第14章 ── 第13話
翌日の昼頃、部屋で寛いでいるとトリシアたちが部屋にやってきた。
「あ゛ー、飲みすぎた」
トリシアが二日酔いの頭痛に顔をしかめていた。
「水飲むか?」
俺は水差しからコップに水を注いで渡す。
「
アナベルが心配そうな顔で言うが、トリシアは拒否している。
「これは飲みすぎた罰だからいいんだ」
「今日は園遊会もあるよ?」
「そうだな。迎え酒でも飲むか!」
まだ飲むつもりか。懲りないヤツ。
とりあえず、今日の俺は午後から城へ向かう予定だ。
トリエンの領主として、ファルエンケールの女王との条約締結の手続きをする。正式な書類などを
儀式と聞いて何のことだろうと思ったが、何か魔法的な契約なのかも。シャーリーの工房を譲り受けた時にもあったしね。
「トリシアは駐屯地に行くって行ってなかったっけ? 酒臭いまま行くと示しがつかないんじゃ?」
「ま、それも罰のウチだな」
「マリスはどうする?」
「マストール爺のところに行くのじゃ。盾の事もあるしの」
ふむ。半壊した盾の修理を見に行くようだ。
「私もトリシアさんと一緒に駐屯地に行きますですよ」
修行だな。間違いない。
「俺は……ケントと……行く」
「ほい。了解」
みんなで軽い昼食を取り、それぞれの予定に散っていく。
俺は正式な貴族服を着てハリスと共に城へと出かけた。
「陛下がお待ちです」
入り口でミルレがまた待っていたので謁見の間に連れて行ってもらう。
今日の謁見の間には評議員たちも来ているが、以前のような険悪な顔をしているものはいなかった。
「おお、森の英雄殿が参られましたぞ、陛下」
「あれがワイバーンのみならず魔族を屠ったものたちか。以前から尋常な腕ではないと思っておったが」
などと、何故かヨイショ気味の声がチラホラ。
「本日は、我が領地トリエンとの条約の件で伺いました」
女王に当たり障りのない挨拶をする。この事は前日に承認を得ている事なので問題はない。
「ふふ。評議員の反応が不思議でしょう?」
女王がいたずらっぽく笑う。
「昨日の訓練を見たらしいのです」
「あー。あれを見られましたか。お目汚しで申し訳ない」
「いえ、私も遠見の呪者に頼んで拝見いたしました。心熱くなる光景でした」
女王はニッコリと笑う。
「俺が兵団の援軍に入ったのですが、トリシアたちにやられてしまいました」
「みんな強くなりましたね。これもケント殿の手腕によるものでしょう。今日はハンマー殿にも来てもらうつもりでしたが、何か用事があるとかで断られました」
「たぶん、うちのメンバーの防具修理のせいではないかと……こちらの方が重要なはずなんですが……」
俺は苦笑気味に応える。
「いえ、ハンマー殿には、そちらの方がよほど重要だったのでしょう」
この後、細かい条約の内容が評議員たちも含めて話し合われたのだが、大した反対もなくすんなりとすべて決まった。
正式な書状になり、儀式とやらが行われる。
一時間程度の儀式だったが、最後に互いの代表の親指をナイフで切り裂き、書類に押し当てるというのがあった。血判状ってやつでしょうか?
「これにより、ファルエンケールおよびトリエンは血の盟約により結ばれる。以後、この盟約を破棄できるものは神のみとなる。アンセル・セリオーヌ」
最後の部分はエルフ語で「盟約よ永遠なれ」という意味だ。
「これで儀式は終わりです。いかがですか?」
「どの世界にも儀式というものはありますが、肩が懲りますね」
女王に感想を聞かれ、俺は素直に答える。
「そうかもしれません。でも、必要なことなのです。時代が移り変わっても、真理は変わりませんから」
長い年月を生きている女王の言葉には重みがある。
親指の切り傷は魔法の軟膏によってすぐに治った。魔法薬は飲み薬だけだと思っていた俺としては、興味深く見えた。ファルエンケールを発つ前に魔法屋を覗いてみようかな? フィルへのお土産として買って帰るのもいいね。
儀式の後、女王とブラウニーの侍女二人、そして俺とハリスで城の地下奥深くに存在するという「鎮魂の間」と呼ばれる秘密の宝物庫へと足を運んだ。
幾重にも仕掛けられたセキュリティ系の魔法により、その宝物庫は
長い間、閉ざされていた宝物庫は埃だらけだったが、中には二人分の武具と武器、そして一つのインベントリ・バッグがあった。
「これが例の?」
「はい。魔神とタクヤの武具です」
「ふむ……少々拝見」
俺は二つの剣を手に取ってみる。
一つは大太刀だ。戦国時代に戦場で使われたような無骨な作りだが、素材はオリハルコンのようだ。両手持ちなだけあって、相当な威力に違いない。
もう一つは……
「うお。これ、グラムじゃん!」
「知っているのですか?」
グラムはドーンヴァースに実装されている剣の中でもトップ五に入る魔剣だ。トッププレイヤーが
「この剣はグラムと言いまして、ドーンヴァースでも有名な魔剣です。神が作り、英雄シグムンドが手にしたという伝説の剣ですね」
「その剣は魔神が使っていたものです」
魔神の方か。てっきりタクヤの愛剣かと思った。となると、あちらのオリハルコンの大太刀がタクヤの愛剣か。
続いて、鎧を検分する。
片方はフル・プレートメイル、片方は武者鎧だ。
フル・プレートはオリハルコン製の普通のヤツだ。
武者鎧の方は銘の付いたヤツだ。
舌を噛みそうな呪文のような名前だ。名前の後半部分から、どうみても直江兼続が着ていた具足名で有名だね。兜に「愛」ってあるし。
前の部分、「斑鳩」っていうと奈良だが、奈良の鬼が着ていたとでも言いたいのだろうか?
「もしかして、こっちがタクヤの?」
俺は武者鎧を指さして女王に聞く。
女王は無言で頷いた。
「うーむ。武器と防具がチグハグな強さだなぁ。レベルのバランスが取れてない感じ」
「どういうことですか?」
「こっちのグラムとフルプレートをセットにすると、武器が一〇〇レベル、鎧は七〇レベルといった所ですね。タクヤの方は武器が七〇レベル、防具が一〇〇レベルといった感じでしょうか」
シンノスケとタクヤは、グラムや武者鎧を見る限り、トップ・プレイヤーの域にいたと推察できる。
なのにシンノスケの防具はノーマルのNPCショップで手に入るものだ。逆にタクヤの武器はノーマルのショップ売り……
そこに何か意味があるのかもしれないが、俺にはその理由が全くわからない。
彼らにどんな意図があったのか……アースラに聞いても素直に答えそうにないしなぁ……
「謎は謎だけど、これらはティエルローゼではちょっと強力すぎますね。預からせて頂きます」
「そうして頂ければ、魔族に狙われることもなくなるでしょう」
女王が静かに頷く。
さて、こっちのインベントリ・バッグだが……
俺はタクヤのものと聞いているインベントリ・バッグに手を掛ける。普通なら持ち上げることすら敵わないのだが……
手にとった瞬間、微妙な違和感を感じたが、何故かすんなり持ち上げることができた。
「あらら」
俺はインベントリ・バッグを開けてみる。
インベントリ・バッグは何の抵抗もなく開く。
中にはタクヤが集めた様々なアイテムや武器、防具がギッシリ入っている。もちろん容量無限課金もされている状態みたいだ。
「すごいですね。私たちでは持ち上げることもできなかったのに」
女王は驚いた表情で説明してくれる。この宝物庫に収納するためにタクヤの遺体をここまで持ってきて外したのだそうだ。
ということは通常のインベントリ・バッグ同様の防御機能があったわけだ。なのに何故俺には無反応なのだろうか?
これも謎リストに記載しなければならないな。
「色々解らない事だらけですけど、この遺物たちは預からせてもらいます」
「よろしくお願いします」
城の地下を出て、俺とハリスは応接室を充てがわれたので休憩する。
「あの武具は……凄いらしいな」
「凄いね。俺もまだ手に入れられなかったヤツばかりだよ」
「別の世界の……」
「そうだ。ちょっとティエルローゼでは強力過ぎるね」
ハリスは頷く。
「そうだ、コレはハリスが使うといいかも」
俺はタクヤのインベントリ・バッグにあった武器の一つを取り出してハリスに渡した。
「これが忍者刀だよ。ミスリル製の中級武器だけど」
俺は興味がなかったので参加しなかったのだが、戦国イベントというのが開かれたときに配られた武器だ。ドーンヴァース製だけど中級のノーマル武器だし、ハリスに渡しても問題ないだろう。
「おお……これが!」
「うん。直刀に近いだろ? 足場に使ったりとか色々できるんだよね」
ハリスは忍者刀を鞘から抜いて、その刀身を眺めている。
「凄い……ミスリル製なのに……光を反射しないんだな……」
そりゃそうだ。
「忍者用だからなぁ。隠密行動中に刀が光を反射したらマズイじゃん。だから表面をマット加工してるんだろうね」
俺の解説を聞いてハリスは感心したように頷く。
ハリスが腰に刀を下げようとした。
「いや、忍者刀は腰じゃなく背中かな。そっちの方が格好いいよ」
そういって、背中に忍者刀を背負わせてやる。
「こ……こうか?」
「うん、バッチリ。トリエンに戻ったら忍者衣装も作るか」
「……頼む!」
了解。
俺としては、某有名アクション俳優がやってた時代劇「闇の軍団」みたいなのがいいなぁ。滅茶苦茶カッコイイじゃん?
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