第13章 ── 第10話
順次、娼館を潰していく。
娼婦や娼館の客どもが悲鳴を上げながら逃げ出していくが、全部無視。もっとも小脇にレベッカを抱えた俺に近づいてくるのはギルドの構成員しかいないので敵の殲滅を大マップ画面に頼る必要もなくて楽だね。
盗賊ギルド所属の娼館を全て潰し終わり、他のアジトに続く地下道を進むことにする。
所々に盗賊特有のトラップが仕掛けられていることもあったが、危険感知スキルに反応するので周囲を調べるとすぐに発見できた。
罠の解除を試みている時にカチリと音が鳴った。罠感知スキルをゲットする。解除スキルは既に持っているわけだが、三レベルだったスキルが六レベルまで上がっていた。
通路の所々で盗賊ギルド員に出会うが、マリスが簡単に蹴散らしてしまうので俺の出る幕がない。
他のアジトあたりでは衛兵隊の突入による戦闘に出会うこともあり、俺も手を貸すが、俺の戦闘を見ると衛兵隊たちも恐怖を浮かべた顔になっていた。
まあ、手加減なし、一撃で両断していくんだから仕方ない。
ほぼ半日で盗賊ギルドは壊滅してしまった。割りとあっけなかったな。
門外街のアジトに向かう地下道でトリシアたちと合流できた。
「おう、そいつが盗賊ギルドの首領か?」
「そうらしいね」
俺が小脇に抱える女をみたトリシアが面白そうな目を向けてくる。
「それ、どうするんだ?」
「なんか盗賊ギルドに協力する貴族だとかなんとか言ってたんで生かしたまま連れてきたんだけどね。そういや、捕まえてた
「死んだ……」
ハリスが短くそう言う。まぁ、当然だろうな。
「なんか自分から敵の攻撃に当たりに行ってましたがー」
アナベルが顎に指を当てて怪訝な顔をしていた。
「自殺したんだろ。自暴自棄の為せる技かなぁ」
「こいつは悲鳴上げてただけだけどねぇ」
俺がレベッカを見下ろすと、彼女は恐怖の色を浮かべた目をして俺を見ていた。
「何にしても三〇レベル程度がボスじゃなぁ。経験値の足しにもならないな」
衛兵隊たちが集合している場所に俺たちは向かい、衛兵隊を率いていた隊長たちと合流する。
「クサナギ辺境伯閣下! お疲れ様でございます!」
「あ、うん。簡単な仕事に付き合って貰ってありがとうね」
「ははは……簡単ですか……」
衛兵隊の隊長たちは苦笑いしながら顔を見合わせている。
「一応、こいつが盗賊の
「はい! 他の生き残った盗賊どもは私たち衛兵隊で処分してよろしいですか?」
「問題ないよ。その方が俺も助かるしね」
俺はウィンクして見せる。
衛兵隊長たちがホッとした顔をする。彼らも手柄を立てた証拠が必要だろうしね。
そういや、首領がいたんだし、あの館が総本部ってことだったのかも。俺はトリシアたちも連れてあの娼館に戻る。
あの娼館群の周辺にたむろしていた娼婦たちの姿は跡形もなく消えていた。
ガランとしている娼館の最上階に上がり何か出てこないかと漁り始める。
しばらく漁っているとハリスが隠し部屋を発見した。
「でかしたハリス!」
その部屋は盗賊ギルドと関わった顧客のリストや仕事の一覧、依頼書などが大量に保管されていた。
もちろん、盗賊ギルドの蓄えたお宝も一緒だ。しめて金貨一〇〇〇〇枚ほど。
とりあえず手当たり次第インベントリ・バッグに収めておく。金銭などは後でミンスター公爵にでも渡しておこう。
後の事は衛兵隊に全てを任せて宿に落ち着く。
「みんな、今日はお疲れ! じゃんじゃん食ってくれ」
いつものことだけど俺の
肉やら何やら大量に頼んで食い散らかし、そのうち宿の他の客も巻き込んで大宴会になった。
それでも費用は金貨一枚にも満たなかったのが笑える。
その夜、手に入れた依頼書や顧客一覧を調べていて判明したことがある。
俺の暗殺を依頼した人物のことだ。
その名はアルベール・ロスリング。
そう、あの俺を王都へ
他にも様々な貴族の名前があり、ドラケン領に属する貴族も数名いるようだ。これはミンスター公爵も頭が痛いことだろう。
他の貴族が治める領地や街の別の盗賊ギルドとの関係なども色々出てきて、こりゃ王国の掃除は大変そうだなぁと思い始めた。
幸い、トリエン地方は人口が少ないのも相まって、盗賊ギルド的なものは皆無のようで安心しておく。
朝目を覚ますと、俺の横にトリシアの顔があった。
「ひょわぁあ!?」
俺は飛び起きて慌てて後ずさる。
すると何か布団とは違う柔らかいものが突いた手の下にある。
「あん……」
そんな声で下を確認すると、手のしたに巨乳が二つ鎮座していた。
「ぬわわわ!?」
慌てて立ち上がると、俺の下半身に小さいのが抱きついて寝ていた。
「こらー! トリシア! アナベル! マリス! なんで俺のベッドに潜り込んでいるんだ!?」
俺の大声に三人が目を覚ます。
「なんだ?」
「んー?」
「うるさいのう」
目をこすりながら三人は不平を漏らす。
「なんで三人が俺の部屋にいるんだ!?」
「なんでって……なぁ?」
「そうじゃぞ? そこの長椅子に転がっている女と二人っきりなど許さんのじゃ」
マリスが指差す先にはレベッカが毛布に包まれてソファに転がされている。
「はーい。ハリスさんに鍵開けてもらって潜り込みましたぁ」
ニコニコのアナベルが手を上げて嬉しげに白状する。ハリスの兄貴……いつの間に……
「俺が盗賊の首魁と何かするとでも思ってたのかよ」
信じて貰えないなんて俺は悲しいよ!
「まあ、そういう趣味の奴もいるからな。ケントがそうだとは思わんが、万が一も考えておかねばな」
「そうじゃそうじゃ。男は狼とかいうのを聞いたことがあるのじゃ」
「ケントさんは狼男さんだったのですか?」
一人マヌケな事を言っているのがいるが気にしないでおこう。
「ま、確かに二人きりは迂闊だったかな。心配掛けて悪いね」
「ん。わかればいい」
「ケントは我の嫁じゃからな!」
「マリオンさまの
こう女性陣が露骨に攻めてくると、俺もタジタジですよ。
こんなにモテたのは初めてなので俺も困ってしまいます。
「とりあえず、俺は着替えるからみんな出ていってよ!」
「別に構わんのにのう」
マリスが指を咥えている。それを見たトリシアが同じ様に指を咥えてマリスの横に立つ。アナベルは良くわからないといった感じだがトリシアの横に立つ。
「いいから!」
俺は彼女らを部屋から追い出す。
まったく、困ったものだ。
俺が着替えていると、レベッカの目が開いている。
「なんだよ」
「い、いや……こんな奴らに我々が潰されたのかと思ってね」
憎々しげに思っているのが見え見えだが、諦めの色の強い表情でレベッカがそんな事を言う。
「当然だろ。あのエルフはトリ・エンティルだぞ? 彼女一人にだってお前らは勝てないだろ。
それに、あの小さい子だってトリシア程度のレベルだ。お前らごときじゃ無理無理」
それを聞いたレベッカが何かを納得したような顔をする。
「なるほど……勝てないか……」
今度こそ完全に諦めたといった声色になる。
「そういうことだ。解ったら洗いざらい全部吐くんだな。ま、昨日、書類に全部目を通したから、後援の貴族とか色々解ったけどね」
「それじゃ、私の利用価値なんて無いんじゃないのかい?」
まあ、そうだけど。折角だし生かしておいてやるよ。
「ドラケンの領主、ミンスター公爵への手土産にでもするさ」
「そうかい……」
レベッカはそう言うと二度と口を開かなかった。
朝早く宿を出て馬車を飛ばしていく。
王都に到着したのは昼になる頃だった。前回泊まった「黄金の獅子亭」に部屋を取った。
昼飯を簡単に済ませた俺たちは、一度部屋に集まった。
「さて、これからどうするかな?」
「明日、王城へ向かうんだろ? ゆっくり休むべきじゃないのか?」
「いや、一応、王国の冒険者ギルドにも報告が必要かと思うんだが?」
俺がそう言うと、トリシアも考えたような顔になる。
「それもそうだな」
「なんじゃ? ギルドにいくのかや?」
「王国のギルドは初めてなんですけどー」
そういやアナベルは王国のギルドは初めてか。これは挨拶をさせてやらねばならないな。
ということで、午後一で王国の冒険者ギルド本部に顔を出すことにする。
以前行ったことがあるので道も解るしな。ここからすぐだし。
レベッカは一人では動けないので、昼飯を俺が食べさせてやらねばならなかった。
なんか子供の世話をしている気持ちになってきたが、一応絶世の美女なのでちょっと困る。
俺の作ったカツサンドを食べさせると、夢中で食べ始めた。途中喉をつまらせたりして、慌てて水を飲ませたりする。
ま、女といっても男と変わりない。そう思うことにする。
レベッカの世話も終わったので、みんなで宿を出る。今回もエマは留守番だ。
「ちょっと研究したいから、私は留守番よ!」
留守番をありがたがる子供は楽でいいけど、少々寂しい気もするんですが……
何はともあれ、ギルドが先だな。
昇格とかはないと思うが、帝国の冒険者組合が決定したランクを覆すことはないだろう。そのまま王国でも承認されるだろうな。
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