第7章 ── 第4話

 屋敷の一階にある広間に使用人たちを集めてもらった。顔見せくらいしておかないとマズイしね。


「俺がトリエン周辺の領主となったケント・クサナギ・デ・トリエン辺境伯です。俺の他に三人仲間がいるけど、今後ともよろしくね」


 俺が挨拶すると使用人たちが困惑した顔をして、顔を見合わせていた。


「え? 何?」

「旦那様、領主様であられるのですから、そんな同格の者とお話になるような口調は……」


 あー、領主にあるまじき態度だったのか。しかし、偉そうな態度というのは好きになれないんだよなぁ……


「これが俺の持ち味だからね。変えるつもりないんだけどな……王様にもタメグチ聞いちゃうからね」

「左様でございますか……」

「それに、君たちは家臣ってわけじゃないしさ。お世話になる身としては偉そうにするのもどうかと」


 リヒャルトさんが肩をすくめる。


「旦那様は既に我らの主人であらせられます。我々は家臣でございます」


 家臣ってイマイチ良くわからない。戦国時代とか江戸時代の大名の家臣くらいしか知識にないしなぁ。執事とか使用人も家臣になるの?


「では、とりあえず紹介させて頂きます」


「執事補佐、ジオフリー。同じく執事補佐ヘンリー」


 リヒャルトさんが名前を言うと、二人の若者が一歩前へ出て頭を下げる。


「続いて料理長、ヒューリー。副料理長、ナルデル」


 白いエプロンを着けた男女が頭を下げる。


「料理人たち、アプストン、エリザ、シリア」


「メイド頭、アマレット」


 初老に近いが品の良い女性が頭を下げる。


「続いてメイドたち。フィニー、アルメル、ミーア、コンスタンス、ミモレット、シンシア、モーラ、レイリア」


 メイド服を来た女の子たちが名前を呼ばれる度に頭を下げる。


 ぬぬ。覚えきれるか? 俺の知力度頑張れ!


「庭師頭、ワブロック。庭師たち、バイヒル、ブレウィック、ペトロップ」


 庭師もいるのか。


「雑用頭、ケフォード、雑用たち、クリフォード、ハイウィック、アルティス」


 下男ってやつかな?


「そして、わたくし、執事であるリヒャルト、総勢二五人がユーエルの一族でございます。


 え!? これ全部リヒャルトさんの一族なの!?


「はえー。リヒャルトさんの家系が国王に任命されたとか聞いたけど、全員が一族だとは思わなかったよ」


 ビックリするやら感心するやら……全部ユーエル一族か。苗字まで覚える必要がなくなって安心だけどさ。そう言われてみれば、みんな似た顔立ちな気もするね。


「我ら使用人は、本館の隣にあります別館で生活しております」


『旦那様、よろしくお願いします』


 全員が声を揃えて頭を深々と下げた。


「あ、はい。よろしく」


 俺は気圧される感じで挨拶を返す。


「それと、今後も人員を増やすこともあるかもしれないので、その時もよろしく!」


 私兵って訳じゃないけど、館の警備とかも必要だと思う。これらはマリスとハリスに指揮してもらおう。トリシアは補佐官だけど、トリシアの補佐をしたりする人も必要かも。補佐官補佐とかちょっと笑える。


「それでは、一同解散。それぞれの仕事に戻るように」


 リヒャルトさんの号令で、みんなが散っていく。俺に頭を下げていくのを忘れてない所を見ると、教育が行き届いているようだ。


「見事な統率ですね」

「それがわたくしたち一族の役務えきむでございます」


 俺は頷いて、その役目を賛美する。


「あ、そうだ。調理場に案内してほしいんだ」

「調理場ですか……? ヒューリーとナルデルに問題でも?」


 俺の突然の言葉に、リヒャルトさんが不安そうにする。


「いや、今後の料理について話しておきたいと思ってね。うちらの仲間は何でも食べるけど、ほら好みとかあるじゃない」

「なるほど……左様でございますな。それでは案内致します」


 ということで調理場に案内してもらった。


 料理長ヒューリーと副料理長ナルデル、その他の料理人たちに、俺の作ったバターやマヨネーズなどについて教授する。ついでに醤油ショルユ味噌ミゾ。種もやしコト種麹タネこうじ胡椒こしょうなども手持ちの半分くらい渡す。


「こんな調味料は初めてみますね……この胡椒こしょうは凄いです。肉や野菜の味がこれほど変わるとは」


 料理長のヒューリーが一々驚く。まあ、今までこの世界で使われてなかった調味料や香辛料だからなぁ……


「俺も冒険の最中に料理とかするからね。色々と面白い料理方法とかも知ってるからね」


 そう言って、揚げ物とか練り物なんかの知識も披露する。それほど詳しいわけではないけど、実家を飛び出して一人暮らしをしていた俺としては、一通りの料理くらい作れる自信はあるんだよ。それにこの世界に来てから、料理スキルも手に入れたしね!


 彼ら料理人たちも新しい料理法、調味料、香辛料に興味津々だ。


 美味い料理はやる気の糧だと思うし、料理人たちには頑張ってもらいたい。トリシアも士気に関わるって言ってた。


「俺も料理スキルあるから、ちょくちょく顔を出させてもらうから、よろしくね」

「はい! これ程まで料理に造詣の深い領主様は初めてです。これからも色々とご教授頂けましたら、我らも望外の喜びです」


 ヒューリーさんが心底敬服したといった感じで頭を下げてきた。ナルデルさん、他の料理人も同じように頭を下げる。


 料理人たちの尊敬を勝ち取れたようで何よりですよ。俺も野営のご飯の即興料理レシピとか教えてもらおうかな。



 調理場を後にしてリヒャルトさんに寝室へと案内してもらう。


「ここが、代々領主様がご使用になられている寝室でございます」


 ベッド、天蓋付いているよ……ってかダブルレベルじゃないな。トリプル? メッチャでかい。


「あ、これ、片付けて」


 ナイトテーブルの上に置いてある如何いかがわしいものを指さしてリヒャルトさんに指示する。

 なんだよ、大人のおもちゃとかSM用具とか勘弁してくれ。男爵の趣味なんだろうけどさ。拷問室での男爵の行動を思い出せば納得の品揃えだけどさ。


「失礼しました。男爵の事件以降、極力現状を維持するだけにしておりましたので……」


 リヒャルトさんが申し訳なさそうにするが、それは仕方ない。どこに重大な証拠とかがあるか判らないもんね。だが、ここのコレは流石に要らないはずだ。


「そういえば、男爵の奥方とかはいなかったの?」


 養子を貰ってたくらいだから、奥さんとかが居たはずだが。


「男爵の奥方は、十数年前に他界されました。ご病気だったようです。男爵も奥方が亡くなるまでは悪い代官ではありませんでしたが……」


 そこに男爵が反逆を行った元凶があったのかもしれないね。深くは聞くまい。聞いて同情しても意味はないからな。犯罪者の背景バックグラウンドがどうであれ、罪は罪だ。罪は罰を持って償ってもらおう。


「ま、俺には関係ないか。ところで、皆は寝る所とか決めたのかな?」

「はい。ハリス様は、この寝室の左隣にあります部屋、マリス様は右隣、トリシア様は、対面の部屋で御座います」


 随分と固まった場所に決めたみたいだな。まあいいか。



 それから、メイドたちに取り囲まれて服と鎧を剥ぎ取られて身体の寸法を測られたりした。貴族服とか平服とかも用意してもらわねばならないからね。でも下着まで剥ぎ取る事ないじゃない。超恥ずかしかった。


 お風呂に入ろうとしたら一人のメイドが一緒に入ってきて下着姿になった時は流石に追い出したよ。背中流すのは自分でできるし……俺の股間の紳士がオッキしたら困るからね!


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