第14章 ── 第14話

 夕方になり、城から園遊会の迎えが来たのでみんなで乗り込む。


 トリシアはともかく、アナベルが訓練疲れでガックリとした感じだったので、ポーションを飲ませて少々回復させておく。


 マリスはマストールに盾を直してもらって、嬉しげに撫で回している。

 俺の作った装飾なしのシンプルなタワー・シールドは見事に直ってきたのだが、盾の表面に芸術的なレリーフで俺の紋章が彫り込まれていた。


 うーむ。マストール師匠、凝りすぎです。


 城に着いて園遊会の会場へやってくる。


 今日の園遊会には女王も出席していて、みんなに演説を行った。


「この度、我がファルエンケールは、王国貴族、ケント・クサナギ辺境伯の領地、トリエン地方と同盟関係を結びました。両地方が良き協力関係を得て、共に発展していくことを望みます」


 参加している評議員や貴族たちから割れんばかりの拍手が巻き起こる。


 演説後に女王に招待のお礼や挨拶、乾杯などをしたが、その後、俺は評議員や貴族にもみくちゃにされた。

 といっても、挨拶や雑談などだが、ひっきりなしに貴族たちが来るので、ゆっくり飲み食いする暇もない。


「ケントさん! 今日は駐屯地に来られなかったので寂しかったです!」


 しばらくして、ほろ酔いのマルレニシアが絡んできた。

 今日のマルレニシアはドレス姿で、すごい清楚な感じだ。


「おー、ドレスのマルレニシアは綺麗だなぁ」

「か、からかわないで下さい!」

「いや、ホントだよ?」


 マルレニシアが真っ赤な顔になってしまう。


「スヴァルツァ団長は一途ですからね。ワイバーン・スレイヤーさまに褒められて光栄に思っておられます」


 シャリアがマルレニシアの横で得意げに言う。

 こちらもドレス姿なので、なかなか綺麗です。


 以前は知らなかったが、色々と話をしているうちに判ったことがある。マルレニシアはエルフの貴族のスヴァルツァ家の令嬢であり、爵位的には伯爵家なんだそうだ。父親は評議員補佐をしていて、結構な良家らしい。


 シャリアは王国の西側にあるラクースの森という所のエルフの都市の出身で、彼女もその都市の貴族らしい。彼女の母親はトリシアとのドラゴン退治に同行した勇猛な戦士らしく、今ではメルアレス子爵家の当主だという話だ。


 彼女らと話をし、他の貴族たちも集まってきている所で、騒動が起きた。


 少し離れた中庭の入り口近くでエルフの貴族らしいのが轟音と共に数人宙を舞っていた。


「な、何事か!?」


 俺の周囲の貴族が騒ぎ出したので、俺は騒動の方へと急いで近づいていって見た。


 そこには、ウォーハンマーを構えるアナベルと、盾と剣を光らせているマリスがいた。

 彼女らの周囲には若いエルフの貴族たちが死屍累々といった感じで転がっている。


「な、何やってんだ!?」


 俺は慌てて二人に声を掛ける。


「あ、ケント。ちょっと失礼なヤツがおったので成敗したのじゃ」

「ふん。いきなり私の胸を掴むたぁ殺されても文句いえねーだろ?」


 ぬ、アナベルはダイアナ・モードだよ。


 とりあえず、慌てて転がっているエルフたちを抱き起こすが、どっかで見た顔だぞ?


「前回の園遊会の……ヤツらだ」


 俺が頭の上にハテナマークを出していると、ハリスが思い出させてくれた。


「あー、あいつらかー。セルジオットだっけ?」

「セルージオット公爵家じゃな」


 俺の横に来たマストールがそう言い直してくれる。


「まったく、このドラ息子どもが」


 マストールが幾人かの胸ぐらを掴んで引きずり、入り口から放り投げている。


 俺はというと、セルージオット公爵家の御曹司の頬をペンペンと叩く。

 その衝撃にセルージオット家の御曹司が目を覚ました。


「な、何事が!?」

「何事かじゃねえよ。お前、アナベルの胸を掴んだらしいな?」

「それがどうしたというのか……」


 俺の目を見たセルージオットの御曹司の目が恐怖に凍りついた。


「人様の身体を勝手に触ると、死ぬことになるぞ?」

「な、な、な……」


 恐怖に凍りついた御曹司は、言葉も出てこないようだ。


 ちょっと威圧スキルが強すぎたかな? 少々レベルを下げるか。


「ま、いくら貴族のボンボンでも、やって良いことと悪いことがある」

「き、貴様、この私をセル……」

「いや、もうお前は我が家のモノではない。どこにでも行くといい」


 後ろから、エルフには珍しい口ひげの貴族が冷たい目線を御曹司に向けて立っていた。


「ち、父上!? この者たちが……!!」

「聞こえなかったのか? お前は勘当だ。二度と我が家の敷居をまたぐことも、我が家名を名乗ることも許さん!」


 御曹司はポカーンとした顔になってしまっている。


「父上……いったいどういう事ですか……?」


 御曹司はオロオロと父親らしい貴族に問いかけるが、その貴族はフンと鼻をならして去っていってしまう。


「ち、父上!?」

「聞こえておらんのか、この馬鹿は」


 マストールはそういうと、御曹司を担ぎ上げて入り口から、他の若い貴族同様に放り出した。


「ま、これで妖精族の貴族界も静かになるじゃろう」


 そういうとマストールは酒樽のある方へと歩いていった。


「ほえー。突然の出来事に何が何だかわかんねー」

「ふん。痴漢野郎がいなくなってセイセイするぜ」

「全くじゃな」

「一体何があったの?」


 マリスたちに聞いてみると、マリスとアナベルが出席中の貴族の女子たちと話をしていたら、突然、あの御曹司と取り巻きがやってきたらしい。

 そして、アナベルを見るやいなや、絡んできたんだそうだ。

 あげくにアナベルの巨乳を後ろから揉みしだいた……


 許せん暴挙だね!


 確かに、エルフたちや他の妖精族は種族柄か胸が乏しい。トリシアはエルフの中でも比較的大きい方だ。

 巨乳が珍しくてやったのかもしれないが、貴族の行いじゃない。


 それをされた瞬間、ダイアナが表に出てきてぶっ飛ばしたらしい。

 エルフの御曹司一行も剣を抜いたので、マリスが騒動に参加した。


 そして、あっという間に二人で全員ぶっ飛ばしたというのが事の経緯の全容らしい。


 かの貴族の御曹司たちを弁護するものは誰も現れず、何やら公爵家の当主らしい人が勘当を申し渡したと。


 俺は、さっきの貴族を探し出して声を掛けた。


「先ほどはウチの者が騒ぎを起こし、申し訳ありません」

「いや、こちらこそ、愚息が申し訳ない」

「私は、王国貴族、トリエン地方の領主をしています、ケント・クサナギ辺境伯と申します」

「私は、スーリアン・セルージオット公爵と申す。以後、見知りおきを」


 セルージオット公爵は、エルフの優雅な礼をした後、俺と握手をした。


 しばらく彼と話をしてみたが、セルージオット公爵家は、女王の血族に連なる家柄であり、評議員などの要職にはついていないものの、ファルエンケールでも随一の高貴な血統なのだそうだ。


「すでに勘当を申し渡したので、愚息と言うもの何だが、どうも育て方を間違えたようでね。女王陛下がおわすこの場で、あのような騒動を起こすなど……」


 言いたいことは判る。


「そんな簡単に息子さんを勘当しちゃっていいのです?」

「もう、許すつもりはないですな。一人息子だったが、血筋や家柄に胡座あぐらをかいた増長……」


 冷静そうなセルージオット公爵の額に血管が浮かび上がる。


 どうも、相当頭にきている感じだね。


「子供など、また作れば良い。それよりも、辺境伯殿のお仲間は大丈夫かね?」

「ああ、彼女たちはサッパリしたものです。もう食事と飲み物に夢中ですよ」

「そうか。心に傷でも負ってしまっていたらと思っておったが……」

「一応、彼女らも冒険者ですから、そんなヤワじゃありません」

「左様か。いつか彼女たちに詫びをするつもりだ。その時は良しなに」

「そのように伝えておきます」


 これがセルージオット公爵との出会いだった。

 後々、この出会いが思わぬ所で生きてくる事になるのだが、それは後の話。


 園遊会は途中で騒動もあったが、無事に終わり宿に帰ってきた。


 次の日、俺たちはファルエンケールを後にする。


 今回は盛大な見送りもなくファルエンケールの南門を出た。

 その時にマルレニシアが一人だけ見送りに来てくれた。


「ケントさん、また来てくださいますね?」

「うん、また来るよ」

「きっとですよ」


 そう言って、マルレニシアは南門に戻っていった。彼女の笑顔には少々寂しそうな感じが漂っていた。

 ま、兵団の駐屯地に拠点転移ホーム・トランジションの起点になる装置を設置してきたので、次に来る時は一瞬だよ。

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