第12章 ── 第3話
みんなでカツサンドを食べながら今後の方針を話し合う。
「とりあえず、正式な使者として来た以上、帝国の支配層に顔を通しておくというか、面会を求めないといけないよね?」
「国とのやり取りを戦争という手段でしか行っていないからな」
トリシアが頷く。
「そういえば、戦時捕虜条約だっけ? あれって誰と誰が結んだ条約?」
アルフォートが顔を上げる。
「あれは国同士というより軍同士で結んだ約束だったと思う。紅き猛将とデニッセル子爵だな」
「ということは帝国政府と直接じゃないのか」
「一応、その条約に帝国の外交部が一枚噛んでいるはずだ。外交部に行ってみるのが良いと思うが」
「帝国外交部ってどんな所?」
俺は外務省的な何かだと思うが一応ね。
「あそこは帝国の特務機関だ。表向きは外国と何らかの交渉や衝突などがあった場合に出てくる行政機関と言われている。実体は他国の情報を収集する諜報機関だ」
うわー。アメリカ的に言うと国務省とCIAかDIAが合わさってる感じか?
「私は外交部の情報を元に王国へ潜入した。その情報は正確だったよ」
確かに。あんな細い抜け道を発見していたしね。普通は潜入工作員のためのものだったんじゃないかな。
侵攻計画の成功率が高いと見て情報を軍部に公開したのかもしれないな。
ま、俺たちで計画は阻止したので、あそこは既に王国の軍部に知られてしまいましたがな。
「よし、では明日、そこに行ってみようか」
「「了解」」
全員が返事をする。
「待て待て。一応、アルフォートは既に仲間だが……交渉の材料たるアルフォートを連れて行くのはどうかと」
アルフォートは留守番が良いだろ。
「となると、交渉中にアルフォートを奪還される危険があるぞ?」
トリシアが問題点を指摘する。
「我々と一緒なら奪還は
「その提案も一理ある。だが、外交部とは情報戦になるはずだ。だとしたら、手札を全て晒してしまっては面白くないんじゃないか?」
トリシアも思案顔になる。
「護衛を……付ければ……?」
「そうだな、護衛は必須だろうな。ただ、監視が今後付く可能性が高いから、アルフォートは軟禁された風を装うか? 護衛はアルフォートを監視している感じでさ」
提案者のハリスも頷く。
「で、そうする場合の問題だが」
皆の視線が俺に集まる。
「誰が護衛役をするかだ。監視しているぞって感じの芝居が出来ないといけないしな」
俺はみんなの顔を見渡す。マリスはお子さまだから監視役としては駄目だ。アナベルさんも
トリシアは……直感度も高いしエルフだから最適だが、外交部を恫喝するのに必要かな。
残るはハリスしかいないな。
「護衛役はハリスしかいなさそうなんだが……」
ハリスは、
「もう一人、直感力に優れた人員が欲しいとことだな」
「私か?」
トリシアが自分を指さしながら言う。
「いや、トリシアには外交部に同行して欲しいんだよ。トリシアのネームバリューは外せない」
「素敵用語で意味解らぬが、トリシアが駄目ならフェンリルを使うと良いぞ? フェンリルは森のニンジャだからの!」
あ、そうか。そうだね。ゴーレムいるじゃん。
「お、それだよマリス! 良くぞ気づいたな! よし、護衛役のもう一人はフェンリルにしよう」
「私は部屋に籠もっていればいいのか?」
アルフォートは少々不安顔だ。
「窓の無い部屋がいいな。というか、あったっけ?」
「無いな」
トリシアが即答する。
むむう。敵は窓に目をつけてくるはずだし、窓のある部屋に軟禁て考えられん。
「窓のないのは風呂だけじゃぞ?」
風呂か。居住性が悪すぎるな。何日も軟禁されるとアルフォートも辛いだろう。
「別の部屋を借りたらどーでしょう?」
それが一番だが、泊まってる部屋と離れ離れになるのは警備上問題が多すぎる。
「となると、どこかの部屋の窓を
「それしか……無い……な」
ハリスが俺の言葉に頷く。
「窓を塞ぐ資材が必要だな……板とか」
「はいはーい。今、マリオン神殿の一部は改装中ですよ。板ならいっぱいあると思うのですよ。実のところ年中改装中なんですけど」
どういう意味か判らないけど、
「では、午前中にそういった準備をして、午後に外交部へ出向く事にしようか」
全員が頷く。
「午前中の予定として、俺とアナベルで資材の調達」
「任せてくださーい」
アナベルが元気よく右手を上げる。
「トリシアとハリスは街の偵察を頼む」
「了解だ」
「承知……」
野外系職業の二人だが市街地でも大丈夫だろう。
「マリスはフェンリルとアルフォートの護衛だ」
「我は留守番かや?」
マリスはちょっと不満そうだ。
「でも、既に敵にアルフォートの存在を察知されているかもしれないからね」
「なるほどの。そういうことじゃったか。引き受けたのじゃ!」
よし、計画はこんなところかな? 外交部でどんな話になるかは今考えても仕方ない。まるで未知の政府機関だしね。アルフォートも詳しく知らないみたいだからな。
要は行き当たりばったり作戦。聞こえは悪いけど、臨機応変に対応できるってことで許してもらいたい。
「じゃ、明日早くから活動開始するから、もう寝ようか!」
作戦会議が解散されたので順番に風呂に入る。男性陣が先、女性陣は後と決まったらしい。
男三人で風呂場に入って身体を洗っていると、外が少々不穏な気配。
コッソリと扉付近に行き、聞き耳を立てると……
「なんじゃ? 覗くんじゃなかったのかや?」
「シッ! マリスは声を落とせ。気づかれる」
「ワクワクするのですよ」
こいつら……
俺はジェスチャーでアルフォートとハリスにタオルで前を隠すように伝える。
俺の行動で察していた二人は腰にタオルを巻いた。俺も巻いておく。
「まだかや?」
「もう少しだ」
「ドキドキなのですよ」
俺はすばやく扉を開ける。
「「「あっ!」」」
女性陣の驚くような声とともに、開け放たれた入り口から三人がドサリと倒れてくる。
「何やってんだ?」
俺は三人の前で仁王立ちで
「ちょ、ちょっと覗こうとじゃな……」
マリスが苦笑と言った感じの顔で後ずさる。
「私は止めたんだぞ? 本当だぞ?」
トリシアよ。手にあるその大工道具はなんだ? どう見ても
俺の視線に気づいたトリシアが右手に持っていた
「ワクワクだったのですよ」
アナベルはニコニコしている。これは天然だから計画性はないな。
「トリシアが首謀者で決定だな。あとでお仕置きだ」
「そ、それは
いや、君。その発言は、いろいろ問題ありだぞ? マゾか何かか?
「もうするなよ」
俺は三人をジロリと
「くくく……相変わらず……笑わせる……」
「ははは、ケントたちは見ていると飽きないな」
ハリスだけでなくアルフォートまで腹を抱えつつ笑いを堪えている。
笑わせるつもりでやってるんじゃないんだがな、マジで。
風呂から出た後、マリスとアナベルをさっさと風呂に送り出して、俺はトリシアを一人残した。
何かを期待するようなトリシアの上気した顔が少々色っぽいが、そういうお仕置きをするつもりはない。
「よし、ではお仕置きだな!」
「腕立て伏せ五〇〇回だ」
トリシアの顔が失望したようになる。
「何だ? 五〇〇回じゃ少ないか? じゃあ一〇〇〇回」
「くっ! ケントめ」
トリシアが腕立て伏せを始める。
さすがにレベル四四の冒険者だけあって、腕立ての五〇〇や一〇〇〇程度じゃSPが
だけど少しでもスタミナを減らしておいた方が悪戯する方向に思考が向かないだろうと判断する。
以前、疑問に思っていたことだが、この前、みんなとの訓練で気づいたことがチラホラ。
まず、俺のHPやMP、SPの自然回復時間はドーンヴァースの時間の一二倍という事が判明していた。
そして、現地人のこの三つの自然回復時間だが、俺とは違っていたんだ。
もちろん徐々に回復するのは間違いないのだが、現実世界の人間と大差はないと思う。
これは今後もあるので、何かを計画する時は考慮しなければならないね。
それと回復系ポーションの調達が重要度を増したのは確実だ。トリエンに戻った時に早急に何らかの対策を練らねばならない。
既に手持ちの回復ポーションは底をつきかけているからね。全く、問題ばかりで困るね。
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