第8章 ── 第3話
──ギギギギ
やはりデカイ音がする。
少し隙間ができたところで覗いてみると……何かが向こう側にあった。扉を
は?
ちょっと目を離してしばし考える。頭の中で嫌な想像が鎌首をもたげるが確認しないわけにもいかないのでもう一度覗き込む。
ランタンの僅かな光を反射するそれは、白色で丸くてテカテカしていて、真ん中が黒い円だ。
うん、目だね。眼球だ。
「ぎゃあぁあぁあぁぁ!!」
俺は思わず大きな悲鳴を上げる。あまりにも驚いてしまい、扉を強引に閉めてしまう。
「な、なんじゃ!?」
マリスが俺の声にビックリして身体がビクッと揺れる。ハリスとトリシアは弓を構える。
「な、なにかがこっち覗いてた……」
涙目の俺がそう
「そりゃ、アンデッドいるし、その類だろ」
別に驚くことでもあるまいと言いたげなトリシア。
「いや、俺……こういうビックリ系お化け屋敷の雰囲気は苦手なんだよ……」
こういうギミックは必要ないと思いたい。お化け屋敷の常套手段じゃん。
「はははは……! ケントにも……弱点があった……か」
ハリスがまた腹筋崩壊してる。笑い事じゃねぇよ、ハリス!
「なんじゃ、ケントも可愛いところがあるのう。キュンってくるのじゃ。な、トリシア」
「まったくだ。ちょっと萌えるぞ」
女性陣に萌えられても、この状況では嬉しくない。
「よし、ケント……俺と交代だ……」
ハリス、超カッコいい!
俺はハリスと位置を入れ替わり、ビクビクしながらトリシアの後ろに隠れる。トリシアがやれやれといった仕草をしながら、弓を構え直した。
「いいか……?」
ハリスは弓から剣に持ち替えて準備状態を確認してくる。
俺以外のメンバーが頷くのを確認したハリスが扉を強引に引き開けた。
──ギギギギギギギ!
先程よりも大きな音で扉が開き、頭が入るくらいの隙間ができる。
その隙間から、グイッと何とも言えない奇妙な感じの頭が突き入れられてきた。
それは、ミイラにしては干からびていなかった。灰色の突っ張った皮膚、尖った歯、爛々と光を反射する眼球。その眼球がギロギロと動き、俺たちを確認する。
「ウヴォァアアァ!」
「ぎゃーーーーーー!」
あまりの気色悪さに俺は悲鳴を上げた。
「なんだ。グールじゃないか。大したアンデッドじゃない」
クールな声でトリシアがつまらなそうな声で言う。
グール?
よく見ると、確かにグールだ。グールは鉤爪のある手で隙間を押し開けようと必死に扉の縁を掴んで動かしている。
しかし、ここまでリアルなアンデッドは気色悪い。
ドーンヴァースの時ならCGだから気にもならないが、現実のアンデッドとなるとそのディテールの細かさ、動きのリアルさは半端ない。
ホラー映画なんか目じゃないよ。そんな作り物だって解ってるホラー映画でさえ苦手な俺が、本物のアンデッドを目にしているんだよ?
俺が使い物にならないポンコツになってしまったので、マリス、ハリス、トリシアが対処を開始する。
ハリスとマリスが一歩さがり、扉が開くだけの空間を確保する。扉の向こうに殺到しはじめたグールが扉をゆっくりとだが開けていく。
「
ハリスはまたたく間に、一体の頭、両手を斬り飛ばす。
マリスも負けていない。
「シールド・チャージ!」
盾が透明な反射性の膜を
「まだじゃぞ!」
グールの群れの中に飛び込んでしまったマリスが叫ぶ。
『この干からび死体ども! 我はここじゃ!』
挑発スキルによってグールの視線がマリスに集まる。
「今じゃ! トリシア!」
「おう!
まるで
トリシアが討ち漏らしたグールはハリスのミスリル剣で確実に切り刻まれていく……
まさにあっという間の出来事だ。ものの数分で二〇体強もいたグールが殲滅されてしまった。俺のパーティって凄すぎるんじゃないか?
ポンコツな俺が唖然と見ていると、みんなが集まってくる。
「み、みんな凄ぇ……あんな気持ち悪いものをあっという間か……」
みんなが呆れ顔で俺を見てくる。
「ワイバーンに比べたら、お遊びみたいなもんだろうが」
レベル的にはそうだろうけどさ!
「以前の我ならちょっと手こずったかもしれんがのう。今なら平気なのじゃ!」
マリスは強くなったなぁ……
「ふふふ……気持ち悪い……が先に来るのか……」
ハリス、笑いすぎ。しかし、ハリスが新しいスキル使ってたね。俺のスキル『紫電』に近い感じだったけど。
「コホン……いや、みんなご苦労」
ちょっと情けなすぎたので、俺は取り
『わはははは』
三人が堪えきれなくなって大爆笑しはじめた。仕方ない。この爆笑は甘んじて受けよう。
笑っている三人を背に、俺はランタンを
少々広めの部屋だ。館の地下で見たような器具の残骸があるからここは拷問部屋だな。この世界の地下はこういうのが常設なのかね?
部屋の西半分は天井が崩れているが、北側の扉は開いていて通路が見える。まだ奥に行けそうで安心する。
「北に行けそうだ」
やっと爆笑が
「隊列はどうする? ハリスとマリスを前衛にするか?」
トリシアがニヤニヤしながら俺に聞いてくる。
「いや、最初の隊列でいいよ」
悔しいので、俺とマリスが前衛の元の隊列を固持する。
「それじゃ、お手並み拝見」
からかうようなニュアンスがイラっとくるが、さっきの
北の通路を覗き込む。何かがいる気配はない。もちろん音も聞こえない。大丈夫そうだね。
「よし、行くぞ」
俺は宣言してから北の通路に足を踏み入れた。
北の通路は何度か分岐したりしたが、分岐した通路の先は殆どが崩れており、ほぼ一本道と言えた。部屋なども存在したが、中にはスケルトンやグール、ゾンビなどの低級アンデンドが少数いるだけで、大したものは存在しなかった。
グールとゾンビは気持ち悪かったけど、頑張って戦い倒しましたよ。ええ。頑張りましたとも。
ビックリ系も死体系も苦手だけど、途中で気づいたんだ。俺にはミニマップがあるじゃんと。これを見れば、光点で何者かがいることが判る。最初から気づいておけと言われそうだが、アンデッドの
大マップで砦の地下の様子を調べると、網目状に通路が掘られていて様々な部屋があるのだが、殆どの通路が天井の崩落で繋っていない。孤立した空間にもアンデッドがひしめいているが、問題はなさそうだ。
大マップ画面で確認が取れたのだが、俺たちがいる区画の最奥に白い光点が一つだけある。その光点の周囲には赤い光点が一五ほど確認できるが、白い光点には近づいていない。というより、近づけないのかな? 白い光点を取り囲むように赤い光点があるんだ。
その白い光点がある部屋はもうすぐだ。あの前方にある今までよりも大きい扉の向こうに、その光点は存在する。
「みんな、目的の救出対象はあの扉の向こうの大広間だ」
俺が宣言すると、みんなの表情が固くなる。
「敵らしいものが一五体。救出対象を取り囲んでいるようだ」
「そこまで判るのか? どうやって?」
トリシアが疑問を声に出す。当然だが、今は答えている暇はない。
「後で教えるよ」
「きっとだぞ?」
念を押されたので頷いて返し、剣を構え直す。
「よし、みんな、準備はいいか?」
「問題ない……」
「我もオーケーなのじゃ!」
「いいぞ、ケント」
俺たちは、大きな扉へとゆっくりと音を立てないように近づいていった。
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