第3章 ── 第8話

 翌日、四人でギルドに足を運んだ。そろそろ冒険がしたい。


 俺たちがギルドに顔を出すと、ギルド内にいた冒険者たちが騒ぎ出す。


「おい、あれ!」

「ワイバーン・スレイヤーとトリ・エンティルの一行だぞ……」


 この世界に来てから思うんだが、冒険者って気軽に声掛けてこないよね。まあ、ドーンヴァースでも似たような感じだったから気にはならないけど。


 掲示板に近づくと、掲示板の前にいた冒険者たちが軒並み道を空ける。便利って思えば便利だけどさ……露骨すぎるんだよ。だけど、仲良くしようぜとも言えないヘタレでスマン。


 掲示板には相変わらず幾つも依頼告知が貼り付けてある。殆どがブラスやアイアンの依頼で、カッパーなどは殆どない。シルバーに至っては皆無だ。

  マリストリアのレベルアップを優先的に考えようと思っていたし、相応の依頼を探してみよう。俺やハリス、トリシアがいるから一ランク上の依頼がいいかな。


「ブロンズ辺りの依頼が良いと思うんだが、マリストリアはどれが良い?」

「我が決めて良いのか? そうじゃのう……コレ!」


 マリストリアが依頼書の一つを指差す。


『求む! 被験者!

 推奨ランク:ブロンズ

 屈強な冒険者求む。当方が開発している魔法の実験台をお願いします。身体に自信がある方が希望です。

 場所:マクスウェル魔法店、南区

 報酬:銀貨二枚、当方開発の回復薬などもお付けします』


 被験者か……危なそうだけど? 冒険者に向けて魔法をぶっ放して効果を見ようって話だよな……?


「ダメ、ケガとかしそう」

「何故じゃ! 我は身体には自信があるのじゃぞ!?」


 マリストリアが身体をクネクネさせる。セクシーさをアピールしているつもりなのだろうが……君、ボン・キュッ・ボンには程遠いよ。と言うより、そういう自信じゃないと思うぞ?


「いや、これ、新開発の魔法を俺たちに掛けたいって話だよ? 攻撃魔法も危ないけど、呪いとか精神支配とかの魔法だったら嫌だなぁ」

「むむむ……」


 マリストリアは俺に言われて想像がついたのか、唸り声を上げる。

 しかし……魔法店ってことは、呪文書とか置いてたりするかな。あとで行ってみようか。


「トリシアは、どれが良いと思う?」

「ん? そうだな。これなんかどうだ?」


『ブリストル墓場の墓泥棒

 推奨ランク:ブロンズ

 ブリストル墓地に、夜な夜な明かりが見えると噂が立っています。墓地を調べると、霊廟の扉が開いていたり、墓場が暴かれていたりしています。死者や先祖の墓を汚す不届き者を調べて捕まえて下さい。詳しくはトリエン東地区の墓地管理組合までお越しください。

 場所:ブリストル墓地

 報酬:銅貨八枚』


 墓泥棒?? 墓なんか暴いて何を盗んでいるんだ?


「墓泥棒っていうと、やっぱ埋葬品目的かなぁ……」

「死体って線もあるがな」


 さらっと怖いことをトリシアが言う。


「死体なんか盗んで、どうするの……」

「死霊術とかさ。魔法使いなんかだとスケルトン作り出して従者にする例もあるだろ」


 なるほど、その線もあるのか。しかし何か邪悪な感じがするな。


「そういうのだと、気が乗らないな……」


 動く死体とか、ゾンビ系もあり得るよな。ゾンビ映画とかみたいに噛まれたらゾンビになるとかは無いだろうけど、何か嫌だ。

 意見を聞こうとハリスをうかがうと、一つの依頼を見ていた。どの依頼だ?


『ゴブリン調査

 推奨ランク:ブロンズ

 最近、草原地帯でゴブリンの集団が頻繁に目撃されています。羊や牛などに今のところ被害はありませんが、村民が不安を感じています。早急にうろつく目的、もしくは巣の位置など、生息域を調べてください。

 場所:トリエン南のコーリン村周辺の草原地帯

 報酬:金貨一枚』


 草原地帯にゴブリン?

 マリストリアと出会った時、ゴブリン関連の依頼受けてたっけな。あれとは別件?


「マリストリア。草原地帯でゴブリンと戦ってたけど、何の依頼だったの?」

「ん? あれはじゃな。ゴブリンが出たから退治してくれって依頼だったのじゃぞ?」


 んー、ということは目撃例が少ない時に出された依頼だったのかも。ゴブリンの巣の探索やら徘徊はいかいの目的を調査か……結構難しそうだ。でも報酬はなかなかいい。


「ハリスはこれがいいのか?」

「俺とトリシアの……スキルがあれば……そう難しい依頼じゃな……い」


 そうハリスは言う。自分の名前が出てきたのでトリシアが後ろから依頼を覗き込む。


「なになに? ゴブリン調査? 討伐……じゃないようだな」

「ゴブリン語、解かんないんだけど。目的の調査はどうするんだよ?」

「……確かにな……俺もわから……ん」


 だよな。この前のゴブリンが喋った言葉も欠片も理解できなかった。


「私は少し解るぞ? 以前、ゴブリン語は少しだけ学んだ」


 トリシアが驚く事を言う。


「人間はゴブリンを魔物と勘違いしているが、アレは元々妖精族だった種族だ」

「え!? そうなの!?」

「ああ、魔族たちにそそのかされて、混沌の軍勢に入ってしまったと言われているがな」


 そうなのか。そんな裏設定知らなかったよ。


「前に冒険者をやっていた時にゴブリンと交渉する必要があって、少しだけゴブリン語を齧った」


 ふむ、それなら問題なさそうか。しかし、巣や目的の調査となると広範囲の探索が必要になりそうだな。期間とか指定は無いようだけど……少々準備が必要か。


「よし、じゃあこれでいいか。トリシアもマリストリアも良いね?」

「私は構わない」

「またゴブリンかとも思わなくもないのじゃが、問題ないのじゃ」


 同意が得られたので依頼書を剥がして受付へと向かう。


「ようこそいらっしゃいました、ケント様」


 すでに名前を覚えられてしまったか。


「あ、どうも。依頼を受けたいのですが……」


 と言って、剥がしてきた依頼書を見せる。


「畏まりました。チーム登録は如何しますか?」


 チーム登録って何だ?


「ここにいる四人がケントのチームメンバーだ。ケントをリーダーとして登録してくれ」


 俺が戸惑っているのを感じたのか、トリシアが助け舟を出してくれる。


「畏まりました、トリ・エンティル様。では、チーム登録を致しますので皆さんの冒険者カードをお願いします」


 俺が自分のシルバーカードを置くと、皆もそれに従う。


「ケント様、トリ・エンティル様、ハリス・クリンガム様にマリストリア・ニールズヘルグ様の四名で登録します。ご希望のチーム名は御座いますか?」


──キターーー!


 どっかの掲示板で有名な顔文字が頭の中を横切るが、冷静な顔を保つことに最大の注意力を払う。何かカッコいいチーム名にしなければ!

 トリシアが演習場で俺のことを『秩序の守り手』と言っていたのが脳裏に過ぎった。


「……ガーディアン・オブ・オーダー……」


 ボソリと囁いてしまった。あれはちょっとカッコ良かった。


「それは呪文か何かか?」

「どんな意味なのじゃ? 教えてたも!」


 俺の囁きが耳に入ったトリシアとマリストリアが食いついた。英語なんだが……そういえば、エルフの女王も英語解らなかったな。


「えーっと、演習場でトリシアに言われた言葉を思い出してね。俺の生まれた所のある地方の言葉にしてみたんだが……ここの言葉だと『秩序の守り手』かな」

「ほう……なかかな興味深いな」

「おおー、なんか凄いのじゃ……」


 感心する二人。ちょっと照れる。


「畏まりました。チーム名「ガーディアン・オブ・オーダー」で登録致します」


 受付嬢はそう言うと、並べられた冒険者カードに手をかざす。


一団登録パーティ・レジストレーション


 そういや、ウスラのチームで依頼を受けた時、この登録作業してなかったけど……


「ランクは問題ないことを確認しました。この依頼はケント様のチームが行うものとして処理致します」


依頼受領レシート・コントラクト


 再び受付嬢が呪文を唱える。


「これで依頼の受付は完了です。よろしくお願い致します」


 俺たちはカードを仕舞い、ギルドを出る。


「さて、今回の依頼だけど、そこそこ時間がかかるはずだから、準備しないとね」

「四人分の……食料と水……それと……キャンプ用品が必要になる……か」


 トリシアも頷く。


「どのくらい掛かるか判らないから、最低でも一週間分は用意するべきだな」

「それだけの荷物だと結構な分量だね」

「馬車を借りる……か?」


 馬車か……前は借りたけど、返すのとか面倒だな。


「折角だから、一頭立ての小さい幌馬車を買おうか」

「豪気じゃのう! 懐は大丈夫かや!?」


 ワイバーンの売却代金で常夏のように暖かです。


「問題ないよ。でも馬車ってどこで買える?」

「以前……東門で馬車を……貸してくれた所で……」


 なるほど、あそこで購入できるのか。


「それじゃ、食料とかはトリシアとマリストリアで入手してきてくれないか?俺とハリスは馬車とキャンプ用品を手に入れてくる」

「了解、ボス」

うけたまわり~なのじゃ!」

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