第11章 ── 第17話
ここは群れのボスであるフェンリルの意見も聞いてみよう。
「フェンリルはどうするべきだと思う?」
『マリスさまと創造主殿のお役に立てればと。ご命令とあらば
これじゃ
「マリスはどうしたいんだ?」
「我もよく解らんのじゃ。ケントはどうするべきじゃと思うのじゃ?」
ぐぬぬ。こっちも丸投げですか。
「そうだな……ダイア・ウルフは『森の忍者』だとか以前読んだことがあるんだが……」
「ニンジャ!? なんじゃそれは!?」
マリスはワクワク顔だ。というか忍者はこの世界にいるんか?
「あ、忍者知らない? 聞いたことない?」
「ないのじゃ!」
『ありませんね』
仕方ない。忍者を説明するか。
「忍者とはな。俺の世界では
忍者は敵陣奥深くまで潜り込み、時には敵の情報を探り、時には敵の大将を暗殺し、忍術や様々な技を駆使した超人。そんな感じで説明してみた。
するとマリスはキラキラが爆発したというような顔だ。超新星爆発状態ですな。
「なんじゃ! その不思議ビックリ超絶職業は何なんじゃ!?」
「あー、このティエルローゼにもいるのか解らないんだけどね」
『そんな異名を持つ生物を
マリスもフェンリルも興味津々のようですな。
「で、ダイア・ウルフは敵に音もなく忍び寄り、奇襲して獲物を仕留める。ここらは狼と同じ習性だね。だけど、狼よりも大きく、そして高い知性を持つので、より狡猾に狩りをする。そんな狼を越えた能力からか、森の忍者と呼ばれたとかなんとか。モンスター・エンサイクロペディアには、そんな感じで載ってたなぁ」
モンスター・エンサイクロペディア。ドーンヴァース時代のプレイヤー固有機能の一つだ。戦ったことのあるモンスターのフレーバー・テキストや能力値、レベル、スキル、特殊能力、討伐時の取得経験値が表示できる便利機能だ。
「で、そんな感じに動けるなら、俺らの周囲に潜んで、近づく敵の感知、討伐を秘密裏に行う隠密行動をさせてはどうかなと思うわけ」
さらに付け加える。
「もし、彼らで倒せないような敵が来た場合は、早期警戒網として動いてもらい、俺らが早めに情報を受け取る」
「早めに情報を受け取るとどうなるんじゃ?」
「マリス、以前にも話したあれだよ。『彼を知り、己を知れば……』」
「『百戦
「お、良く覚えてたな。偉い偉い」
俺はマリスの頭をナデナデしておく。
「にひゃ~」
マリスの顔がフニャっと崩れて恍惚状態になる。
「そんな事させられるかな?」
『出来ると思いますが……部下に聞いてみましょう』
フェンリルはダイア・ウルフたちと話してみるそうだ。
「よし、出来そうならその方向で行こう。出来なかったらまた考えなきゃね」
『了解です、創造主殿』
フェンリルは即座に行動し、陣幕テントから出ていく。
俺も陣幕テントを出ようとしたら、マリスが後ろから抱きついてきておんぶ状態になってしまった。気にしないで表に出よう。
みんなのところに戻る頃には、マリスは俺をよじ登って肩車状態だったが気にしない。
いつもの事だから仲間たちはスルーしてくれるが、他の人たちはビックリ顔だった。
「クサナギ辺境伯殿のお子さんは中々活発のようですな」
ジルベルトさんがニコニコしてマリスの様子を見ている。
「お子さんではない! ケントは我の嫁じゃぞ!」
そこで、何を宣言しているのか。
「あ、これは気にしなくていいです」
「ほっほっほ。元気なのが一番ですからな」
フェンリルを見ると、ブラック・ファングと何やらガウガウと話しているようだ。すると、ファングの赤い目がキラリと一層光ったと思った途端、ダイヤ・ウルフの群れを連れて走り去っていった。どうやら上手くいったようだな。
フェンリルが戻ってきたので声を掛ける。
「上手くいったようだね」
「ウォン」
フェンリルが首を縦に振り肯定した。
「これで俺たちは野外早期警戒機能を手に入れたも同然だな」
「そうじゃな。フェンリル、良くやったのじゃ!」
フェンリルは嬉しそうな顔をする。犬なら嬉しい時に尻尾を振るもんだが、狼は振らないのか? ゴーレムだからかな?
「あ、人間襲わないように言うの忘れたか?」
「ウウォン」
フェンリルがそれは大丈夫といった感じの仕草をした。
ふむ。なら問題ないか。
「このフェンリルは本当に素晴らしい出来ですな、辺境伯殿」
「そう言って頂けると、製作者冥利に尽きます。自分でも驚くほどよく出来ていました」
今日は本当にビックリしたね。
「一度ゆっくりと魔法や魔法道具談義に付き合って頂きたいものです」
「そうですね。近々、帝都に行くのですが、その時にお時間を頂けましたら……」
「おお、帝都に来られますか。ならば私が管理を任されている魔法学校にお立ち寄り下さい」
「それは嬉しいですね。実は帝都に着いたら、魔法学校の見学をしてみたいと思っていたんです。渡りに船とはこの事です」
ジルベルトさんと魔法学校見学を約束し別れた。
すると今度は商人たちが俺に挨拶に来た。そういえば貴方たちもいましたね。
「貴族さま、この度は我々を守って頂きありがとうございます」
商人の一人が代表してお礼を述べてきた。
「気にしなくていいです。俺は貴族だけど、冒険者でもあるんで。一般人が危険に晒されていたなら助けるのは当然の事ですよ」
「ダイア・ウルフに噛まれて傷ついた馬の怪我も貴方さまのお仲間に癒して頂きました」
「あ、アナベルですね。彼女は
「それでお礼をしたいのですが……」
「感謝の言葉だけで十分ですが……」
「いえ、そういうわけにも行きません。どうでしょうか。次の街まで同行して頂きまして、事後処理になりますが護衛依頼という形にさせて頂いて、報酬を多めにお支払いするというのは?」
ふむ。商人としてはこの後の事も考えた提案かな。別に俺には旨味はないけど、まだレベルが低いマリスやハリスの経験値稼ぎには良いかな?
「良いでしょう。同行しましょう。リムルまで半日程度ですが、護衛依頼を受けましょう」
商人たちの顔に嬉しそうな色が浮かんだ。先程の戦闘を見て、俺たちの戦闘力を信頼したんだろうけど、オリハルコン・クラスがいるとか思ってないだろうな。
正規にオリハルコンを雇ったら、きっと目が飛び出すような金額なんだろうけどね。リムルの冒険者ギルドもビックリするだろうなぁ……
商人が彼らの馬車に戻って行ったので、再び野営となるが早期警戒網であるダイア・ウルフの群れがいるので夜番とか必要ない気もする。まあ、形だけでも体裁は必要だからやっておくか。まだ、朝ごはんの準備も終わってないしな。
俺は平穏を取り戻した馬車溜まりで朝食の支度を続けた。
次の日の朝、起きてきた仲間とジルベルトさん一行、それと商人たちに夜番の間に作った朝食の紙包みを配った。
「今日の朝ごはんはこれかや?」
「サンドイッチだな」
ふふふ。今のうちに『また、これか』という顔をしておけ。
みんなが席についた。さてと……
「んじゃ食べようか。今日の朝ごはんは、カツサンドです」
マリスとトリシアの目が紙包みに釘付けになる。
「今日はトンカツをサンドイッチにしてみました。というか、俺の世界じゃ定番メニュー。大人気サンドイッチだよ」
トリシアがワナワナと震えながら紙包みを広げる。
「こ、これは……戦闘力が半端ないことになっているぞ」
「んぐんぐ。カラシが入ってるのじゃ……しかし、なんという濃厚な旨味! これはまた別の料理として完成しておるようじゃな!」
トリシアがビックリしているうちに、マリスが一足先に一口食べて感想を言う。今日のマリスは素早いな。
「ん……美味い……」
「たった一つの料理が、様々に手を入れられて別の料理に変わる……ケントは本当に錬金術を体現したような男だな」
ハリスも気に入ったようだ。アルフォートに至ってはジルベルトさんみたいな事を言い出している。やはりジルベルトさんの影響を受けまくってるようだな。尊敬できる教師なんだろうね。彼の学校を見学するのが楽しみだ。
「これは凄い! また何とも言えない美味さだな。手軽なのにこの満足感。それに作りたてのようにホカホカしているな」
「これに入れておいたからね」
俺はインベントリ・バッグをポンと叩く。
「やはり、それは便利道具だな。保温までできるのか。属性精霊を全て動員しているような凄さだ」
「どっちかというと、時間と空間の属性効果かな? 中では時間が経過しないようだからね」
「それの量産ができたら革命が起こるな」
「そいつは無理だろう。ティエルローゼで再現は不可能だと思う」
「そうか、あっちのか」
「ああ、あっちのだな」
トリシアが納得した顔をするが、アルフォートは不思議そうな顔だ。
「あっちとは何だ?」
うーむ。俺がプレイヤーなのはチームメンバーしか知らないからな。
「まあ、神界のアイテムとでも言っておこうか」
「神界か。女神イルシスに愛されているケントならではの魔法道具だな」
アルフォートがようやく納得した。彼は俺がイルシスの加護を与えられてると思ってるからな。一度否定したはずなんだが。
朝の食事が終わり、俺らの馬車を先頭に、ジルベルトさんの馬車、商人たちの三台の馬車が
もう少しで衛星都市リムルだ。リムルは一体どんな街だろうね。今までの都市もそれぞれに特徴があって面白かったけど。今からちょっとワクワクです。
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