第13章 ── 第18話
晩餐会から帰り、放ったらかしだったレベッカに食事を取らせたりしていると、本日家臣に加わった貴族たちがやってきた。
総勢八名。
行政副長官としてソリス・ファーガソン准男爵。
その部下として、オットー・セネール男爵、ジンネマン・ポーフィル准男爵。
ゴーレム部隊の部隊長として二名、子爵家次男カイル・ロッテル、および、エルネスト・フォフマイアー子爵。
エマのお付きの侍女として、子爵家息女フィリア・メイナード。
行儀見習いのためのメイドとして二名、男爵家息女バーバラ・シルレット、および、子爵家息女ネリス・シャーテンブルク。
「本日より家臣として仕えてもらうことになりますが、初めに、言っておくことがあります」
俺は彼らの前を歩きながら言う。彼らは少々緊張気味のようだ。
「俺は実力主義です。能力の無いものが俺の名を笠に着て威張るような事は許しません。それと、男爵やら准男爵、子爵など自分の爵位で相手と張り合うような事も禁止です」
一人一人、顔色を確認するが意味が解らないとった顔の人物はいないようだ。そんな人間なら面接時に落としているしね。
「それと、当家の館に……時々ですが素性の解らないものが出入りすることがあります。隠しておくと問題になるかもしれないので教えておきます」
俺は少し間を開けて話す。
「当家の館に来るそういう方たちは、神様の事があるので怒りを買わないように気をつけて下さい。神罰は受けたくないでしょう?」
俺の言葉を流石に理解できないものも現れる。
「閣下……それは文字通り……神界の神と……言うことでしょうか?」
ソリス・ファーガソン准男爵がみんなを代表してといった感じで質問してきた。
「そうです。神界の神様です。現在、当家に滞在中の神が二柱おられます。一人は英雄神アースラ。見た目ただのオッサンですが。
もう一人は料理の神様らしいですね。ヘスティアさんと言います」
数人がとんでもない貴族に仕えてしまったという顔になっている。
「あ、今から家臣になるのを辞退してもらっても結構ですよ? その代わり、ここでの話は全て、魔法で忘れて貰いますので」
俺は精神操作の魔法が使えるので楽勝です。
少々考える時間を与えたが、誰も辞退を申し出なかった。覚悟は出来たということだろう。
「辞退者がいないようなので話を進めます」
「まず、俺に仕えるわけですから報酬はしっかり支払います。それと住まいや当面の生活費は最初に支給します。せっかく働いてもらうんですから困窮されては俺の名誉が傷つきますからね」
ブラック企業と言われるのは心外ですから。
この時に、それぞれの給料額について話しておく。相場より少しお高めにしておきますかね。
「それと休暇ですが、基本的に週休二日です。祝日も勿論休みにしますよ。それと、年に一〇日の有給休暇を支給します。この休暇は何に使っても、いつ使っても結構です。休む前日までに有給休暇の申請を上司にしてください」
ここまで説明した段階で、新しい部下たちがポカーンとした顔になっているのに気づいた。
なんかマズイ事話したっけ?
「ん? どうかしたかな?」
ここで口を開いたのはソリス・ファーガソンだ。なかなかリーダーシップを発揮しているね。
「あの、その制度はトリエン領全土で取り入れられているものなのでしょうか? 他の地域では聞いたこともありませんが……」
「いや、俺の部下だけですね。効率良く働いてもらうためには、適度な休暇と適当な給与が基本だと思うけど? 忠誠心だけで働かせても問題あると思うし」
ファーガソンたちは、昔ながらの貴族家に仕える気でいたんだろうけど、もうちっとシステム的に管理した方が楽ちんだと俺は思うわけです。
「さて、説明が途中ですが。年に二回賞与を与えます。これは働いてくれていることへの俺からの感謝みたいなもんです。一回につき、
ファーガソンたちは何も聞き返してこなかったが、ずっとポカーンといった感じは否めません。
「さて、続いて」
「ま、まだあるのですか?!」
慌てたようにファーガソンが言葉を挟む。
「え? もうお腹いっぱい?」
「え、ええ。そんな感じですが……」
「うーん。次は福利厚生についてなんだが……まあ、後で書類で渡すほうが良いかな?」
「福利厚生とは何なのでしょうか?」
良い質問だ。
「うん。例えば、君たちが病気や怪我をした場合の事が主なんだけどね。大病を患ったり、働けないほどの怪我をしてしまったら……トリエン地方はもとより、俺は大変困る事になります」
ファーガソンたちの顔色が曇る。
「そうなっては……お役御免ということに……」
「は? 何を言っているの? そんなことはしません! 勿体無い。
いいですか。人とは宝です。働いてもらってこそ価値が発揮されるというもの。使えなくなったからと捨ててしまっては、黄金を底なし沼に捨てるようなもんです。
そのような病気や怪我になったら、速やかに治療や療養をしてもらい、治った早々に仕事に復帰して頂く。これが俺の考えです。そのための費用が掛かるのも解ります。貴方たちが負担するのはその費用の一割で結構」
ファーガソンが困惑する。
「の、残りの費用は……」
「当然、俺が払います。ついでに、これは君たちが養っている家族にも適用しますから安心してください」
全員の顔が一体何を言っているのかわからないというものになっている。
「それと、どこかに別荘などを建てたいですね。俺も含め、部下たちが休暇で使えるような感じの。年に一回は慰安旅行とかもしますよ?」
俺はまだ何も用意できていないので、このくらいにしておく。
「とまあ、これが福利厚生といった事です。俺の元で働いてもらう以上、これくらいはさせてもらいますよ」
俺はみんなの顔を一つ一つ見ていく。
「何か質問はありますか?」
「私の母の病も負担頂けるということでしょうか……」
ああ、園遊会で言ってたね。
「どのような病だか知りませんが、当然、俺が九割り負担しますよ。別に不治の病って事じゃないんでしょ?」
「はい。何か体の中にデキモノがあるとか……」
ガンですかね?
俺は確認のため、アナベルの方を見る。
「そういう病は魔法で治りますよー」
俺の視線を感じてアナベルがのほほんとした感じで応える。
「いや……しかし、神殿で治療して頂くには相当なお布施が……」
「いくらくらいかな?」
「金貨二〇枚とかですねー」
マリオン神殿の相場だとそんなものらしい。
「そんなもん? 日本円でいくらくらいなんだろ? でも現実のガン治療の金額より遥かに安いのは確かだね」
「ニホンエン? ガン治療?」
ファーガソンが何のことか解らないといった顔だ。
「気にするな。時々あるケントの素敵用語じゃ。気にしていては身が持たんぞ?」
ソファに寝っ転がって寛ぎ気味のマリスからのアドバイスが飛ぶ。
貴族の面々の前で、その態度。躾がなってないと思われそう……
「あ、彼女は自由な種族なので気にしないように」
「なんじゃ、ケント。その言い草は。まあ確かに我の種族は自由が売りじゃがなー」
ソファの上をコロコロと転がるマリスは自由以外の何ものでもない。
「あんまり固くならないほうが良いわね。ケントは元は冒険者だし」
お茶を嗜みながらエマも言う。
「あ、彼女は俺の主席魔法担当官のエマ・マクスウェル女爵です」
「よろしくね」
「で、こっちの自由なのがマリストリア。俺の護衛担当?」
「なんじゃ、その尻上がりの言動は些か微妙に聞こえるのう。我はケントの盾じゃからな!」
俺は苦笑気味にトリシアも紹介しておく。
「こちらのエルフがトリシア。俺の主席副官ですね」
トリシアがヒラヒラと義手を振っている。
「トリ・エンティルと言った方がわかりやすいですよねぇ」
新人たちはコクコクと頷いている。
「それと……」
俺はハリスの方を見る。カーテンの影にいるので誰も気づいていないのが困る。
「そこのカーテンのところにハリスがいます。彼も……護衛なの?」
俺はハリスに声を掛ける。
影からフラリとハリスが出てくると、ファーガソンたちが驚いた顔をする。
「俺は……ケントの後ろを……守っている……」
そういうとまたカーテンの影に入ってしまった。
「そういう事みたいです」
俺は苦笑気味に言う。
「そして、こちらの
「アナベルなのですよ! ケントさんの
それじゃ良くわからないよ? つーかトリエン地方の業務とは関係ない人ではあるな。
「彼女はトリエンのマリオン神殿のために移住してきた帝国の人ですね。貴方たちの業務に関係はないと思いますが、俺の冒険者チームの一員なので顔は覚えておくといいでしょう」
「妹弟子なのです!」
そこ重要な所? 重要だから二度言ったの?
「とまあ、一癖も二癖もある仲間ですが、良しなに」
俺は苦笑気味ながら締めくくる。
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
ファーガソン准男爵が頭を下げると、他の七人も
こうして、俺の家臣団が出来上がったというわけだ。
彼らには、支度金などを渡し、速やかにトリエンに移住する手はずを整えてもらうことにする。
一週間から半月くらいでトリエンに着任できるだろう。
トリエンに来たら頑張って仕事をして欲しい。期待しているよ!
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