第12章 ── 第25話
前日に仕事が終わってしまったので、翌日から帝都観光に出た。
最初に行ったのはイルシス神殿だ。帝都の衛兵隊がマルチネス神官長を捕らえるというので見に行ったってのが本当だけど。
イルシス神殿は帝都の東側の巨大な神殿だったが、少々抵抗する者がいたにも関わらず大した抵抗もできずに制圧され、神官長のマルチネスは簡単に捕縛された。
「なぜだ!? 神よ! なぜ私を見捨てるのか!?」
引きずられて行くマルチネスが、天を見上げてそんな風に叫んでいた。
エリ・エリ・レマ・サバクタニかよ。お前さん、神に見放されるような事したじゃん。バカだねぇ。
イルシス神殿は神官長の逮捕に伴い……というより、どうも彼ら
俺はイルシス神殿の中に入ってみた。ついてきたマリスとハリスが周囲を見回している。
「活気がないのう」
「神官長が捕まったんだから当然じゃね?」
「自業自得……」
ハリスが辛辣です。
その言葉を聞き付けてか、
「当イルシス神殿に御用でしょうか……? 生憎、立て込んでいるのですが……」
振り向いた俺の視線と
「あ、どうも。お久しぶり」
それはトリエンのイルシス神殿にいたあのイケメン
「トリエンで捕まったんじゃなかったの?」
「あ……あ……」
どうも言葉にもならないようだ。よくまあ逃げおおせたものだ。
俺は他の
「どうも、申し訳ありません。不心得者の為に神の怒りを買ってしまいまして、当神殿では神殿業務が全くできなくなっております。何か御用でも我々ではお役に立てないでしょう」
イケメン
「いや、大方、そんな事になっているんじゃないかと思ってたけど……可哀想すぎかなぁ……」
俺は念話スキルをオンにしてイルシスに念話した。
──チャラランランラン♪
この着信音、変えられるのね。イルシスのは他の人と違うし。
『もしもしー? あ、ケントね?』
「お、繋がったな」
「繋がってるわよー。貴方の愛しのお姉さん、イルシスちゃんよー?」
「いや、愛しくはないぞ?」
「えー? で、どうしたの?」
えー? じゃないし。つーか切り替え早ぇよ!
「あ、今、帝都のイルシス神殿にいるんだけどね。君の不利益になりそうなのは全部投獄されたよ。他の
「ちょっとまってー? ふんふん。大丈夫そうね。解ったわ~。報告わざわざありがとう。今度何かお礼しなくちゃ」
「まあ、礼はいいんだけど、最近アースラがそっちで色々下界の噂流して大変なんだって?」
「そうなのよー。マリオンちゃんがカンカンなのよ?」
「アースラも俗世が抜けないなぁ。あいつ何千年も前から神やってんだろ?」
マジで今度念話でとっちめなきゃ。
「でもアースラも悪気はないのよ。久しぶりに故郷の食べ物で興奮しちゃっただけなのよ」
「はっちゃける歳じゃないと思うけどねぇ」
「はっちゃけ? そう、はっちゃけなのよ。許してあげてね」
はっちゃけって言葉が通じるとは、さすが神とでも言おうか。いや、アースラが広めたスラングだろうけどね。
「了解了解。じゃ、ここの信者さんたちも許してやってよ」
「わかったのよ~。それじゃ、ケント。またなのよ」
そういって念話は切れた。
俺が独り言をブツブツと
「ごめん、ごめん。ちょっとイルシスと話してたんでね」
「は?」
今度はハトが豆鉄砲食らったような顔だ。当然だろうけどさ。
「もう、魔法は使えると思うよ。許してくれるって言ってたからね」
すると、
「こ、これは!!」
「あ、貴方はイルシスの使徒様! そうに違いない!」
いえ、ただの知り合いです。使徒はシャーリーですな。
だが、否定するのも可哀想なので黙って微笑んでやる。
「イルシス様が使徒を遣わせてくださったのですね。ありがとうございます!」
既に感極まった
嬉しげに手を取り合っている
一応、帝国は魔法が盛んらしいからね。イルシス神殿の
次に帝都の歴史的建築物を見て回る。
何やら古い建物があったので、通りすがりの人に聞いたら図書館だって。古くから魔法に力を入れていたから書物の収集なんかにも力を入れてたのだろうか。
一応、貴族や富豪なんかしか利用できないようだけど、名乗ったら普通に中に入れてくれた。
一般に公開されている部分は、普通の読み物ばかりだけど、この世界にも小説のような文化はあるようだね。悲恋話やギャグ本、ハウツー本など様々な書物が並んでいた。
魔法書などは無かったが、聞いてみると魔法学校生に開かれている場所には魔法書もあるそうだ。禁書などは地下に封印されているなんて噂があるとか書士が冗談ぽく教えてくれた。
大マップで調べてみたらマジで隠し部屋あったので、一般書士は知らないけど、責任者は知っているんじゃないかな?
ジルベルトさんに教えたらきっと飛んでいくだろうね。
続いて博物館。
この建物も歴史的に古く、数百年前のものらしいね。
博物館の中には様々な郷土品や歴史的遺物が置かれていた。魔法の品と看板が出ているものもあったけど、
博物館でかなり興味を惹かれたのが標本だ。ドラゴンの標本が一つあったからだ。
「おおー。恐竜博みたいだ」
「恐竜ってなんじゃ?」
マリスがドラゴンの標本を見上げながら聞いてくる。
「地球には何億年も前に、こういうのが支配していた時期があってね」
「ほほう。地球とやらにもドラゴンがいたのじゃな」
「いやー、恐竜はドラゴンじゃないんだよ。知能ないしね。トカゲが大きくなっただけだよ。でも、これくらい大きかったんだよ」
マリスは「へぇ~」と感心しつつドラゴンの標本を見続ける。
「知り合いだったり?」
「いや、このドラゴンは下級竜じゃな。上級竜や古代竜の大きさではないのじゃ」
ということは、マリスはこれよりデカイのか。一度見てみたいけど、大騒ぎになると困るから頼めないな。
「しかし、あの頭骨には少々特徴があるのう。焔龍の類じゃろう。血族的にはティアーマト系じゃな」
うげ、この世界はティアマトもいるんか。他のもいそうだな。
「バハムートとかリヴァイアサンとかもいる?」
「よく知っておるの。さすがケントじゃ。バハムートは我の種族の近縁のヨルムーンガントらと毎度戦っておる種族じゃな。リヴィアサンは海の竜族じゃからどの種族とも絡んでいないのじゃぞ」
マリスの竜談義はなかなか面白い。現実世界の伝承と照らし合わせてみると共通点が多いのが特に興味をそそる。
「ヤマタノオロチとかもいるのかい?」
興味をそそられて聞いてみた。
「やまたの?」
流石にいないのか。
「首が別れておるやつじゃな?」
眉間に少々皺を寄せたマリスが言う。
「え? いるの!?」
「うむ。そうじゃ、思い出したのじゃ。ケントの家名のことじゃぞ。昔、ハイドラの一族におったドラゴンの話じゃ。そやつは剣を集めておっての。尻尾にその集めた剣を突き刺して喜ぶ奇妙なドラゴンじゃったのじゃ」
うっは。ヤマタノオロチ、M気質すぎる。
「で、寝ている所を尻尾をとある人間に切り落とされそうになったのじゃが、気づいて戦ったらしいのじゃ。どうも我には良く判らんのじゃが、三日三晩戦って意気投合したそのドラゴンは、その男に自慢の一振りを譲ったそうじゃ。その剣の名前が……なんじゃったかなー?」
「
「おお! そうじゃ! そんな名前じゃ! でな、その男が剣を振るうと周囲の草が綺麗に薙ぎ斬られたのじゃな。そこでクサナギの剣と呼ばれたというんじゃ。ケントの家名がクサナギと知って、ずっと引っかかっておったのじゃ! なんかスッキリしたのじゃー」
マリスは俺の腕に絡みついて嬉しげに飛び跳ねる。
日本の神話とは少々違うが、似た部分が色々あるな。俺の実家の家紋は八ッ剣菱だし、何か関係があるのかと思いたくもなるね。厨二病的には非常に興味深いのだが。ま、さすがに伝説すぎて眉唾だな。
ドラゴンの標本を後にして先に進むと、人形に武具を着せたコーナーがあった。
中世の武器博覧会といった風情だが、その中に一つ気になるものがあった。
黒装束で顔はすっぽり頭巾、着物の中には鎖帷子、背中には直刀を下げてある。
俺は足を止めてじっくりと観察する。
「どうした……? 珍しいモノでもあった……か?」
「いや、これなんだけどね……」
俺はその展示物を指差す。
「これが……?」
「なんじゃ?」
ハリスもマリスも興味深げに見る。
「これ、忍者っぽい」
その言葉に二人の目が輝き出す。
「こ、これがニンジャか!? ハリスが目指してる超絶素敵職業の!?」
マリスは鼻息を荒くしている。ハリスはというと、真剣な表情で隅から隅を見ている。
「いや、完全にコレってわけじゃないんだけど、忍者ってのはこういう感じなんだよ」
俺は忍者の
ハリスは展示物を熱心に見つつ、俺の説明に耳を傾けている。
マリスもフンフンと鼻を鳴らす。
「なるほど……理に
ハリスは相当感心している。
「ケント、ハリスにニンジャの格好を作ってやればよいぞ」
「そうだね。そのうち作ってみるか」
「頼む……」
ハリスはそう言って俺の手をガッチリ掴んできた。
ハリスはマジで忍者を目指すつもりのようだ。仕方ないなぁ。そのうち忍者刀とか手裏剣とか作ってやろうかな。忍者ハリスも見てみたいしね。
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