第5章 ── 第2話
ギルドから出てくると衛兵が一人、何故か俺の馬車の横で立ち番をしていた。
「衛兵さん、どうかしましたか?」
「はっ! 冒険者ケントとその御一行の馬車だとお見受け致しましたので、
「そうなんだ……お手数掛けました。ありがとうございます」
「とんでも御座いません!」
衛兵隊って、男爵の兵じゃないのか? うーん、よくわからん。中世ヨーロッパあたりの都市の警備って領主の管轄だと思ってたんだが、その辺りの知識がイマイチ無いなぁ……
衛兵隊にはトリシアのファンが多そうな気がするし、衛兵の一部が暴走してるだけって線もあるかな。
「冒険者ケントの銀の馬は、すでにトリエン内では噂の的になっています。ワイバーン・スレイヤーが結成したチーム所有の馬車を狙う不届き者が出ないとも限りませんので!」
アレレ。トリシアのファンってだけじゃないのか。ワイバーン・スレイヤーって肩書もなかなか捨てたもんじゃないね。
「それじゃ、俺たちもう行くので、色々ありがとうございました」
俺が頭を下げると、衛兵が敬礼をして馬車を離れていった。人間の敬礼は現実世界と一緒だね。俺の知識だと、クロースヘルムのバイザーを上げる動作から来たらしいから、ここもそういう理由かな。
全員馬車に乗ったのを確認して、南の大通りに進む。
トリエンを出発する時に立ち寄った食堂はまだ営業中だった。助かる。馬車から降りてインベントリ・バッグに仕舞っておく。
中に入ると、あの親父さんが出迎えてくれた。
「そろそろ閉めようと思ったんですが、お客さんたちなら仕方ない。どうぞどうぞ」
すでに客は居ないようで、悪いことしたかな?
「よろしいんですか?」
「もう閉店の看板を出しますが、お客さんたちは良いですよ」
「ありがとう」
俺たちは一番奥のテーブルに陣取る。新メニューを幾つか試してみたい。俺は特製ポトフとスープ、ピクルスの盛り合わせなどを選んだ。
さて、ここに来たのは作戦のパーティメンバーでの分担なんかを打ち合わせを一応しておこうと思ったからだ。
「今回の作戦だけど、俺ら四人しかいないから基本的に二交代でやるよ。」
「まず、アルフォートの近接護衛は俺とマリス。俺が夜で、マリスが昼だ」
「了解なのじゃ!」
「それで、トリシアとハリスは……」
「外で警備だな?」
「そう。誰にも護衛している事を悟られないよう偽装してくれ。潜伏する場所は……中央広場で難しいと思うけど……任せるのでよろしくね」
「了解だ……俺が夜……トリシアが昼を……担当か」
俺は
「夜は夜目が効かないと見通しが悪いぞ? 私が夜の方がいいんじゃないか?」
そうか、エルフは夜目が効くってな設定があるゲームもあるな。この世界のエルフもそれなのかな?
「いや……大丈夫だ……夜目のスキルはあ……る」
夜目ってスキルなんか……後天的な能力はみんなスキルだったりして……
「とりあえず、ギルドに戻ったら俺とハリスが護衛に付く、トリシアとマリスは宿を取ってゆっくり休んでおいてくれ。明日の朝に交代だ」
打ち合わせが終わった頃を見計らってか、料理が運ばれてきた。なかなか気を利かせてくれるね。細かい心配りが繁盛の秘訣なのかもね。もちろん料理も美味いんだけど。
俺の前に置かれた料理を見た。これがポトフ? というのが俺の感想だ。どう見ても『おでん』です。だって、竹輪にコンニャク入ってるもん。いや俺、おでん大好きですけど、異世界で出会えると思わなかったのでちょっと面食らいました。
それと、ピクルスだが……キュウリの浅漬けだね。味的に
「それ、うまいのかや?」
俺が夢中でハフハフしていると、マリスが興味ありそうに聞いてくる。
「ああ、『おでん』は美味いに決まってるさ」
「『おでん』って料理なのかや?」
「俺の世界ではそう呼ばれていた、ここでは知らないけど」
「ここでは、オーディンって言われてまさ」
カウンターの親父が応えてくれる。オーディンかよ。随分と北欧神話の神様チックな名前じゃないか。全く関連ないけどな。きっと、醤油と味噌を伝えた救世主が北欧神話好きでダジャレ的に付けたんじゃないか?
食べ終わり、至福の余韻に浸る。やはり日本人はコレだよな。別に望郷の念とかはないけど、味覚に訴えられるとホームシックに掛かりそうになるね。
ガッツいて食べてしまったので、皆より早く食べ終わってしまったので、前に頼もうと思っていたことを頼んでみよう。
「親父さん、ミゾとショルユって分けてもらえないかな? あと、
「構わねえですけど、大量には分けられませんぜ」
「いや、店を開こうとかじゃないんで。個人的に俺が使いたいだけだから」
「そうですかい? それじゃお帰りになる時にでもお分けしますよ」
よし、店主から了承頂いた。今後、料理の幅が広がりそうだ。
皆が食べ終わったようなので、料金を支払う。やはり銅貨一枚も掛からない。高くはないよな?
「それと、こっちが例のもので。ショルユとミゾはともかく、シオコージってのじゃなく、
「おお、構いません構いません」
「こんなに、良いんですかい?」
「全然良いです。次の仕入れの時、俺の分も少し多く仕入れてくれません? 定期的に買わせてもらいたいんですけど」
「わかりましたよ。そうしときやす」
よし、これでいい。
食堂を出てトリシアとマリスとは別れた。彼女らには宿の確保をしてもらいたいしね。
ギルドに向かいながら、ハリスに話しかける。
「ハリス、どの辺りに潜伏するつもり?」
「対面だな……」
対面だけじゃわかんねー。こういう時、ハリスの寡黙さはネックだよね。ギルドの対面はウルド神殿があるけど、隠れられるような所あったっけな?
ギルドまで戻ってきた時、ハリスは既に俺から離れて姿は見えなくなっていた。潜伏しに行ったようだ。良い腕だね。
俺は構わずギルド内に入る。受付の犬耳さんに聞くと、アルフォートは独房にいるとのこと。俺たちが戻るまで、警備兵を一人付けておいてくれたようだ。ありがとう。
俺は地下の独房に降りていった。壁は石造りで、明り取りの窓もない。照明用ランプが等間隔で壁に掛けてある。
いくつも並んだ独房の一番奥の扉の前にギルド所属の警備兵が一人立っていた。
「ご苦労様でした。代わります」
「はっ! それではよろしくお願いします」
そう言うと、警備兵がアルフォートが中にいる独房の鍵を俺に預けていった。
一応中を確認するため、鍵を明けて中を覗く。
アルフォートは粗末なベッドの上に座っていた。中を見回すと明かりもない。こりゃ環境悪いな。
「貴族なのに、こんな所で悪いな」
命を賭けて協力してもらってるのに、これじゃ申し訳ない気がするなぁ。
「構わん……どうせ帝国に戻っても同じ事だ」
「どういうこと?」
「私は間違いなく今回の侵攻作戦失敗の原因とされる。そうなれば軍に居場所はない。ナルバレス家の家名にも傷が付く。良くても一生実家に軟禁されて最初からいなかった事にされるか、下手をすれば皇帝陛下に差し出されて公開処刑だ」
帝国は随分と過激だな。
「それなら、お前に協力しても問題あるまい」
「そうか……」
随分と気の毒なことになったものだ。志願して潜入部隊の隊長になったにしても、彼が計画した作戦じゃないだろうし。
「今回の侵攻計画は、誰の立案なんだ?」
「マルチネス卿の進言だと聞いている」
「誰、それ?」
「イルシス神殿の神官長だ」
イルシス神……ドーンヴァースにおいては魔法を司る神だった。魔法が盛んなブレンダ帝国なら信仰を集めてそうだね。
「なるほど……よし、それじゃ取り敢えず俺は外で護衛をするけど、何か必要なものがあったら言ってくれ。飯は食べた?」
「ああ、パンを二切れに水が出た」
それは味気ない。アルフォートの座る木製のベッドに備え付けてある粗末な毛布をどけて、この前買った予備の毛布をインベントリ・バッグから取り出してベッドの上に置いた。その上にパン、チーズ、ハム、果物なども置いていく。ついでに羊乳も水差しに入れて渡す。
「これを食べてくれ」
俺の行為にアルフォートは少し驚いていたが、直ぐに頭を下げた。
「感謝する」
「協力してもらってるしね。悪いようにしないって約束したし。有言実行が俺のポリシーさ」
「ポリシー……? 何かの呪文のようだが……」
「あ、いや、信条ってことさ」
アルフォートが納得したので、俺は独房から出る。どうも英語の単語は理解されないな。困ったものだ。廊下の端にスツールがあったので腰を掛ける。しかし護衛というものは暇だな。何か暇つぶしを考えよう。
そういや宿題があったっけ?
ぶっちゃけ、水でも入れていっぱいになったら、その水を桶にでも注ぎ入れて桶を数えるとかが手っ取り早いんだろうけど、手間だよね?
ドーンヴァース時代なら、アイコンにカーソルを合わせれば、ポップアップ・ウィンドウが表示されるからアイテム名とか性能とか直ぐわかったもんだけど。
ウィンドウか……ちょっと
俺はショートカット欄の空いている所をクリックするようにイメージする。すると三つのウィンドウが開く。一つ目はスキル・リストだ。二つ目は魔法リスト。目的は三つ目のウィンドウだ。
三つ目のウィンドウには、インベントリ・バッグに入っているアイテムの一覧が並んでいる。ここからドラッグ&ドロップすることで、ショートカット登録ができるが、このアイテムの一覧はアイコンの後ろにアイテム名が表示されている。
アイテムの一覧をスクロールさせていくと、俺の所持する幾つかの
『
これだ。これで判別できるよ。あとでトリシアたちに教えてやろう。
宿題があっという間に片付いてしまった。再び手持ち無沙汰になる。仕方ないので、新しくカッコいい技名とか考えておくか。ついでに、技のポーズとかも決めておこうかな。日々考えておかないと、
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