第11章 ── 第24話

 ちょっと確認するのを忘れていたけど、アースラとの訓練で俺のレベルが四つも上がっていた。普通考えられないんだが、神さま効果か何かなんだろうか?



 その日から数日、俺たちは実戦形式の戦闘訓練を行った。

 その訓練のお陰で、みんなのレベルが幾つか上がった。


 さて、まずトリシアだが、四二レベルから四四レベルと二つレベルアップだ。頑張ってたからね。


「私がいとも簡単にレベルアップできるとは……」


 俺との接近戦訓練は特筆すべきかな? 俺の威圧のピンポイント・フェイントをトリシアはかわすんだよ。エルフの直感力はあなどれないな。

 ただ、やはり能力値の差が歴然なので、かわすモーションまでは入れるが、その後の追撃に対応できなかった。ここはレベルが上がっていけば問題はなくなるんじゃないかな。さすがはトリシアと言っておこう。


「きっと、今までにない訓練方法とかがこうそうしたんだろうね」

「私はまだまだ強くなるぞ!」

「我だっていっぱい上がったのじゃ!」


 次に、マリス。

 マリスは必死に持久力アップ訓練をしたので、一九レベルから二五レベルと驚異的なレベルアップを果たした。

 以前の能力に比べ、精神度と耐久度の上昇が半端ない。お陰でHPとSPだけ見れば、トリシアレベルの数値を叩き出している。人間、やればできるもんなんだな。


「持久力ではトリシアにも負けないのじゃぞ?」

「そうだな。体力も持久力もトリシア並みになったもんな。よく頑張った」


 頭を撫でてやる。


「にへー」


 マリスの顔が緩む。


 続いて、ハリス。

 彼は、類稀たぐいまれな職業構成なので、どう言っていいか良くわからないが、それぞれの職業ごとに経験値が溜まるとレベルアップするのかな?

 レベルアップの状況を能力石ステータス・ストーンで確認してみたんだが、経験値は一つしか表示はないんだが、内部処理では二つに分けて存在しているんじゃないかと思われる。

 例えるなら、「一〇〇〇〇」と表示されるが「五〇〇〇/五〇〇〇」といった感じで内部処理されてるようだね。一〇〇点の経験値は五〇点ずつ振り分けられているみたい。

 だから、レベルが上がる速度は他のメンバーより遅いようだ。

 今回の訓練でのレベルアップは野伏レンジャーが二五、暗殺者アサシンは一六だ。レベルが低い職業はレベルアップが早いね。羨ましい。


「ハリスのレベルアップの仕方はいろいろ勉強になったよ。どうも新システムっぽいんだよな」

「そうか……?」

「でも、だいぶいい感じになってきたな。あの影から影へ移動するのって凄いな。忍者ニンジャみたい」


 俺の言葉にハリスが破顔する。伝説の忍者ニンジャに近づいたと実感できたのかも。


 最後にアナベルさん。巨乳を揺らしまくり(?)頑張ってくれました。彼女は五レベルアップの二五です。

 最後まで筋力筋力とうるさかったですな。DPSをそんなに上げたいのか?

 ほっそり巨乳なんだから、それでいいの! マッチョ巨乳じゃ、チチ揺れしなくなる恐れがあるじゃないか! などと心の中で叫んでいましたが、あえて論理的な言葉で納得させておいたよ。ドスケベ野郎と思われるのは心外なので。


「アナベルさんもよく頑張りました」

「はえー。訓練で音を上げたことなんてないのですが……流石にしんどいですぅ」

「でも、そのお陰でレベル上がりましたねぇ」

「五レベルあがりましたのですよ!」


 アナベルがニコニコしながらガッツポーズ。うん、ムッキムキにならなくて良かった。チチ揺れは健在です。


 イシュマル月(八月)二一日。

 全員が納得できるだけの訓練を終了した。


「さあ、みんな! 明日にはリムルを出発するぞ!」

「行く……か」

「お? もう行くかや?」

「帝国軍がほぼ街道の封鎖を完了しているようなんだ」

「そうか。とうとうその時が来たか」

「ドッキドキなのですよ」


 みんなもやる気満々だね。


「今日はゆっくりと身体を休めよう。明日からはゆっくりしてられなくなるだろうしな」

「なら、景気づけにケントの手料理をご馳走するべきなんじゃないか?」

「賛成なのですよ!」

「今日はなんじゃ!? ドンか!? それともテンプリか?!」


 俺は少々思案する。


 うーむ。そろそろ和食から離れるか? いや、和食じゃないけど、和食。これだな。

 和食じゃないのに日本の庶民食。カレーを作ろうか? トンカツとの相性もいいしな。好評頂けること間違いない。


「よし。決めた。カレーを作る」

「辛いのかや……?」


 マリスが警戒したような声色で言う。


「うん、辛いな。でもマリスもいるし、甘口、中辛、辛口と三種類用意しよう。カレーは俺の国……日本ってところだが……その日本で進化した他国料理なんだよ」

「他国の料理を進化させた? うむ。常に切磋琢磨し、己の技に進化を加える。まさにケントの生まれた国にふさわしい」

「で、カレーだけど。俺の国では赤ちゃん以外は国民全員食べている人気食だ」

「それは……楽しみ……だ」


 多分、誇張です。アレルギーの人とかもいるかもしれないじゃん。でも。ほぼ全員食べていると俺は思う。


 俺は早速、宿の主人に厨房を貸してもらおうと考える。しかし、カレーなんだよな……厨房にカレーの匂いが付いてしまわないだろうか。外で作るか?

 外で作るカレーも美味しいからな。


 俺は宿の主人に中庭を貸してもらえるように交渉する。


「いったい何をするつもりなんで? 訓練でも貸しましたが……」

「ちょっと料理をしようと思いまして」

「厨房じゃ駄目なんで?」

「作ろうと思ってる料理の匂いが気になりまして」

くさいので?」

「いや、いい香りですが、香りが強めなんですよ」


 宿屋の主人が思案している。


「ま、ウチの料理人が嫌がらなければ使ってもらってもいいんですがね」


 交渉の末、カレーは中庭で作ることにした。ご飯やトンカツは厨房を借りる。

 ここで、俺は嫌な予感が襲っていることに気づく。直感的な何かなんだが、ご飯を炊く釜が多分足りなくなる気がしてならないんだ。二つ、三つ用意しておく必要があるんじゃないかと。


 今回、リムルには長逗留ながとうりゅうしたので、『拠点転移ホーム・トランジション』の起点ポイントになる装置を中庭の人目に付かない部分に設置しておいた。なので、すぐにでもトリエンの魔術工房に行けそうだ。

 今、午後三時といったところだし、今から工房で釜を二つくらい用意しても夕食時には十分間に合うだろう。ついでにカレー用の大鍋も幾つか作ってくるか。


「よし、みんなは英気を養っておいてくれ」


 宿の主人との交渉を覗いていたメンバーに声を掛けて俺は魔法を唱えた。


 眼の前が光に包まれ、その光が消えるとトリエンの館の執務室に転移が完了している。


 執務用の机を拭いていたメイドがビックリしていた。えーと…名前は……


「お、おかえりなさいませ! 旦那様!」


 光の中から現れたのが俺だと気づいたメイドが慌てて挨拶してくる。


「確か、コンスタンスだったね。ちょっと寄っただけだから気にしないで」


 俺は挨拶も早々に魔術工房の転移装置がある小部屋に入る。

 転移装置を作動させて、工房へと転移。

 工房ではフロルが出迎えてくれる。


「ご主人様、いらっしゃいませ」

「うん。ちょっと作りたいものがあってね。エマは?」

「エマ様ならば、研究室におられます」


 俺はフロルに手を振り、エマのいる研究室に行く。


「よう、エマ。やってるな」

「ケント!? ああ、魔法で戻ってきたの? 仕事は終わり?」

「いや、これからだよ。ちょっと欲しいものがあってね」

「何が必要なの?」

「えーと、前に作ってたご飯用の釜をいくつか。それと大きな鍋がほしいな」

「それなら生産ラインで直ぐ作れるわね」


 エマは読んでいた魔法書から目を上げる。


「何か食事をいっぱい作るの?」

「ああ。カレーを作ろうと思ってね」

「カレー? 何それ?」

「ああ、カレーは俺の国の大人気メニューさ」


 パン! とエマが魔法書を閉じる音がする。


「それは聞き捨てならないわね」


 エマが椅子からポンと降りた。


「私にも食べさせてくれるんでしょうね!?」


 生産ラインに行きかけていた俺の足が止まる。


「いや、作るのは帝国でだぞ?」

「連れていきなさいよ」

「えー?」

「魔法ならすぐでしょ!?」


 どうもエマは俺の料理に飢えているっぽいな。


「仕方ないな。なら鍋、釜を作るの手伝え」

「いいわよ。お安い御用ね」


 やれやれ、食事後にここに送ってこなきゃならないな。まあ、それほどの労力でもないし、いいか。


 工房での作業はものの二〇分程度で終わる。あっという間に鍋と釜が大量に作れた。というか、こんなに要らないよ。一応、インベントリ・バッグに収めておくけどね。


 さて、準備は整ったな。


「よし、帝国に戻るとしよう」


 『拠点転移ホーム・トランジション』の魔法を再び唱える。今度はエマも一緒だ。


 リムルの宿の中庭の隅に転移が完了する。


「ここが帝国?」


 エマがキョロキョロと周囲を不安げに見回している。


「ここは帝都の近くにある衛星都市リムルの宿屋だよ」


 俺は中庭の茂みから出て、中庭の真ん中あたりを陣取る。料理を行う場所を確保するためだ。

「ここらがいいな」


 簡易かまどをインベントリ・バッグから四つほど取り出して設置する。


「四つも使うの?」


 後ろで見ていたエマが興味津々といった感じで聞いてくる。


「ああ。カレーは辛いからね。甘口、中辛、辛口と三つ用意するつもりだ。もう一つは具材の処理用だな」

「ふーん」


 エマはしゃがんで俺の作業を眺める。


「あ! エマなのじゃ!」


 宿の裏口から出てきたマリスが大声を上げる。エマが裏口に顔を向けると、マリスは本当にエマだと解ってトテテテテーと走ってくる。


「マリス、おひさー」

「おひさーなのじゃぞ!」


 エマとマリスがハイタッチしてる。君たち、そんな仲良かったっけ?

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