第6章 ── 第7話
一通り俺たちに礼を述べた国王は玉座に戻ると、貴族諸侯たちに目をやる。
「諸君、ケント殿『ガーディアン・オブ・オーダー』の一行に、『
なんか凄い名前の勲章みたいだけど……
「我らに異存はございません、陛下」
フンボルト侯爵が辺りにいる貴族たちを見渡してから満足げな声で言った。
「さらに……ケント殿には王国辺境伯の称号を与える。それと共にトリエンの地を領土とする。これは代官としての名目ではない。我が王家の領土を割譲するものである」
流石にこの叙爵宣言には、大多数の貴族が驚いた顔をした。
トリエン周辺は王家直轄領だったのか。ということは男爵はトリエン近辺の管理を任されただけの派遣貴族だったということだな。領主って言ってたから、てっきり自前の領地なのかと思ってたよ。
というか……俺が辺境伯? 待て待て待て!
「ちょっと! 陛下! 何を突然言い出すんですか!」
俺は慌てて国王に問いかける。
「一介の冒険者を貴族にって! そんな話は受けられません!」
「いや、そこをなんとか。どうしても受けてもらいたいのだ」
「なんで俺なんかに……」
「貴公でなければならぬのだ」
ぐぬぬ。なかなか手強そうだぞ?
「しかし、貴族なんかになったら冒険できませんよ……」
「そこは、貴公の領土。どのような代官を置こうと自由。余もフンボルト侯爵という宰相を置いて楽をさせてもらっている」
ハハハと爽やかに笑う国王がちょっと眩しい。
「そんないい加減で良いんですか……」
「余は人を見る目には自信があるのでな」
ニッコリ顔の国王に隙はなかった。
「どうなっても知りませんよ? 本気で自由にしちゃいますよ?」
「ケント殿なら問題あるまい。余の目に狂いはないと信ずる」
その自信はどこからくるのさ! 俺への信頼? 自分の眼力? よくわからん!
「仕方ありませんね。拝命致しましょう」
国王が安堵したように玉座に腰を下ろした。なんで安堵してんのか。
「おめでとう。辺境伯……ケント殿に家名はおありか?」
宰相のフンボルト侯爵が、嬉しそうに問いかけてくる。
なんで貴方も嬉しそうなの? 普通、貴族って門閥とかあって、新興貴族は疎まれるもんじゃないの? 周りの貴族を見てみると、不満そうな顔も結構あるけど?
それでも、上座に位置する貴族──たぶん大貴族って言われる人たちだろう──の幾人かが、やはり満足げな顔をしているのが
「家名ですか……
俺は現実世界での
「クサナギ家であるか……了解した。クサナギ辺境伯。貴族名鑑にそのように登録しておくとする」
宰相は彼の後ろにいる書記官に俺の名前をメモさせている。
「おおー。ケントはクサナギという家名であったのじゃな。はて? どこかで聞いたことがあるような? 思い出せんのじゃ」
マリスが何か不穏なことを言っている。俺の苗字がこの世界にあるわけないじゃないか。もしあったとしたら……俺と同じ苗字の転生者がいる……あるいは、いた? まさかねえ……
「そういえば……他の三人には、そういう褒美はないんです?」
俺ばっかり色々もらうのも何だよね?
「ふむ……クサナギ辺境伯の意見ももっともではあるが……これには理由があるのだ」
国王がちょっと思案顔で答える。
「理由……?」
「ここで話せる内容ではない。伯と……そうだな、トリ・エンティル殿。二人には聞いてもらわねばなるまいな。ハリス殿とマリストリア殿には申し訳ないが聞かせることはできぬ」
むむ? トリシアはOKなのか。ということは……ファルエンケール絡みか? でも、それならハリスが駄目な理由がわかんないな。
「後で聞かせてもらえるんですね?」
「うむ。今日は昼食をこちらで用意した。他の貴族諸侯たちとの顔合わせも兼ねて楽しんでもらいたい。話はその後ということでどうだ?」
「
とりあえず、俺は顔を取り繕って了承する。とんでもないことになってきた。この先どうなるんだ俺の人生……
昼食会は比較的ささやかなものだったが、立食パーティ形式だったので色々な貴族が挨拶しにきた。
中でも大貴族と言われる五人の貴族のうち、三名が非常に友好的に接してくれる。
北の侯爵家、エルド・ドヴァルス・デ・アルバラン侯爵。西の侯爵家、ハインリッヒ・マルエスト・デ・ピッツガルト侯爵。そして、コーネル・ミンスター・デ・ドラケン公爵だ。
ドヴァルス侯爵は王国最北の都市『アルバラン』の領主、マルエスト侯爵は王都の西にある都市『ピッツガルト』の領主。ミンスター公爵は言わずもがな王都南の都市『ドラケン』の領主だった。
彼らは王国建国以来の門閥貴族で、この国の筆頭といえるほどの大貴族だった。他に二人の大貴族がいたが、あまり俺には良い印象は持っていないようで少々嫌味を言われた。叙勲や領地の拝領に文句はないようだが……やはり、服装がお気に召さないみたいだ。仕方ないじゃない。俺ら普通の冒険者ですよ? でもまあ、今後は気をつけると謝罪すると、満足したのか頷いてくれた。
今まで貴族名を見てきて解った事は、『デ』が名前に付いてる貴族は、街や領土を持つ貴族で、『デ』の後ろに付いているのは、その土地名だ。派遣貴族も派遣先の土地名とか付いてるね。オルドリン子爵も後ろに『デ・カートンケイル』って付いてた。
帝国貴族のアルフォートは、『フォン』てついてるけど、あれは俺の世界のドイツとかの貴族に付くやつと同じだよね。王国には無いようだけど。
しかし、王の言う理由って何だろう? 気になって三人の大貴族との話が左の耳から右の耳へ抜けていってしまって、殆ど覚えてないよ。三人には申し訳ないなぁ……貴族としてのアドバイス的な何かだったような気がするけど……
「そう言えば、クサナギ辺境伯。我がドラケンで大変失礼な事が起きたようで、謝罪の言葉もない。許してくれるだろうか?」
ミンスター公爵が、例の盗賊事件の事を詫びてくる。
「いえ、公爵閣下のせいではありませんし、街の治安に貢献でき名誉だと思いこそすれ、不快に思ってはおりません」
「その言葉、感謝に
公爵に手を取られて戸惑ってしまう。俺としては降りかかる火の粉を払っただけだし。
「盗賊ギルド……の手の者ではないかと聞きましたが」
「そのようだな。我が都市でも手を焼いておる。なかなかに尻尾を掴ませぬ奴らよ……」
忌まわしげに公爵は顔を歪めた。
「俺の方でも冒険者ギルドに情報を当たってみましょうか」
「ありがとう。だが、我が都市の冒険者ギルドにも盗賊ギルドを対象とした依頼をいくつも出しておるのだが、良い結果に結びついておらんがね。よほど巧妙なのか。それとも……」
「盗賊どもと言えば、妙な噂を聞くな」
アルバラン領主のドヴァルス侯爵が口を挟む。
「各都市の盗賊どもが最近、密に連絡をとっているとかなんとか」
「それなら、ワシも聞いたことがある。冒険者ギルドに
盗賊ギルドが連合でも組むつもりなのか? それにどんなメリットがあるんだろうか?
「何はともあれ、早急に対処せねばならぬ問題でもあるまいが、心に留めておく必要はありそうだな」
ミンスター公爵の言葉に、二人の大貴族も頷く。
俺が割譲してもらったトリエンにも盗賊ギルドがあるのだろうか? ちょっと調べてみなければいけないかもしれない。
それに、冒険者クラスとしての
この世界にはまだまだ俺の知らない事が沢山ある。この知識のギャップはかなり厄介だ。これからも色々と覚えていかなきゃならない。頑張るしかないな。
もっとも、この世界に来てから、現実世界の俺と違って、記憶力や理解力が上がっている気はする。
昼食会が終わりに近づいて来た頃、俺とトリシアを迎えにメイドさんがやってきた。ファルエンケールのヴィクトリアンで現代コスプレ的なメイドさんとは違い、少々地味な感じのメイド服だが、俺の記憶にある中世ヨーロッパ的なメイド服だと思う。
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