。フィルの頑張りは嬉しいけど、自己の体調管理はしてもらいたい。


 トボトボと宿泊スペースへと歩いていくフィルを横目に俺も作業をすることにする。


 まずは屋敷に搬入口を作るため転送装置を作るのだ。

 工房のデータベースに設計図などが記録されていたはずだから、それほど難しくはないだろう。


 端末で調べてみると設計図や作成法などの記録はすぐに見つかる。

 魔法付与の方法など詳しい手順が書かれているが、結構面倒だぞ?

 生産ラインで自動では作れそうにないので、イチから作る必要がありそうだ。


 転送装置には空間属性系の魔法を使う。その魔法書などは研究室に存在するが、部品は造らねばならない。


 この設計図などを見てみると、なんか自作パソコンみたい。

 各パーツが色々な魔法効果をもっていて、それらを組み合わせることで転送機能を持つようになるようだ。

 応用すると違った機能をもった装置も作れるやもしれない。ブラック・ホール発生機とかね……


 ちょっと危険な事を考えちゃったけど、まずは転送装置だ。


 部品の材料などを取りに倉庫区画へ行くと、どんどんとミスリルを運んでくるゴーレムを見ることができた。


 どうも霊廟から直接出たり入ったりしているっぽいな。早めに転送装置を造らなきゃな。


 倉庫で材料を漁っていると、転移用のコアパーツに在庫があった。他にも幾つかの関連パーツの予備も。作るのが面倒なのばかりが見つかって助かるなぁ。


 これで幾つかの魔力伝導装置、魔力蓄積装置などと外装などを作れば転送装置は完成しそうだ。


 早速、それらの制作に取り掛かる。


 魔力伝導装置にはミスリルを使うのね。魔法金属だから伝導率が高いしな。

 他にも金や銅、銀など様々な金属を使った。

 説明書によると金属の純度が高いことが望ましいとあるが、ドーンヴァースのインゴットは純度一〇〇%だからねぇ。高純度金属の精製とかの工程は無視できるのが助かる。


 続いて魔力蓄積装置だが、こっちはミスリルが基本だね。ミスリルを積層して、そこに魔力を循環させることで、魔力の消散を抑えるという感じだな。それを魔力を遮断する鉄で包むわけだね。


 鼻歌まじりに装置を作っているのをエマが興味深そうに見ていた。


「ケントって器用よね。簡単に作ってるもの」

「そうかな? 設計図と作業指示書通りにやってるだけなんだけど」

「金属を成形するのが早いわ。私だと四苦八苦よ」

「ふーん。鍛冶スキルがあるからかな?」


 ふとステータス画面でスキル一覧を見ると、彫金スキルや鋳造スキルなど、生産に役立ちそうなスキルが増えていた。いつの間に増えたんだろ?

 ドーンヴァースには存在しないスキルなので少々戸惑うが、ティエルローゼだからなぁ。どんなスキルがあるのかは想像もつかない。


「さて、これでパーツは完成だな」


 ものの三時間程度でパーツは作り終わった。転送装置は二つで一組なので、作業量は二倍。一つだけなら一時間半って所か。


 さて、あとは組み立てるだけだ。


 二つの装置を難なく組み立て終わり、二つ作った装置を魔力でリンクする設定を施す。魔力を流して動作をテストすると、上手く機能しているようだ。


 これの片方を工房の魔力蓄電装置につなげてやれば、常時機能するようになるだろう。


 俺は立ち上がり、工房の入り口へと行く。


 オリハルコン・ゴーレムのレイが直立不動で入り口の付近に立っていた。


「レイ、警備ご苦労さま」

「マスターノ命令ニヨリ任務遂行中」


 微動だにぜず、レイがそう応える。

 そんなレイの前をミスリルを担いだゴーレムたちが歩いていく。


 さて、装置を設置しますよ。


 入り口の横あたりに装置を設置する。ここならレイの守備範囲だし問題ないだろう。


 俺は工房に戻り転送装置で館へと戻ってくる。


 さて、館の方はどこに置こうか。部外者に勝手に使われるのも困るので、外というわけには行かない。館の一階の一室を転送部屋にするかな。


 俺は館を歩き回って候補地を探す。

 しばらく探すと良さそうな所を発見した。


 掃除用具を入れておく小部屋だ。ここならいい感じじゃない?


 小部屋は広くもなく狭くもなく、比較的大きな荷物も通りそうな感じの広めの扉もある。


 俺が小部屋の掃除道具を外に運び出していると、それを発見したメイドの一人が慌ててやってきた。


「旦那さま! 一体何をなさっておいでです?」

「あ、アルメル? この部屋を使いたいんだ」

「この部屋を? ここは掃除道具などを入れておく部屋ですが……」

「うん。そうなんだけど、ここを別のことで使いたいんだよ」


 アルメルは何に使うとかは深く聞かずに頷くと走ってどこかへ行ってしまう。


 作業を続けていると、たすき掛けといった感じのメイド部隊が到着する。


「フィニー、中の掃除を始めなさい。アルメルはそっちの棚を。モーラ、そこよ。他のものは外に出してあるものを片付けなさい」


 メイド頭のアマレットが、キビキビと指示を飛ばし。あっという間に小部屋の中のものが運び出され、おまけに掃除まで簡単に完了してしまう。


「旦那さま、こういった事は我々にお任せ下さい」

「ああ、ありがとね。助かった」


 アマレット率いるメイド部隊はお辞儀をして、それぞれの仕事に戻っていく。


 さて、中も綺麗になったので転送装置の片割れを設置しますよ。


 無事に設置も終わり、試運転。


 転送装置の横に歩いていくと、軽い酩酊感覚が襲ってくるが、構わず足を進める。


 気づけば工房の入り口の横に到着している。レイの七色の身体が良く見える。


 続いて、逆の工程を実験する。難なく館の小部屋に戻ってこれた。こちらも問題ないようだ。


 よし、この転送装置で搬入させよう。


 俺は館の外へ出て、ミスリルに取り付いているゴーレムの一体に声を掛け、館の中の転送装置を教える。


 ゴーレムは全部、工房内のサーバ装置に接続されているので、一体に指示を出すと、他のゴーレムも情報が伝達されて同様に動き始める。


 ゴーレム、便利すぎ。

 さて、これで町中を騒がすこともなくなるだろう。

 次からゴーレム兵とかの制作かな? その前に重機型の作業ゴーレム作る必要あるかな? 軍隊の駐屯地を作る必要あるからね。

 カイルやヘインズの職場だから用意しなきゃならない。待機中のゴーレムを駐機しておくスペースにもなるからな。

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