第14章 ── 第12話

「ケントが……兵団の援軍だと……?」

「すまんな、ハリス。そういう事だ」


 ハリスの一人がそんな言葉を囁いたので、応えておく。


「手加減は無用だ。いつでも来い」


 俺の言葉にハリスたちの顔が引き締まる。


「一手……指南……頂く……!」


 四人のハリスが俺の前方にやってきた。他のハリスは影に消えた。


 前の四人が同時に攻撃してくる。


 俺は受け流しと回避スキルでその剣を弾き、そしてかわす。


 不意に俺の足が影から出てきた手で押さえつけられた。

 後ろから数本の剣が襲ってくるのを危険感知スキルが教えてくれる。


 八連の同時攻撃だな。


「千手防御陣!」


 カチリと頭の中に鳴ると共に、俺の両方の腕が分裂する。


 無数の手がハリスたちの攻撃を迎撃する。受け止め、払い、そして白刃取る。

 そして、無数の拳がハリスたちをぶちのめす。


 あ、手加減はしているので心配無用。


 それでも、吹き飛ばされたハリスたちのうち、半数が行動不能になり霞の中に消えていってしまう。


「ぐはっ……その技……見たこと無い……」

「新技だ。というか、今思いついた」


 ハリスの顔は少々絶望的な色を見せる。


「さ、さすがだ……アースラ神と……対峙しているようだ……」

「あそこまでの化物じみた強さは持ってないと思うんだけど」


 無数の腕が出た状態で、俺はハリスに迫る。


「くっ……」


 ハリスが何かボールのようなモノを取り出した。


 なんだろ?


 ハリスがそのボールを地面に投げ捨てると共に、ボールが爆発し閃光と白煙を周囲に撒き散らした。


「む!? 煙玉!? ますます忍者っぽい!」


 その煙の向こうから、咆哮のような唸りが聞こえてきた。


「ウォオオォォオオォォ!」


 あの声はダイアナだな。


 煙を引き裂くように、ダイアナ・モードのアナベルが躍り出てくる。


「打天連槌!」


 空中に飛んだ状態でスキル発動。その攻撃は小槌を手にしたマストールへと襲いかかった。


「不動受迎槌」


 ハンマーヘッドが複数飛んでくるのがマストールの技に似てるね。

 だが、そのハンマーヘッドの軌道が、マストールの小槌に吸い寄せられるように見えた。

 そして、その小槌が、アナベルのウォーハンマーの連打を全て受け止めてしまう。


 ありえねー。マストールがチートっぽい。


 ふいに、俺の横から何かが飛んでくる。左手でそれを掴むが何も掴んでいないように見えた。

 だが、掴んだ途端、ものすごい回転が俺の腕を巻き込み始める。


 お? トリシアのスキルじゃね? 何だっけ? 何とかバレットだ。


「くっ、これを止めるかよ」


 何とかバレットの旋風が白煙を吹き飛ばし、周囲の視界をクリアにした。

 見れば、トリシアが弓を構えていた。その横にマリスが白いオーラを纏ったショート・ソードを構えている。


「ぬふふ。ケントと剣を交えるのは初めてなのじゃ」

「お手柔らかに」

「いくのじゃー! スイフト・ステップ! チャージ・デストラクション!」


 マリスが複数に分裂したように見え、四人のマリスが回転しながら突撃してくる。


「うぉ!? マリスも分身の術!?」

「うぉりゃあぁぁぁぁ!」


 グルグル回るマリスの攻撃が俺に迫る。


「ぬう! 麻痺連弾パラライズ・ガトリング・ボルト!」


 俺は、自作の麻痺魔法を唱える。この魔法は通常の麻痺弾パラライズ・ボルトを機関銃のような弾幕として発射する魔法だ。避けようがないほどに大量に麻痺弾を打ち出すので、MP消費も激しい。


 無数の麻痺弾にマリスが突っ込む。


「ぎゃにゃーーー!?」


 マリスが麻痺弾に撃ち落とされ、一人に戻った。


空弾ブロー・バレットレイン!」


 しまった! マリスは陽動だ!


 無数の空弾ブロー・バレットが、俺やマストール、マルレニシアを襲った。


 周囲に突き立った見えない矢が猛烈な回転と共に、周囲に暴風を撒き散らした。


 俺自身は千手観音じみた無数の手で暴風を受け流して何の傷も追わなかったが、マストールとマルレニシアは吹き飛ばされて失神してしまう。アナベルが巻き込まれて同様に気絶していた。


「ふっ! 我々の勝ちだな!」


 トリシアがアダマンチウムの義手でガッツポーズを取る。


「う、う、う、動けないのじゃー」


 マリスが身体をピクピクさせている。

 影からハリスが何人か現れたが、すぐに一人に戻った。


「やられたー!」


 俺はバタリと地面に大の字になって寝転んだ。


 すげー。トリシアたちはすげーな!


「完敗だよ」


 俺のそばまで歩いてきたトリシアが俺の手を引っ張って起き上がらせてくれる。


「やはり連携が取れていないヤツは倒しやすいな」

射撃防御空間フィールド・オブ・プロテクション・フロム・ミサイルの効果時間が切れるの待ってたんだな」

「そうだ。あの魔法は一度見たからな」


 マリスに掛かった魔法の効果が切れ、マリスが起き上がった。


「やっと動けるようになったのじゃ」


 そう言ってマリスは、俺に飛びついていた。


「どうじゃ!? 我らの戦法は!?」


 自慢げに俺によじ登るマリス。今日は見事な戦術だったので好きにさせる。


「やられたよ」

「ふふん! これでケントに追いついたかや!?」

「いやー、俺はやられてないんだけどね」

「むう。まだまだのようじゃ」

「主要目標の防衛に失敗したんじゃ負けなんだけどね」


 気絶している三人をハリスが活を入れて起こしていた。


「あ、あら? 何で私は寝ていたのでしょう?」


 アナベルが地面に座り込んで周囲をキョロキョロと見渡している。


「うぐぐ、バカシアは加減を知らぬからたちが悪いわい」


 打ち付けた後頭部をさすりながらマストールが起き上がる。


「やっぱり団長にはかないません……」


 ショボンとしたマルレシニアが両手を突いてガックリしている。


「訓練終了!! ワイバーン・スレイヤー、ハリス・チームが勝利!!」


 無事だった兵団員の一人がそう叫びながら走っていった。


 こうして、兵団全体を巻き込んだ集団戦闘訓練は終わった。

 ハリスたちの勝利で終わったが、兵団員たちの顔に敗北による屈辱は見えなかった。


「良い体験をさせて頂きました」


 マルレニシアが嬉しげにテーブルに大量に置かれた俺の料理を食べながら言う。


 仲間の無茶な訓練に付き合ってもらったお礼に、駐屯地の食堂で兵団員たちに俺の料理を振る舞っている。

 カレーに天ぷら、トンカツなどは勿論、色々な料理を、これでもかと言うほど作りまくった。


 マストールは分厚い和風ステーキが気に入ったようで、大量の酒と共にガツガツと流し込んでいる。ちゃんと噛めよ?

 その横でアナベルが寿司をやっている。やはりイクラの軍艦をリクエストされた。

 マリスは何故か俺の膝の上に座って天丼を頬張っている。

 トリシアも久々の故郷だからか、したたか飲んで俺に撓垂しなだれ掛かっている。


 今回、俺が負けたせいで、何でも言うことを聞くという事にされてしまったからなのだが……後付ルールは困るなぁ。


「見たかよ! マストール! あれがケントの技だぞ!?」

「うむ。どうもワシの想像の上を行っていたようじゃ」

「ケントはあれでも手加減しているんだ。アルコーンとの一戦のケントは惚れ惚れする戦いを見せたんだぞ?」

「なんじゃと!? アルコーンなどと戦ったというのか!」


 あー、そこいらはマストールに話してないもんな。


「そうだ! それも単独で討ち果たした! 私の見込んだ男だけはあるだろ!」

「うむむ。凄まじいな。ワシらが倒したヤツも相当じゃったはずじゃが……」

「あんなものは雑魚だな。何せ亜神だぞ?」


 ふむ。トリシアたちが昔、キマイラを倒した話かな? 魔族も一緒だったらしいからね。どんな魔族だったのかは聞いてないから知らないけど、当時のトリシアたちにしたら化物レベルだったんだろうなぁ。


 ハリスを見ると、女性エルフの兵団員に囲まれていた。女性エルフたちの目は恋する乙女のようになってる。


 ハリス! モテモテじゃん! ま、ハリスは普通にイケメンだからなぁ。当然といえば当然なんだが。


 だが、ハリスは苦虫を噛み潰したような微妙な顔で四苦八苦している。彼も結構奥手だよね。ま、でも、ハリスにも春が来たようで何よりですなぁ。


 こうして夜は賑やかに深まっていく。

 いつ終わるともしれない宴は楽しく、いつまでも続いた。

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