第12章 ── 第9話
意を決しアルフォートが飛び出す。
飛び出してきたアルフォートに気づいたのか、キマイラはじっと彼を見据えた。
アルフォートの身体がしばし硬直した。
「グルルル!」
キマイラの警告のような唸り声が円形の部屋内に響いた。
その唸り声で我に返ったアルフォートが呪文を唱え始めた。
『ベセス・モレス・ボレシュ・ソーマ・マスティア・ウータリス!
子供の頭ほどの大きさの火の玉が現れ、キマイラに目掛けて尾を引いて飛んでいった。
──ドゴーン!
猛烈な音と熱波が周囲に拡散する。 俺たちのいる通路の方にまで熱風が吹き込んできた。
「よし! マリス行くぞ!」
「ガッテンショーシ漬けじゃ!」
それ、さっきの俺の合点承知のスケの真似かな?
俺とマリスがアルフォートの前に出る。
新たな標的の出現にキマイラが少々動きを止めるが、すぐに体勢を低く身構えるような姿勢をとる。いつでも飛びかかって来そうな感じだ。
『獅子だか山羊だか蛇だかどれか一つにせい! 動物図鑑が困るのじゃぞ!』
円形の部屋に地響きにも似たマリスの挑発に載せた怒声が響き渡った。この世界に動物図鑑あるのかな? 是非とも見てみたいです。
俺とマリスは移動を止めずに、さらにキマイラに近づく。
キマイラの山羊の頭の目が青く輝き、角の周囲にバチバチと青いスパークが発生した。
「マリス! 電撃が来るぞ気をつけろ!」
俺はマリスの歩調に合わせながら疾走を続ける。キマイラまでの距離はまだ詰められていない。TRPG的に言えば次の戦闘ラウンドで接敵できるだろう。
『
背後からアナベル……ダイアナかな? どっちでも良いけど、魔法を発動を知らせる声が聞こえる。俺たちの周囲に淡い光のベールのようなものが展開した。
しかし、俺たちが到達するより早くキマイラの魔法攻撃が俺たちに炸裂した。
──バリバリバリバリ!!
電撃が空気を引き裂く獰猛な音が俺の耳に飛び込んできた瞬間、上から落ちてきた青い稲妻が俺とマリスを飲み込んだ。
「ぐっ」
「うがが!」
身体が電気によって硬直する。俺は頭の中でカチリという音を聞く。雷耐性はもっと早くほしかったね。
電撃は俺たちの動きを一瞬止めることに成功した。キマイラはこの俺たちの
巨体が飛翔し俺たちに襲いかかる。
二本の丸太のような前足が巨大な爪を飛び出させて俺とマリスに迫ってきた。
動きが自由になったマリスが盾の後ろに身体を隠すのが見えた。俺は愛剣「グリーン・ホーネット」を構え直した。
──ガガッ!
左の前足がマリスの大盾に炸裂する。強烈な衝撃にマリスが五メートルほど後ろに吹き飛ばされる。
右の前足は俺を捕らえていたが、俺は左足を右後方へ引く。俺の身体は反転してキマイラに背中を向けるような格好になる。
だが、敵の右足の攻撃は軌道も変えられずに俺の真横を通り過ぎる。柔道で背負投げに持っていく時のような足運びだ。
その身体の捻りエネルギーを利用して俺は剣を下から上へと切り上げた。
「流水閃!」
俺の頭の中でカチリと音がなった。
──ザシュッ!
剣による強烈な斬撃が右前足に炸裂した。キマイラの人間の肘から先にあたる部分が宙に舞う。
「ガルルル!?」
そのまま噛み攻撃に転じようとしてたキマイラは、身体を支えるべき右前足を失くしてバランスを崩し、右前方に転倒する。
「
トリシアがスキルを使って矢をマシンガンの様に連射しているのが見える。ハリスが影に溶け込むように消えていく。
「……
──スパッ!
後方から軽快な切断音と共にハリスの声が聞こえてきた。振り向くと蛇の尻尾がハリスの長剣によって切り落とされていた。
「伸びよ
マリスがショートソードのコマンド・ワードを叫んでる。
マリスは輝く刀身を槍の様に小脇に抱えて猛然と走り出す。
「チャージ・ディストラクション!」
マリスが前方に小さなジャンプをすると、身体が螺旋を描くように
──ズババババ!
物凄いドリル攻撃音が響き渡る。見ればキマイラの頭部を光の刃が貫いている。
みんな、すごいなぁ。
だが、まだキマイラは死んでいなかった。
三本の足でかろうじて立ち上がると、後方に大きくバックステップする。その距離およそ一〇メートル。
身体がデカイ割に敏捷だね。
「お前ら気を抜くな! まだ、死んだわけではないぞ! キマイラは全ての頭を倒さねば動きを止めることはない!」
トリシアの声が部屋に響いた。
それは承知している。
山羊の目が再び光る。今度は赤だ。山羊の角の先端に炎が
「火炎魔法攻撃か」
だが、それはさせないよ。
俺はクラウチング・スタートのような姿勢を取る。
そして足に
──ボシュッ!
俺は高ステータスによる蹴り足で猛烈なダッシュを行う。
これ、以前やったよね? 普通の移動速度じゃないからコントロール難しいけど。
「とどめだよ……竜牙斬!」
──ズバァアァン!
俊足の疾走に斬撃を加えた攻撃により、キマイラの身体は唐竹割りの状態で縦に真っ二つになってしまう。俺の頭の中にカチリという音が響く。
俺は刀身に巻いたキマイラの血を剣を振って飛ばす。
「おおー。新技を二個も使ったのじゃ!」
「信じられない技だ……あの加速による斬撃は
「すげぇ! とんでもない! マリオンさまの
ハリスもウンウンと頷いている。
「キマイラを……魔軍将官の騎乗魔獣をいとも
アルフォートが目をまん丸にしている。
「ケント、これで魔族がいる動かぬ証拠が手に入ったな」
トリシアがそんな事を言い出す。
「ほう。そりゃまたどうして?」
「キマイラだぞ? 自然に繁殖するダイア・ウルフなどとは違うじゃないか」
キマイラは自然繁殖しないの? そうか、合成魔獣だもんな。誰かが作らねばならないんだ。この場合は魔族ってことだね。
「そうだな。魔族によって持ち込まれたってことだよな」
「そういうことだ」
俺は納得したのでキマイラの死骸をインベントリ・バッグに仕舞うことにする。
「これで良しと」
切断した前足も尻尾の蛇の頭も回収完了。
「ケントたちは凄えな。凄えなんてもんじゃねぇ!」
ダイアナ・モードのアナベルが感動しまくりだ。
「大したもんじゃないよ」
「見るのも修行の内と言われてきたけど、ピンと来なかったんだ。だが、こりゃ修行になるよ!」
さいですか。
「竜牙ざ~ん!」
ビシッとマリスが俺の技名を口走りながら俺の動きをトレースしようとしている。やめなさい。
「あれは竜の牙って意味じゃろ!? かっこいいのじゃー」
「そのくらいにして」
俺は顔が赤くなってしまったので両手で顔を隠す。
「照れる必要はないと思うんだがな。あれは素晴らしいものだ」
トリシアが追い打ちを掛けてくる。
「それと流水閃。あれは返し技だろう。敵の攻撃を避ける反動を利用した切り上げ技か。まさに流水の如き華麗さだ」
俺は顔を両手で隠したまま
「……そのくらいに……しておけ……ケントが……」
ハリスがトリシアとマリスを止めに入ってくれる。ハリス兄貴マジカッコイイ。
「ケントは照れ屋さんじゃからのう。可愛いのじゃ」
「ケントは謙虚すぎだ。もう少し自分を誇るべきだと思うぞ?」
「マジで凄ぇ」
アルフォートはポカーン状態のままです。
こうして、俺たちはキマイラを
キマイラ討伐後、円形の部屋の周囲を探索すると幾つか宝箱などを発見する。
戦利品は笛のようなもの、キマイラ用の
鑑定などは後々に回そう。それなりの収穫と言えそうだ。あとでみんなで分けよう。
イベントリ・バッグに全部しまっておく。でも……キマイラ用の鞍は要らない気もする。
「よし、探索を続行するぞ」
「「「おう!」」」
周囲の探索を終えた俺たちは先へと進む。
キマイラ撃破でチームの士気も随分と上がった。いい感じだ。だが、ここは敵地。油断しないように進んでいこう。
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