第6章 ── 第4話
午後二時を過ぎて、
そろそろ王都が近いようだ。既に王都の南門外地区に入っている。北には城壁が見えているし。
大マップで王都全域を表示してみる。デカイ。ドラケンよりもデカイ。人口統計とか取れてるのかと思うほどに、城壁の外の広範囲にまで建物が立ち並んでいる。
先触れとしてか、伯爵の馬車の前を歩いていた馬の一頭が、兵士を乗せて城門へ向け走っていった。
とうとう王都だ。王都では一体何が待っているのだろう。
城壁の外の
ただ、
それでも、
だが、その裏手に入れば治安とは無縁な場所が多い。主要道路付近であっても、夜に独り歩きしたら追い剥ぎ、強盗、人さらい……何が出てきても不思議はない。
これらの情報はハリスからもたらされた。王都には来たことがないというのに、王都の
噂の真偽はともかく、
城門へと辿り着くと、簡単な身元確認を衛兵から受けた。もちろん伯爵たちも同様だ。
いかに貴族がいたとしても、王都に入るためには必ず受けなければならない。王族であっても受けるのだそうだ。随分前の王が発布した勅命によって作られた規則だという。
当然だね。いかに身分があろうとも規則を遵守するべきだ。貴族の紋章だけで通れるなら密貿易とかやり放題だろう。他の街がザルすぎだと思うよ。その規則を作った王は聡明だったに違いない。好感がもてるな。
俺たちは冒険者カードを見せたら審査をパスできた。やはり冒険者カードの身分証明効果は高いね。
俺とハリスのカードの裏面を見た衛兵が驚いていたけど、トリシアのカードはもっと驚かれたのは言うまでもない。なんせオリハルコンだからなぁ……
門内に入ると、なかなか清潔な街並みになった。ゴミゴミした感じがなくなり、道は石畳で舗装されていた。大マップで調べれば、下級市民たちが住む感じだろう。
王都は四重の城壁に守られていて、王城を囲む第一の城壁内は貴族や上流階級のものが住んでいる。上流地区とでも言おうか。
第二の城壁の内側は一般市民や下級貴族などが住んでいる。ここで言う一般市民は豪商などの富裕層のことだ。
第三の城門の内側は、中産階級層が居住するらしい。門外街に繋がる第四の城壁内は下級市民たちが住む地区だ。
それでも
この第四城門地区(と一般に言われているようだ)のある宿屋の前で、伯爵の馬車が一旦止まった。
「ケント殿、我々は直ぐに王城に向かわねばならないが、君たちは一度待機していてくれたまえ。宿屋で休むと良かろう。後々、王より迎えのものが遣わされるだろう」
どうやらこの宿屋に泊まれということらしいな。
「承りました。では、この宿屋にて待機するとしましょう。それと、我々は一度ギルド本部に顔を出さなければなりませんので、こちらの宿に居なかった場合は本部へお願いします」
「承知した。しからばこれで」
それだけ言うと、伯爵たちの馬車は王城へ続く道を進んでいった。
「よし、チェックインしたらギルド本部へ向かおう」
「了解だ……」
「本部とはどのような所じゃろうの! 楽しみじゃ!」
「私は何度か顔を出したことがある。ミスリルにランク・アップするあたりから、毎度本部に呼び出されたもんだよ」
プラチナ以降になると、なかなか審査が厳しいということだろうか。面倒なことだね。
馬車をインベントリ・バッグに仕舞ってから宿屋に入る。王都に来てから、馬で驚かれなかったのに俺のほうが驚いたと告白しておく。珍しいものを見たという視線を向けられる程度だった。もっとも、インベントリ・バッグに入れた時に馬車が一瞬で消えたのだけは、町行く人々に驚かれた。
この宿屋は「黄金の獅子亭」と言い、下流地区内で最も格式の高い宿のようで料金は比較的高い。それでも青銅貨一枚だったが。
俺たちはツインの部屋を二つ確保して男女に別れて部屋へと入る。やっと伯爵から開放されたので気が緩みそうだったが、ギルド本部に顔を出さねばならないので気を引き締める。
今回のクエストの報告などが待っているからだ。
俺とハリスはランク・アップするかな? マリスは確実だろうな。トリシアは……もう最高ランクだな。
俺たちは早速ギルド本部に顔を出すことにした。トリシアによるとギルド本部は下流地区の南西あたりにあるそうだ。ここからは一五分ほどだ。
ギルド本部は想像以上に大きな建物だった。この王都内の支部を全て統括しているのだから当然といえるが、職員だけでも一〇〇人以上いそうだ。出入りする冒険者に至っては何百人もいるんじゃないのか。
ズラリと並ぶ受付は現実世界で言う所の役所の窓口みたいだ。受付の一つに行って受付の職員に話しかける。
「ギルド支部でクエストの報告にこちらに来るように言われてきたのですが」
「どちらの支部でございますか?」
「トリエンです」
「ギルドカードの提示をお願いします」
俺はギルドカードを机の上に置く。
『
クエスト情報を検索する受付職員の顔がみるみる変わっていく。
「確認いたしました! 会議室へお通り下さい!」
突然、立ち上がると大きな声を張り上げる。本部のホールにいた多数の冒険者と職員たちが一斉に受付職員の方を見た。
「ご案内させて頂きます! こちらです!」
沈着冷静風のメガネ職員の変貌ぶりに戸惑うが、仕方ないので付いていくことにする。
かなりだだっ広い会議室と呼ばれる部屋には、Uの字に並べられた机と椅子、そのUの字の上の部分に蓋をするように一列の机と椅子が置かれていた。
俺たちは一列に並んだ方に座って待つようにとのことだ。仰々しくお辞儀をしてギルド職員が退出する。
「トリシア、ここは何かな?」
「ここは遠隔会議をする会議室だな」
ここの椅子には通信魔法が掛けられており、各支部のギルドマスターの姿と声を魔法的に椅子に投影することで会議を行うことができるという代物らしい。古くからある魔法装置だそうだが、インターネットのテレビ会議的なことができるってことか。便利すぎ。
しばらく待っていると、扉からギルドの職員に介護を受けながら杖を突いたヨボヨボの白髪の長いヒゲを蓄えた爺さんが入ってきた。見るからに魔法使いといった感じだね。その老人は、入ってくるなり俺たちを見てビックリしたように白い眉毛を上げた。
そして、そのヨボヨボっぷりからは考えられないような、大きく低い声を上げた。
「トリシア! まさか、お前さんが戻ってくるとはな……」
トリシアの知り合いか? それにしちゃトリシアの顔もハテナ顔だが。
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