第4章 ── 第2話

 少し待つと、白ひげの爺様が扉を開けて顔を出した。


「おお? 守護騎士ガーディアンナイト様。また来たのかい?」

「そうなのじゃ! 今日は仲間も一緒じゃぞ?」

「ささっ、入ってくだされ入ってくだされ」


 嬉しげな爺様は、快く俺たちを家に招き入れてくれる。マリスは勝手知ったると言った感じで居間のソファに飛び込んだ。


「すいません、仲間が……ほら、マリス! 行儀よくしなさい」

「ほっほっほ。構いませんですじゃ。守護騎士ガーディアンナイト様を見ていると、昨年死んだ孫を思い出しましての」


 マリスを見る爺様は、笑いながらも少し寂しげな顔をする。


「最近、周辺に現れると聞くゴブリンのせいですか?」


 関係性がありそうなので聞いてみたが、爺様は首を横に降った。


「いや、病気でのう……見てわかるように、この村に医者も神官プリーストもおらんでの」

「そうでしたか、辛いことをお聞きして申し訳ない」

「いやいや、いいのじゃよ……ところで、守護騎士ガーディアンナイト様たちは、何用でこの村に?」


 当然の疑問だろう。別に秘密の任務というわけでもないので素直に答えることにする。


「最近、この周辺でゴブリンの集団が目撃されると聞いています。俺たちはギルドの依頼で、それを調べに来たんですよ」

「そうでしたか、ゴブリンがのう……」


 村長はピンと来ない顔だ。


「村人たちからそういう話は聞きませんか?」

「ちょっと前に一度騒ぎになりましたな。立ち寄った商人にギルドへの依頼を出してもらったら守護騎士ガーディアンナイト様が来て下さったんじゃよ。それ以降は、とんと聞きませんがの」


 おかしいな。この辺りの村人が不安になっているという話だった気がするが……


「ということは、その一度きりということですか」

「そうですじゃ」


 嘘をいているようには見えない。うーん、どういう事だろう?


「念のため他の村人にも話を聞きたいのですが、よろしいですか?」

「構わんじゃろう。そうじゃな……この家の横の集会所に皆を集めましょうかの」

「そうして頂けると助かります」

「されば、少しお待ち下され」


 そう言うと、爺様は外へ出ていった。


「何のおもてなしもできませんが、お茶でもどうぞ」


 爺様の奥さんらしき老婆が、お茶を入れてくれたので皆でごちそうになる。これは紅茶みたいな味だな。色は赤くないけど。


 お茶を頂いていると、爺様が戻ってくる。


「集まりましたのじゃ、こちらへ」


 集会所は村長の家の隣にあった。といっても村長宅とくっついて作られているので一つの家にしか見えなかったけどさ。

 集会所には村人たちが集まっている。


「銀の馬車の人だ……」

「なんだ、普通の冒険者じゃねえか」

「あれま、エルフ様も一緒じゃないか」

守護騎士ガーディアンナイトの嬢ちゃんも一緒か」


 村人が口々に俺たちのことを話している。

 エルフは様付けされて呼ばれる存在なのか。長寿ってところが尊敬対象っぽい気がするけど、トリシアは何か子供みたいな性格だから尊敬とは無縁のような? 伝説の冒険者ってところは尊敬対象だけど、村人はまだ知らないか。


「皆、この方たちが聞きたいことがあるそうじゃ。正直に何でも話してあげておくれ」


 村長の爺様が村人にそう言ってくれる。顔を見合わせていた村人たちがみんなうなずいてくれる。


「皆さん、自己紹介させて頂きます。俺は冒険者チーム『ガーディアン・オブ・オーダー』のリーダーをさせてもらってるケントと言います。ギルドから依頼を受けてやってまいりました」


 最近、この辺りでゴブリンが頻繁に目撃されていて、周辺の村々が不安を感じているとの情報があることを教えると、村人たちがざわめき始める。


「おいらは聞いたことねえな」

「あたいも無いわね」

「そういや、ちょっと前にキースの息子が外で見たとか騒いでなかったか?」

「そうそう、それで守護騎士ガーディアンナイトの嬢ちゃんが来てくれたんだったな」

「キース。息子のクルトはどうした?」


 視線を向けられたキースと呼ばれる口ひげの男性を見る。


「クルトは羊を外に連れ出してるよ。そろそろ戻ってくると思うが……」


 ゴブリンの目撃者クルトは。羊の放牧に出ているようだ。


「帰ってきたら話を聞いて構いませんか?」

「ああ、構わんよ。村長の家にいるんだったら、帰ってきたら向かわせるよ」


 俺の要望にキースがそう請け負ってくれる。


「ありがとう。よろしくお願いしますね」


 ゴブリンの目撃者のクルトを待つことに決定したので集会は解散となった。


 集会所の外に出ると、幾人かの子供がおっかなびっくりといった感じでゴーレムホースを遠巻きに見ていた。やっぱ珍しすぎるのかなぁ……出し入れ面倒だけど、仕舞っておくべきかね。


 村長宅でしばらく待っていると、陽が沈みきる前にクルトが訪ねてきた。年の頃でいえば、マリスより少し大きいくらいか。


「俺に用だって親父に聞いてきたんだけど」

「ああ、わざわざすまない。ゴブリンの事についてなんだが」

「それなら、前に守護騎士ガーディアンナイトの子に話した通りだけど……」


 クルトは以前、マリスに話したことを再び教えてくれた。コリント村の南、約一キロあたりで巨大な狼に乗ったゴブリン数匹と小さめのゴブリンが一〇匹くらい西の方から東の方へと歩いていくのを見かけたのだという。クルトはビックリして、すぐに羊たちを連れて村へと戻ったという。


「襲われないかと気が気じゃなかったけど、無事に戻ってこれたんだ」

「気づかれなかったのは幸いだったね」

「いや……たぶん気づかれたはずだよ。狼に乗ったゴブリンの一匹がこっちを見たから」


 気づいたのに追ってこなかったのか? 聞いた限りゴブリンはかなりの集団だ。狩りに出てきているゴブリンなら襲ってきても不思議じゃないのだが。


「その後、ゴブリンはどうしたか判るかな?」

「怖かったから、必死に逃げたから良くわからないけど……何度か振り向いた時には、もう姿は見えなかったよ」


 ゴブリンはクルト少年を追わずに姿を消したようだ。通常のゴブリンと反応が違う気がするね。話のニュアンスからしても統率が取れているようだし。マリスと戦っていたゴブリンどももゴブリン・ファイターを中核とした統率の取れたものだった気がする。

 マリスの時のことも念頭にゴブリンの行動を推理してみるが良くわからない。


「トリシア、どう思う?」

「私にも判らないが、普通のゴブリンの行動じゃないのは確かだな。何が起こっているのか」

「マリス、前に戦っていたゴブリンはどんな感じだったんだ?」

「そうじゃな、我がゴブリンを見つけた時は、ゴブリンどもは草原にしゃがみ込んで街道を見ていたようじゃが……」


 草原内を進んでいたマリスは、街道を監視するゴブリンどもの側面に遭遇したらしい。


「街道を監視しているとなると、隊商あたりを狙っていたのかな?」

「もしくは、オーファンラントの軍事輸送隊を狙っていた可能性もあるな」


 一概にコレだという確信は得られないが、ゴブリン集団の行動はかなり不審なことは間違いない。


「もう、用がすんだなら、帰っていい?」


 クルト少年が、話し合う俺たちに不安げに問いかけてくる。


「あ、ゴメン。情報ありがとう。帰っていいよ」


 俺は、クルト少年の手に銅貨を握らせる。


「役に立てたなら嬉しいよ。それじゃ」


 銅貨を嬉しげに握りしめてクルト少年は帰っていった。

 さて、今後の方針だが……


「明日の早朝に現場に行ってみよう。もう随分つから何か残っているとも思えないけどさ」

「いや……調べてみる価値はあ……る」


 マリスと俺とゴブリンが戦闘で現場を荒らしてしまっているから期待は薄いかもしれないが、それ以外に考え付かないから仕方ないね。


 その日は集会所を貸してもらって寝ることにした。さすがに四人が泊めてもらえるほど、村長宅は大きくないからね。でも、夕食はご馳走になった。前に飲んだ山羊乳に比べると羊の乳が濃厚でうまかった。


 夜、寝る前にスキルを確認しておいた。能力石ステータス・ストーンを手に入れてから、ざっとしか確認していなかったからだ。案の定「料理」スキルが手に入っていた。驚いた事に「鍛冶」スキルも覚えていた。以前マストールを手伝った時に覚えたのだろうか。頭の中で音が鳴った記憶はないが、あれだけハンマーをガンガン振り下ろしてたから気づかなかっただけかもしれない。

 この世界に来てから手に入れたスキルは以下の通りだ。


 戦闘系が「回避」、「受け流し」、「紫電」、「翼落斬」、「扇華一閃」、「無刃斬」、「飛燕斬」の七つ。

 魔法系が「魔法:水」、「魔法:土」、「魔法:木」、「魔法:風」、「魔法:雷」、「魔法:物理」、「魔法:魔術」、「魔法:理力」の八つで、元から覚えていた「魔法:火」を入れれば九系統の属性魔法を覚えたことになる。理力系は物理と魔術の属性の複合上位属性らしいよ。

 いつ覚えたのか判らないんだが「魔法抵抗:万能」なんてのもあった。万能ってことはどんな魔法にも抵抗できるのだろうか?

 その他としては「毒耐性」、「御者」、「算術」と、先にも言った「鍛冶」、「料理」だ。

 毒耐性もいつ覚えたのか……毒盛られた記憶はないし……


 何にせよスキル・ストーンも使わずに覚えられるのは本当に助かるな。この世界にはスキル・オーブというものもあるみたいだけど、必死に探す必要はなさそうだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る