第4章 ── 第6話

「な、なんだ!?」

「魔物の襲撃だ!」

ひるむな!植物系の魔物は火に弱いぞ!」


 いや……今、昼間だろ。夜でもないのに火なんか何処どこにもいてないじゃないか。

 すでにキャンプは大混乱だ。


「よし、いくぞ!」

「突撃なのじゃ!」


 俺は灌木かんぼくから立ち上がると、剣を抜いて大混乱のキャンプに飛び込んでいった。 マリスも剣と盾を構えて俺に続く。ハリスとトリシアは後方支援だ。



『ブラミス・ブレザクス・ヘル・ウディリア!『植物破壊ブレイク・プラント』!』


 黒ローブの男が呪文を唱えると、男を拘束しようとしていた俺の魔法を粉々に破壊してしまった。しかし、他のやつらの茨までは破壊する余裕はなかったようだ。


「こんにちは。魔法使いスペルキャスター殿」


 黒ローブの男は、突然現れた俺とマリスを見て驚愕の表情を浮かべる。


「な、何者だ!?」


 男は俺に杖を突きつけながら言う。


「いや、それ、こっちのセリフだと思うんだけどね。俺は冒険者のケントだよ」

「冒険者風情ふぜいが何の用か!?」


 魔法で捕まえきれなかった兵士風の男たちが幾人か黒いローブの男をかばうように前に出てくる。


「だから、それは俺らのセリフだよ。あんたら、どう見てもこの国の人じゃないよね? ゴブリンを使って、この国で何をしてるんだ?」

「ぐっ……」


 痛い所を突かれたのか、黒ローブの男は口をつぐむ。


「ま、いいや。捕まえてギルドに連れて帰るだけだ」


 俺が剣を突き出すように構えると、マリスも盾の後ろから剣を構えて戦闘態勢に入る。

 相手は黒ローブを含めて五人だ。何とかなるかな。


「お前たち掛かれ!」


 黒ローブの命令で、四人の兵士が俺たちに襲いかかってくる。


『掛かってくるのじゃ! 背ばかり高いども!』


 その声はかなりの大きさで林に響き渡る。一瞬鼓膜こまくが破けるかと思ったよ。どうやら挑発のスキルっぽいね。さすが守護騎士ガーディアンナイト


 兵士風の男たちはマリスへと突進していく。全部マリスに行くと流石に大変そうだ。だからといって殺しちゃうのもなんなので、峰打ちで気絶を狙うことにする。


「秘剣、無刃斬」


 スキルを発動させると、猛烈な衝撃波をまとった刃が一人目を襲う。一瞬で事切こときれたように地面に転がった。威力が結構凄い。死んでないだろうな?


 他の三人はマリスに斬りつけるが、巨大な盾が全ての攻撃を受け流してしまう。防御にてっする守護騎士ガーディアンナイトに攻撃を当てるのは至難の技だよ。


 俺がもう一人に取り掛かろうとした時、横から呪文を唱える声が聞こえた。


『ベセス・モレス・ボレシュ・ソーマ・マスティア・フォーリオ! 火球ファイア・ボール!』


 なんだと!? 混戦の中でファイア・ボールなんか使うのかよ!


 横目で火の玉が飛んでくるのが見えた。これはけようがない。俺は火の玉と混戦中のマリスたちの間に立ちはだかる。


 ええい! なるようになれ!


「奥義! 蒼牙・炎斬波!」


 飛んでくる火の玉を袈裟懸けさがけに斬りつける。もちろん、こんなスキルは(以下略)。カチリ。


 剣と火の玉が接触した瞬間、刃を中心に火の玉は大爆発を起こす。かなり熱い。

 それでも、爆風と炎はマリスまでは届かなかったようだ。兵士たちは飲み込まれた。南無。


 黒ローブの魔法は脅威だな。早々に止めないとマリスが危ない。


 俺は地面を蹴ると物凄いスピードで黒ローブへと迫る。


「虚空爆砕陣!」


 黒ローブの男の立っているところの手前の地面に渾身こんしんの力を込めて剣のみねをブチ当てる。カチリ。


 地面にブチ当たった刀身が地面を陥没させて小さなクレーターを作る。吹き飛ばされた石や土が周囲に猛烈な勢いで飛び散る。広範囲に飛び散るから避けられないだろう。もちろん俺もだが。

 一種の自爆技になってしまったが、たかが土か石程度では俺のHPは大して減らない。鎧も着てるしね。ただし、ローブしか着ていない男は別だろう。


 黒ローブの男は多数の石や大量の土の洗礼を受けて吹っ飛んで気絶した。


「こんなもんかな」


 ちょっとファイア・ボールとか石とかでHPが少し減ったけど、平気なフリをしながら周りを見渡す。茨に拘束された男たちも石と土のせいで何人も気絶していた。ゴブリンもね。


「相変わらず凄いのう、ケントは」


 マリスに怪我ないようだ。トリシアとハリスも灌木かんぼくから弓を構えて出てきた。


「新たな技、見せてもらったぞ!」

「俺たちの……出番がなかっ……た」


 トリシアは相当ご満悦のようだが、ハリスは不完全燃焼か。


 インベントリバッグからロープ束を取り出してみんなに渡す。

 そして、全員で黒ローブと周囲の兵士を片っ端から縛っていく。三人は黒焦げになって絶命していた。一応、ゴブリンも縛っておこうか。


 全員拘束し終わったところで、魔法を解除する。茨がするすると地面に潜っていく。一体どこに行くんだろうね?


「さてと、こいつらの目的を調べないとね……」


 全員を一処ひとところに集めていく。


「俺とトリシアで尋問をするから、ハリスとマリスはキャンプ内の荷物を漁ってみてよ」

「わかったのじゃ」


 ハリスとマリスがキャンプ内にあるテントや陣幕に入っていく。


「で、君たち、何者だ?」


 気絶していない兵士たちに問いかける。


「……」


 ふむ、喋らないつもりらしいね。


「トリシア、話す気無いようだけど……どうする?」

「喋りたくなるようにするしかないな」


 左手にアダマンチウム製の右手を添えてボキボキと指を鳴らしながら、トリシアが物凄く黒いニヤリ顔になる。


 兵士たちが恐怖の色を浮かべ始める。数千人いる遊撃兵団の元団長様は伊達じゃないからねぇ。


「我らは……ブレンダ帝国の兵士だ。停戦条約にのっとり、捕虜として扱ってもらいたい」


 一人の兵士が口を利いた。ブレンダ帝国って、草原を欲しがってる隣の国だよね。魔術が盛んなんだっけ。


「何でオーファンラントに帝国の兵士がいるんだ?」

「我ら兵士は詳しいことを知らされていない。ナルバレス閣下が詳しいことを知っている」


 俺が聞くと、兵士は気絶している黒ローブをあごで指して言う。


「で、このゴブリンは?」

「近くにあるゴブリンの巣のものだ。その巣からゴブリン・ロードをさらって来て人質にした。そして、その配下のゴブリンを使っていた。それは、その内の一匹だ」

「で、ゴブリン・ロードは?」

「ゴブリンどもが、いつ奪還しにくるか判らないので、本日早朝に本国に送った」


 俺とトリシアは顔を見合わせる。


「どうもブレンダ帝国の王国侵攻作戦みたいだね」

「そうだな。となると……あの黒鎧はブレンダ帝国のスパイか」

「そうみたいだ。そうそう、思い出したんだけど。あの黒鎧、男爵の息子と一緒にいたんだよね。たしかドレンとか言ったっけ?」

「それはそれは……本当にキナ臭くなってきたな」


 陣幕からハリスが出てくる。手には地図のようなものを持っていた。


「陣幕に……こんなものがあっ……た」


 それはカートンケイル要塞と帝国を隔てる湿地帯の地図だった。要塞の西側に帝国内からこちらへ抜けられる細い道が点線で書かれていた。秘密の抜け道といったところか。この兵士たちは、ここを抜けて王国に侵入してきたようだ。よくまあ探し出したな、こんな道。


「この道を抜けて来たんだな?」

「そうだ……」


 兵士が伏し目がちに肯定こうていする。


「すると……ゴブリン・ロードはこの道から送られたのか」


 相当危なっかしい道なので移動はゆっくりだろう。もしかしたら急げば追いつくかもしれないな。


「トリシア、ここは任せていいかな?」

「どうするつもりだ?」

「ちょっと行って、ゴブリンの王というのを連れ戻してくるよ」

「わかった、ケント。気をつけろよ」

「了解」


 俺はすぐさま地図の道へと疾走を始めた。

 常人を遥かに超えたスピードで林の中を南西に突っ走る。

 速度を維持し二時間ほど走ると、目的の抜け道らしきあたりに出た。周囲を探索すると人間の足跡がかなりの数見つかった。


 よし、ここに間違いなさそうだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る