第13章 ── 第9話

 ドラケンに到着したと同時に俺たちチームは行動を開始する。

 エマは冒険者でもないし、宿でお留守番だ。


「ま、気をつけてね」


 したい研究とかもあるそうなのでエマは大人しく言うことを聞いてくれる。


 今回はアジトの場所に捕虜の暗殺者アサシンが案内してくれるので楽ちんだ。


 もっとも、アジトは一つではないし、それぞれが地下で繋がっているらしいのだが、アジト数が数十箇所も点在しているため、衛兵隊の力を借りることにする。


 領主であるコーネル・ミンスター公爵は既に王都に滞在中らしく不在であったが、以前、盗賊を引き渡した時に立ち会った衛兵隊の責任者に顔が知れていたので、協力を取り付けるのは簡単だった。


 もっとも、貴族旗を上げている馬車の人間にとやかく言う衛兵は誰も居ないし、新興貴族の俺の貴族旗はドラケンでも知られ始めていたし、領主が懇意にしているのも相まって何の支障もなかったと言える。


 今回は数が多いので、大規模なアジトを俺達が、小規模のアジトは衛兵隊と割り振った。


 大規模なアジトは二つある。街の中央に位置する娼館群がその一つで、街の外の門外街にも一つある。


 娼館群担当は俺とマリスで行くことにする。門外街にはトリシア、ハリス、アナベルの三人だ。

 レベル的にもバランスが取れるだろう。

 捕まえた暗殺者アサシンは門外街組に付ける。俺の方は大マップでアジトの位置がおおよそ確認できたからね。


 ちなみに、現在のパーティのメンバーそれぞれのレベルだが、帝国から帰って来た時に調べたら、とんでもない事になっていた。

 トリシアはレベル五五、ハリスはレベル三九とレベル二八、アナベルはレベル四二、マリスはレベル四三だ。

 ハリス以外は、初めて会った頃のトリシアを超えてしまっている。ハリスはマルチ・クラスなので若干上がりが遅いのは仕方ない。それとアースラが言っていた通り、暗殺者アサシン忍者ニンジャに変わっていた。

 俺はというとレベル八一になっていた。やはり亜神クラスの奴を倒すと上がりが違うね。



 さて、娼館はいくつもあるが、それぞれが地下で繋がっているのは同じようだ。

 大マップ画面で詳細な地図を確認しておく。娼婦が相当数存在するが、それ以外の用心棒などは全部盗賊ギルドの関係者らしいな。


 盗賊ギルドのメンバーはおよそ六〇人。一番レベルが高いのがレベッカ・ポートランドでレベルが三〇もある。職業が暗殺者アサシンな所を見ると、例の見えざる手のリーダーと言ったところだろう。

 さらにレベル二〇台は二~三人、それ以外は全部一~二〇レベル内に収まっている。


「どうじゃ? どこから行くのじゃ?」


 俺がマップ画面を確認しているのを察したマリスが俺の顔を覗き込んでくる。


「そうだな。あの店が良さそうだぞ」


 俺はレベッカ・ポートランドがいる娼館を指差す。


「ん! 随分大きいのじゃな」

「ま、ボスっぽいのがいるから、一番最初に頭を取っちゃおうかと」

「それは簡単じゃな! なんなら炎の魔神でも呼び出して焼き尽くしてしまえばもっと楽じゃぞ?」


 ぐほ。バイオレンス過ぎるよ、マリスさん。


「そんな事したら周りの関係ない人まで死んじゃうじゃんか。ダメ、ゼッタイ」

「じゃ、ちまちまやるしかないのう」

「そうだな。それと、娼婦たちは殺しちゃダメだよ」

「ふむ。娼婦とは金のために身体を売る女どもじゃな?」

「そんな感じかね? 見た目が派手でエッチなのはみんなそうだろうな」


 マリスはウンウンと頷くと盾を背中から下ろし始める。


 よし、それじゃ行きますかね。


 娼館の入り口に近づいていくと、色っぽいお姉さんたちが俺に近づいてきたが、マリスの姿を見るとピラピラと手を振って離れていった。


 子連れ冒険者に見えたのかな?


 娼館の入り口に立つと、娼婦たちが奇異の目を向けてきたが、俺は構わず扉を押し開ける。


 中は酒場のような感じだが、受付カウンターのようなものがあるので、その前に立つ。


「いらっしゃいませ」


 受付のやはり色っぽい格好のお姉さんがニコやかに対応してくれるが、盾を構えたマリスを見て少々顔を引きつらせる。


「お子様をお連れの方は少々……」


 言いたいことは解るが、俺らは客じゃないんでね。


「いや、別に女を買いに来たわけじゃないんだ」


 それを聞くとお姉さんが首を傾げる。なかなか可愛らしい。


「えーと、レベッカ・ポートランドさんに会いたいんだけど?」


 俺がそういうと、お姉さんは怪訝な顔をする。


「当館の主人とお約束がおありですか?」


 ほう、そのレベッカというのがオーナーなのか。


「いや、アポイントは取ってないが、ケント・クサナギが会いに来たと伝えて欲しいんだがね」


 お姉さんは怪訝そうなままだが、英語が解らなかったのかもしれない。


「確認させていただきますので、少々お待ち下さい」


 そういうと、お姉さんは奥の階段を登っていった。


 しばらく待つと、五人ほどの男を連れたこりゃまた派手でエロい格好の美女が現れた。


「これはこれは、ケント・クサナギ辺境伯閣下。ようこそお出でくださいました」

「あ、ども……」


 俺はファルエンケールの女王クラスの美女が現れたのでドギマギしてしまう。それが露出度の高い服なもんで、余計そうなってしまった。


「こんな所は何なので、私の部屋で接待させていただいても?」


 挑戦的な笑みを浮かべたレベッカ。

 なるほどね。


「あ、そうしてもらえます?」


 俺の命を狙っているギルドの幹部だろうから、その誘いに乗っておくか。


 マリスはフンフンと鼻を鳴らし、顔を高揚させている。いつ暴れだしても可笑しくない状態だ。


 俺とマリスはレベッカと男たちに案内されて館の三階の一室に通された。


 綺羅びやかな部屋は女性特有の雅さが感じられ、いい匂いが漂っている。

 促され、マリスと共にソファに座る。対面のソファにレベッカが優雅に座った。

 男たちは俺らのソファの後ろにズラリと陣取っている。


「新興ながら国王陛下から信の厚い辺境伯閣下に、私どもの店に足を運んで頂きまして光栄でございます。それで、本日はどのようなご用件で?」


 レベッカが目を閉じて頭を下げた。


「えっと、一ヶ月以上前ですが、俺は命を狙われましてね」

「まぁ」

「んで、昨日の夜も狙われたんですよ」

「大丈夫なんですか?」

「ええ、返り討ちにしてやりましたよ」


 レベッカの表情は本当に驚いたような印象を受ける。なかなかの女狐だな。


「それで俺の方も流石に頭に来たので、この際だから盗賊ギルドをこの世から葬ってやろうかなってね」


 そう言った瞬間、後ろにいる男たちがあからさまな殺気を帯びる。


「ほほほ、盗賊ギルド? 何のことでしょう? そのようなものがこのドラケンにおありとでも?」


 レベッカが手を口に当てて可笑しげに笑い始める。だが、その目は全く笑っていない。


「あるよ? ここがそのアジトの一つなのも解っている。貴方は盗賊ギルドのマスターだろ?」


 そう言うと、レベッカの目がギロリとしたものに変わる。そして、後ろの男どもなどとは比べ物にならない殺気が溢れ出す。


「どこでその情報を知った!?」


 あらま、カマ掛けただけなのに自らバラしちゃったよ。口調も変わっちゃったなぁ。


「いや、見えざる手とかいう暗殺集団の奴を一人捕まえてね」

「そいつはどこに!?」

「ああ、もう一個のアジトの方を案内してもらってるよ。今頃、俺の仲間が攻め込んでる頃かな?」


 俺の背中に寒気が走ったので、マリスの頭を掴み、グイッと前のめりにさせる。俺自身も前屈姿勢になる。


 その瞬間、俺たちの上を剣の刃が物凄い風切り音を上げながら通り過ぎた。


「不意打ちとは盗賊ギルドらしい姑息さだ」


 俺が立ち上がるとマリスも嬉々として立ち上がった。


「これで貴族を殺そうとした確固たる罪状ができたね」


 俺はニヤリと笑いながら周囲を見回す。


「やれ! やってしまえ!」


 レベッカがソファから逃げ出し部屋の壁に掛かっている武器を手にとった。シャムシールの二刀流か。


 男たちもそれぞれ剣を抜き放った。


 危ないなぁ。こんな狭い所でこの人数で武器抜くのか。結構、マヌケか?


「ほんじゃ、殲滅開始で」

「了解じゃ!」


 ミスリルのショート・ソードを引き抜いたマリスが男どもの一画に飛び込んだ。


「ほんじゃ、俺はレベッカとかいうお姉さんを相手にしようか」


 俺は剣を抜いてレベッカに近づく。


「たかが冒険者上がりの貴族が! 私の後援者には有力貴族たちも……」

「へえ…だからどうしたの?」


 俺は意に介さず剣を突きつける。


 その剣に絡みつくようにシャムシールの一本が突き攻撃をしてきた。


「おっと」


 俺は顔をひねるだけで、その突きをかわした。


 技量の差は歴然だ。こいつの攻撃では回避スキルや受け流しスキルも必要ない。純粋にステータスだけで全ての攻撃をかわせるな。


 俺は余裕を感じたのでマリスの方を見る。

 さすがにガタイの良い五人の大男を相手にしているんで少々心配だからね。


 ところがマリスときたら余裕のよっちゃん。斬撃を盾で受け止め、男をなで斬りにしている。


 あらー。マリスもかなり強くなってたもんなぁ。レベル二〇くらいじゃ当然か。


 心配なさそうなのでレベッカに集中することにする。


「さてと、こちらの攻撃でいいかな?」


 レベッカを叩き切るのは簡単だが、どうせなら後援者の貴族ってのも気になるし、生かしておくか。


 俺は剣を水平に構える。


「よ、寄るなぁ!」


 レベッカが強烈な連続した斬撃攻撃を仕掛けてきたが、すいすいとかわし、一撃ずつ確実に突きを繰り出す。


 最初の突きは左腕を貫く。二撃目は右腕だ。


 その度に激痛に見舞われたレベッカが悲鳴を上げるが、俺は昆虫の足をむしる子供のような冷徹さで突き攻撃を続けていく。


 そして、右太もも、左太ももと突き刺した。


 すでにレベッカは戦意を喪失し、ブルブルと震えていた。


「どうじゃ? こっちは終わったぞ!」


 マリスは既に全員、殺し終わっていた。


「ああ、こっちももう終わった」

「なんじゃ? 殺さんのか?」


 マリスがトコトコと俺の方に近づいてきて、レベッカが生きているを確認した。


「ああ、こいつには吐いてもらうことがまだまだあるんでね」


 俺はすきを見て逃げ出されないように、レベッカの四肢を全部切り落としておく。


「ぎゃあああああ」


 レベッカが断末魔にも似た悲鳴を上げた。


「手足がなくなったところで死にはしないよ」


 そう言いつつも失血死ってのもあるので、回復ヒール魔法で傷口の出血だけは止めておく。


「あらー。芋虫みたいになってしまったのじゃ」

「うん。これで逃げようがないだろ」


 俺はレベッカを小脇に抱える。

 大マップ画面で赤い光点を探すが、この館にはもう無いようだ。

 よし、これでこの娼館は制圧完了だ。次は地下から隣の娼館へ行こう。そっちにも何人かギルド員がいるからね。

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