第13章 ── 第11話

 久々にみんなで冒険者ギルド本部へと入る。


 王国のギルドは前にも増して盛況な印象を受けた。前回来た時よりも冒険者の数が増えているような気がする。


「帝国の冒険者組合よりも大きいのです」


 初めてのアナベルはキョロキョロと周囲を見ている。


「俺も二度目だけど、前より冒険者の数が増えているような気がするよ」


 マリスとハリスも頷いている。


「確かにの。各地の冒険者どもが押し寄せている感じじゃな」

「密度が……高いな……」


 帝国の組合本部には魔族の情報を聞いて駆けつけた冒険者たちが来ていたが、王国のギルド本部はその数を遥かに上回っているといった風情だ。


 冒険者が待ち合いに使うテーブルも殆どが埋め尽くされているので、その一つのテーブルに集まっている冒険者たちに俺は話しかけてみる。


「前回来た時より冒険者が多いみたいだけど、何かあったの?」

「お前さん、ギルド本部に来るのは久しいのか? トリ・エンティルが復帰した今、本部では彼女会いたさの冒険者が増えているんだよ」


 ほう。そうなのか。


 俺はトリシアの方を伺うと、彼女と目があう。トリシアはそれを聞いて肩をすぼめる仕草をする。

 トリシアが復帰したのは、もう一ヶ月以上前なのだが、俺にとっては今更感が半端ない。


「そのトリ・エンティルだが、何でも別の冒険者のチームに所属しているって言うぜ? あのトリ・エンティルを従えるなんて、いったいどんな冒険者なんだろうな?」


 その冒険者は俺に向かってヒソヒソと言う。


 こいつもトリ・エンティル狙いの冒険者じゃんかよ。


「どうなんだろうね? 実際は普通の冒険者なのかもしれないよ?」


 俺は、とぼけて言ってみるが、冒険者は首を横に振る。


「そりゃ無いだろ? きっと物凄い巨漢の凄腕に違いないぜ」

「あのトリ・エンティルの頭だからな。巨漢はともかく凄腕に違いないさ」

「いや、でも、そんな凄腕なら今まで何で噂を聞かなかったんだろうな?」

「大陸の西の方から流れて来たとかいう噂も聞くよ。西の方なら俺たちの知らない冒険者も居るだろ?」


 テーブルにいた彼ら冒険者が一斉に話し始める。


「あんたも、そんな噂を聞いて来たんじゃないのか?」


 最初の冒険者が俺を見上げる。


「いや、俺たちは帝国で一仕事終えてきたんでね。それの報告さ」

「帝国か。王国にとっては敵国にあたる土地だろ? なんでまた?」

「色々あってね。一ヶ月ほど行って、最近帰ってきたばかりだよ」


 冒険者同士だから深く聞いてこないので助かる。


「帝国にも美味い仕事があったか?」


 彼の仲間からも質問される。


「そうだな。貿易都市付近ではリザードマンが出没しているらしいね。それの討伐に冒険者が駆り出されているなんて話があったよ」

「リザードマンか。王国ではあまり見ない種族だな……」


 俺は話を適当に切り上げ、彼らに別れを告げた。


「情報が遅いな」

「魔法通信で繋がっているギルド間ならともかく、冒険者の噂なんてこんなもんだろ?」


 なるほど。以前、ここで魔法通信の会議を見たことがあったけど、トリシアの言う通り、あれを前提として考えてはダメだな。

 こと通信事情に関しては、中世ヨーロッパとかアメリカ開拓時代とかで物事を考えなければならんな。


「ほんじゃ、今回の報告と行きましょうかね?」


 俺はメンバーを見回す。


「行こうかの?」

「ふむ……」

「ワクワクですね!」


 みんなを連れて、空いている隅っこの受付に向かう。


 向かっている最中、いくつかの冒険者チームが俺たちの姿を認めて目を見開いたのに気づいた。彼らは以前、俺たちを見たことがあるのかもしれない。


「冒険者ギルドにようこそ! ご報告で……す……かっ!?」


 受付の前まで来ると、女性職員がニコやかな顔で対応を始めたが、語尾が珍妙な感じだな。舌でも噛んだかな?


「ガーディアン・オブ・オーダーの方々ですね!?」


 名乗る前にチーム名を言われた。女性職員は顔を高揚させ、やたら声が大きくなっている。


「そうだけど……色々報告したいことがあったので出向きました」

「はいっ! 少々お待ち下さいますでしょうか!?」


 俺が頷くと、女性職員は奥の方にすっとんで行ってしまった。


 隣の受付にいるチームが俺たちの方を怪訝そうな顔をして見ている。

 となりの受付も俺たちの方を見て顔を高揚させているような気がするが気にしないでおこう。


 奥の方で受付の女性が上司に何やら大きなモーションで喋っているのが見えたが、その上司らしい男性職員の顔色も変わって、上司さんも奥にすっとんでいった。周囲の机で仕事している職員たちの目線が全部こっちを向き始めている。


 事務所内の職員の手が全部止まってしまった。そして総立ち。


 何なんだよ。


 上司さん職員が奥から戻ってきて受付の女性を連れて俺たちの方へとやってきた。


「ようこそいらっしゃいました、ガーディアン・オブ・オーダーのみなさん。会議室でギルドマスターがお会いしたいと言っております」

「そうなの? 以前の所だよね?」

「左様でございます」


 受付の女性職員が慌てて案内をしようとしたが、俺はそれを制する。


「あ、場所は解るんで」


 俺たちは以前、案内された会議室に歩いていく。


 会議室は以前と変わらない。

 誰の案内も請わずに来たせいか掃除している最中だった掃除のおばちゃんが俺たちの姿を見て慌てたように部屋から出ていった。


 仕事の邪魔してごめんなさい。


 壁際の長椅子にみんなで座っていると、上級職員らしい男性とギルドマスターであるハイヤヌス老人が入ってきた。


「帝国から戻ったようだな?」


 俺たちの姿を見たハイヤヌスが開口一番言う。


 俺たちが帝国に行っていた事をよく知ってるな。


 俺の不思議そうな顔を見て、ハイヤヌスがニヤリと笑う。


「その程度の情報は貴族たちの方から流れてくる。驚くほどの事じゃあるまい」


 確かにここは王都だし、無役ながら冒険者貴族と言われている人もいるらしいし、情報が回ってきても不思議じゃないか。


「で、今日は何の用だ?」

「帝国で色々あったんで、一応、報告しておこうと思いましてね」

「ほう。聞かせてもらおうか」


 俺は帝国で起きた魔族による事件を報告する。


「魔族か……ここの所、魔族の出現などという事件は起こっておらんかったのだがな」

「ただの魔族じゃないぞ鼻垂れ。敵はアルコーンだった」

「なんだと!?」


 ハイヤヌスが椅子からすごいスピードで立ち上がる。年齢を感じさせないその動きに長年凄腕の冒険者としてならしてきたギルドマスターのレベルの程を感じる。といっても彼はレベル三九なんだけどね。


「アルコーンの死体は帝国の魔法省が回収してしまいましたので証拠として提出はできないんですけど」

「バカシアの言葉だ、疑いはしない」


 少々落ち着きを取り戻したハイヤヌスが再び椅子に腰を下ろした。


「で、まあ、証拠ってわけでもないですけど、アルコーンが連れていたキマイラの死骸ならありますよ」


 俺はインベントリ・バッグからキマイラの死骸をハイヤヌスの前に取り出して置いた。


「おお……これはまた、以前トリシアたちと倒した奴よりもデカイようだな」


 さすがのハイヤヌスも驚きの顔を隠せない。横にいた上級職員は顔面蒼白なのが対照的だね。


「ということで、帝国の冒険者組合には報告したんですが、そこで昇格人事を受けたんですよ」


 俺たちの昇格について詳しく説明する。ついでにアナベルのチーム入りについても報告をしておく。


「その昇格については問題ない。私の方で追認しておこう。しかし、冒険者ハリスと冒険者マリスのランクには少々思う所があるな」

「なんじゃ!? もっと低くせいと申すのかや?」


 マリスがガルルルといった感じでハイヤヌスに食って掛かりそうになる。俺は慌ててマリスを後ろから抑える。


「いや、何でお主らもオリハルコンにせなんだのかと思うてな」


 マリスはそれを聞いて体の力を抜いた。


「そうじゃろ? 爺は物事を解っておるのう」


 正当な評価を受けてマリスは一瞬で機嫌が直った。


「こういう力のある者たちには、一番くらいの高いのを与えて責任を背負わせるのが物事を上手く回すコツなんだが」


 そりゃ随分短絡的だな。そいつらが責任を全うできなきゃどうするつもりなんだろうね? ギルドの威信とか色々傷つきかねないと思うが。


「なに、全うできぬ者は居なくなるだけだ。怪物に食われるか……あるいは……」


 ふむ、そういう考え方もあるか。つーか、この爺、なんで俺の思ってること言い当てるんだよ。神さまみたいな真似するな。まあ、そんな感じの表情が俺の顔に出てたんだろうけど。


「新しい仲間である冒険者アナベルの噂は、この王国にも響いておるし……そうだな。特例だが」


 そう言って、上級職員の男性にハイヤヌスは目を向ける。男性職員は一つ頷くと俺たちの方へ向く。


「ガーディアン・オブ・オーダーのメンバー、ハリス、マリス、そしてアナベルの三人は本日の報告を以てオリハルコンへの昇格を認めます。また、帝国での昇格手続きを確定させるためにも、チーム全員が受付にて昇格手続きを行って下さい」


 ハイヤヌスが上級職員の言葉に無言で頷いた。


「オ、オリハルコン……?」

「爺、見る目あるのう」

「ほえー? ここでも昇格するんですか?」


 昇格を言い渡されたみんなもビックリの展開です。


「随分と気前がいいじゃないか、ハイヤヌス」

「何、お前らはとっととオリハルコンに上げておくのが得策というものだろうが」

「ふん。当然だな。魔族との一戦を悠々と生き延びたんだからな」


 ハイヤヌスとトリシアが納得顔で話している。


「オ、オリハルコン……」


 ハリスが壊れたレコードみたいになってる。


「これでとうとうトリシアに追いついたのじゃ! ケントに追いつくのもそのうちじゃぞ!?」


 いや、マリスさん。ランク同じになったんだから追いついて居ますが?


「マリオンさまに感謝を! ここからは自分を律してさらなる精進を!」


 天に祈るアナベルが嬉しげにひざまずいている。組んだ腕に潰された巨乳に目を奪われそうです。


 なんか、とうとうオリハルコンだけのチームになってしまった。

 確かに初めて会った時のトリシアよりレベルが高いやつらばかりだし当然なんだろうけど。

 これはまた昇格祝いの宴会開かなきゃならんかね?

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