第6章 ── 第3話

 朝、全員で宿の食堂にて朝食を取る。途中で起こされたせいで、少々寝不足だ。

 メニューは、コンガリベーコンに黄身が潰れてしまっているターンオーバー。香辛料不足のサラダ。コーヒーっぽい何か。それと白パンだ。

 この世界来て初めて白パン見たよ。食べてみたけど、それほど美味しい白パンじゃなかったけど。今まで食べたカチカチのパンよりは遥かにマシだろうね。


 今日も直ぐに出発するのかと思いきや、ロスリング伯爵がなかなか起きてこないので、腹ごなしに宿の近くを一周ぐるりと散歩をすることにした。


 大マップで確認しながら街を歩く。


 今まで訪れた町などでは、二階建てや三階建てが普通だったが、ドラケンは流石に大都市で、五階建てなどの大きな建物もチラホラある。


「ドラケンはなかなかデカイ建物があるね」


 建物を見上げながら散歩に付いてきハリスに話しかける。


「トリエンとは……比べ物にはならない……さ」

「ゆっくりと見物したいところだけど、そうもいかないか」

「そうだな……」


 ふとパンの焼ける良い香りが漂ってきた。見るとパン屋があった。さっきの白パンみたいなのを売っているのかな。

 少し興味を引かれてパン屋を覗いてみる。


──おお!?


 そこには、様々な種類のパンが所狭ところせましと並べられていた。黒パンや白パンがメインのようだが、干しぶどうを練り込んだもの、バゲット、コッペパンみたいなのまである。

 アンパンやクリームパンのような菓子パンはなかったが、ラスクのようなもの、細く焼いてクラッカーみたいになったやつなんかはオヤツに良さそうだ。

 見た目は日本で言うところの食パンのようなものもあった。今までで食べてきたパンは、半円形のようなものばかりだったので、少し嬉しくなった。サンドイッチが作りやすそう。


 こりゃ、色々買っておこうかね。


 面白そうなパンを見繕って、それぞれ何食分かを購入しておく。食パンっぽいのは少し多めに買う。


「そんなに……どうするんだ……?」

「そのうち皆で食べるんだよ。焼き立てだし美味いと思うぞ」


 インベントリ・バッグをポンポンと叩きながら言うと、俺の意図を察したのかハリスが頷いている。

 四人で食べても、たぶん何週間か持ちそうなくらいの量を買い込んでしまった。流石に買いすぎかなぁ。あまりの買いっぷりにパン屋の親父が目をまん丸にしてたよ。



 宿に戻ると伯爵が朝食を食べているところだった。兵士たちは出発の準備を始めている。俺たちもしておこう。

 宿の裏手、盗賊たちと戦った馬車の係留地には伯爵たちの馬車があり、幾人かの兵士が宿の者と一緒に馬を馬車に接続している。


「おはようございます!」

「ああ、おはようございます」


 伯爵の兵士の一人が元気よく挨拶してきたので、挨拶を返す。他の者も言葉はなかったが、深く頭を下げて挨拶してくれる。通り過ぎると、挨拶した兵士が「勇気あるな」とか言われていた。何故かはわからん。


 インベントリ・バッグから馬車を取り出して設置する。兵士たちは俺が馬車を仕舞うのを見ていたから大きく驚くようなことはなかったが、宿の者が腰を抜かしていた。


 ようやく出発となったのは、それから二時間も経ってからだった。伯爵がモタモタしてたんだよ。


 ドラケンを出て、一路王都へと向かう。距離的にはおよそ四〇キロといった所か。徒歩なら一日がかりだが、馬車なら数時間だろう。夕方までには到着しそうだね。


「よし、昼飯の用意をするか」

「なんじゃ? 朝のうちに用意しておらんかったのかや?」


 御者台から後ろに移動しながら宣言すると、マリスが問いかけてきた。


「ふっふっふ。今日は新しい試みをするのだよ、マリス君」


 その言葉に他の二人も含めて目が輝く。お前は輝きすぎだマリス。キラッキラか。


 保存用のガラス瓶を幾つか用意しておこう。

 まずは材料として、卵、塩、酢、オリーブオイルだ。


 卵を割り、卵黄だけをボールに落とす。卵白部分は後で何かに使えるかも知れないのでガラス容器に取り分けておく。

 塩と酢を加えて、昨日作っておいたお手製カシャカシャ「ホイップ君試作第一号」でカシャカシャと混ぜ合わせる。ホイップ君試作一号は、ドラケンへ向かっている馬車の中で作ったんだよ。



しばらくシャカシャカしていると、粘度が増してきたのでオリーブオイルを少しずつ混ぜていく。そしてカシャカシャ。何度か繰り返していると、白っぽくクリーム状になってくる。


 よしよし、マヨネーズの完成だっ!


 出来たマヨネーズをガラスの保存瓶に入れておく。全部で五本作った。これだけあれば、しばらく困らないだろう。


「なんだ? それが昼飯じゃないのか?」


 何を素っ頓狂なことを言っているのかね、トリシア君。


「これは調味料だよ。そのまま食べても美味いとは思うけど本番はこれからだ」


 トリシアのマネをして、黒っぽいニヤリ顔で答えてやる。


 今朝買った食パンのような白いパンを取り出し、スライスしていく。

 スライスしたパンに出来立てマヨネーズを塗る。レタスを手で千切ってパンの上に置き、スライスしたチーズを載せる。

 以前ハリスにも食べさせたワイバーンの干し肉もスライスして載っける。

 パンに再びマヨネーズを塗って、これも載せたら完成です。


「できた」

「なんだ、サンドイッチってやつじゃないか」

「あまいな、トリシア。これは、特製マヨネーズを使った『ワイバーン肉のサンドイッチ』だ!」


 ビシッ! とポーズを決める。


「おお……あの肉を使ったのか……?」


 以前食べたことがあるハリスが嬉しそうな声を上げる。


「ワイバーン肉か。ケントたちが倒したやつか?」

「いや、昔、ソロで狩ったやつを自分でスモークして干し肉にしたやつだ。この前倒したワイバーンはファルエンケールで全部お買い上げしてもらったからね」


 マリスがコソーっと手を伸ばしてきたので、パシリと手のひらを叩いておく。


「あと一時間くらい待ちな。お昼になったらだよ」


 ワイバーン・サンドイッチとマヨネーズ瓶をインベントリ・バッグに仕舞っておく。


「少しくらい味見させてくれても天罰は落ちないのじゃ。ケントはケチじゃのー」


 叩かれた手の甲をさすりながらふくれっつらで拗ねるマリスが少し可愛いので、頭をワシワシと撫でてやる。「ふにゃー」っと変な声を上げてマリスが喜んだ。拗ねた感じは何処に行ったのやら。現金なものだ。



 お昼になり、馬車の中でサンドイッチ頂く。


「これは……美味いぞーーーー!」


 トリシア、どこの味覚王様ですか!?

 絶叫するトリシアが、ますます残念な美人になってきた気がする。

 トリシアの風評被害でエルフ全般がこういった残念な人たちと思われたらどうするのか。

 ケセルシルヴァ女王やマルレニシアなんかは楚々そそとした美人だったから、トリシアが特別なんだよ?


「これは……すごい……」

「やはりケントは料理の達人なのじゃ。前に食べたイッチよりも美味いのじゃ!」


 そこはイッチです、マリスさん。


 ワイバーンの干し肉は粗挽きの胡椒こしょうが効いているので、パストラミのような感じだからパンチが効いてて美味い。マヨネーズの酸味とよく合っている。


 みんなが満足そうなので、マヨネーズ作戦は大成功だった。だが、俺はこのくらいで満足しないぜ。今後も色々と開発していきたい。からしマヨネーズとか!

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