第3章 ── 第4話
自分の武具の手入れがてら、マリストリアの手入れする鎧を対面から眺めてみるとアチコチに少々凹みが出来ているようだ。
「マリストリア、鎧に凹みとかあるぞ」
「修理するほどじゃないのじゃ。もう少し使ってから鍛冶屋にいくのじゃ」
「俺が直してやろうか?」
「そんなことできるのかや?」
俺はインベントリバッグから木っ端と小さいハンマーを取り出す。摩耗があるわけじゃなさそうなので叩くだけでよさそうだ。マリストリアに合わせて造られた小さいプレートメイルの凹みを、裏側からコンコンと叩いて戻していく。鉄製の鎧なので比較的簡単に直る。
「ケントは器用じゃの。戦闘もすごく強かったしの! ヒエンザーンとか!」
ビッ! っと俺のやった斬り上げの仕草を真似するマリストリア。
「何! 新技か!?」
トリシアが食いついてきた。団長に知られるとこうなると思った。
「大したもんじゃないですよ」
「しかしケントの技だからな、見ておきたいじゃないか」
修理に没頭したフリで誤魔化すことにする。マリストリアがトリシアの話に飛びついている。
「ハリス、明日の昼前、
黙々とエル・エンティルを磨いているハリスに声を掛ける。
「行く……」
即答で同意してくる。そういや、
ガールズトーク……ではないな。俺の演習場での一件で盛り上がる二人にも声を掛けておくべきかな。
「明日、ハリスと
「私は持ってるよ」
「我はそれほど持ち合わせがないのじゃ……」
トリシアが持ってるのは想定内だが、マリストリアはどうするかな。
「お金なら貸してやろうか?」
「借りは作らん主義なのじゃ!」
ゴブリン戦で十分借り作ってる気がするが……まあいいか。
「それじゃ二人は自由行動で。午後は俺たちギルドだからね」
「じゃあ、私は午後にギルドに行くとしよう」
「我も行くのじゃ」
話しているうちにマリストリアの鎧の修理が完了する。
「皆、夕食前に風呂にでも入っとこうか、女性陣はお先にどうぞ」
「覗くなよ?」
「覗くか!」
黒い笑いを浮かべるトリシアは、やっぱりイタズラ小僧で決定だな。
着替えやタオルなどを持って脱衣所に入っていくトリシアとマリストリアを見る。もう少しボリュームないとストライクゾーンに入ってきませんな。トリシアはCカプ以上ありそうだけど……もう二カプくらい欲しいね。
「ハリス、
「この町では……ウルド大神殿で手に入る……な」
ウルド大神殿か。中央広場に確かウルド神像があったっけ。あのデカイ神殿がそれだな。
「ギルドと同じ中央広場か」
「そうだ……」
しばらくするとドアがノックされた。出てみると、宿の従業員が料理が載った大型カートを押して来ていた。四人前ということで大型カートが二台だ。
「ありがとう、中には俺たちが運ぶよ」
そう言って、俺は銅貨を一枚渡す。従業員は嬉しそうにお辞儀をして去っていった。
ハリスとカートを部屋に運び込んでいると、浴室へと繋がる脱衣所から、トリシアが出てきた。
パンツ一丁にタオル姿だよ。長い髪と首から下げたタオルで、かろうじて双丘の大事な部分は見えないが破廉恥極まりない格好だ。
「覗くなと言っときながら、そういう格好で出てくるんじゃありません!」
なんかお母さんのようなセリフをつい吐いてしまう。
「ははは、眼福だろうが」
悪びれもせず言うトリシアは確信犯に違いない。圏外ではあるが、女性の裸をじっくり見るほど図太くないので背中を向けておく。
「はよ、服着ろ」
背後にヒラヒラと手を振って促す。破廉恥タイムを断られたトリシアが脱衣所に戻っていったので安心していたら……
タッタッターと音を出しそうに走ってくる全裸幼女が俺の背中にぶつかって来た。
「どーーん!」
「ブルータス、お前もか……」
どっかの皇帝が暗殺された時のセリフのような事を口走りつつ、ぶつかって来た幼女の頭にチョップを入れる。
「あだ!」
「女の子は男の前に無闇に裸で来ちゃ駄目でしょ!」
涙目のマリストリアが渋々といった感じで脱衣所に戻ってった。
その様子を見ていたハリスが腹を抱えて笑っている。
「ククックッ……お前ら……殺す気……か」
別にウケを取るつもりではないのだが……
その後、俺たち二人で風呂に入った。出てきた時に、トレーの夕食を、トリシアとマリストリアが食い散らかしているのを見て一悶着。それから寝床の割当で、マリストリアが俺と寝ると言い張るは、トリシアはハリスと一緒の寝室でもいいぞとか言い出すはあったが、男女で寝室を分けることに成功した。それぞれの寝室にはベッドが二つずつあるので、一つのベッドで寝るんじゃないのは言っておく。
翌朝になり、居間に行くと、ソファテーブルの上に朝食が置かれている。サービス良いね。ハリスも起きてきたので、トリシアとマリストリアも起こそうと思ったら、二人共ベッドにいなかった。どこに行った……と不安になるが、中庭から声が聞こえてきた。
「強くなるのじゃー、強くなるのじゃー」
マリストリアだね。なんかお経のような抑揚のない感じがするが。
ベランダから覗いていみると、腕を組んで仁王立ちのトリシアが、鎧姿で腕立て伏せをするマリストリアを見下ろしていた。
「力尽きるのはまだ早いぞ。その程度でケントの真の仲間になれると思うか! 貴様はまだウジ虫程度の存在でしか無い!」
どこの鬼教官ですか? 海兵隊ですか? 俺の横で小刻みに震えるハリス。お前も経験者か、ハリス。
「あと一〇〇回だっ! それが終わったら朝飯だ! 限界を超えろ! 諦めるな!」
なんかどっかのテニスプレイヤーが混じってきた。
「コツを教えてやる。ここまでだと思ったときに、もう一歩粘れ。お前の思う限界にはその上がある」
スポ根もので出てきそうなセリフだな。まあ、分かるけど。
邪魔しちゃ悪そうなので、とっととハリスと朝食を済ませて出かけよう。
労働者相手のガッツリ朝飯とは違い、軽めのパン、ハム、チーズ、牛乳、サラダといった朝食だが、パンは比較的柔らかい。この世界に来てから、とんと柔らかいパンというものに出会っていなかったのもあって気づいた。ファルエンケールでも結構固かったし。珍しく焼き立てなのかな?
朝食後、装備を整えて宿屋を出る。西の街道へと続く西の大通りはすでに交易商人の馬車や護衛の冒険者行商人などの行き来が絶えないほど人通りが増えていた。流れに逆らわないように中央広場へと向かった。
中央広場は露天商たちが場所を確保するために
ウルドの大神殿は広場北側の一画を占めている。小ぢんまりした教会のようなマリオン神殿とは違って立派なものだ。南に軍事拠点があるし、軍神の神殿が大きいのもそのせいだろうね。神殿の大きな入口が開かれたままになっているので、ハリスと一緒に入っていく。
神殿内に入っていくと、大聖堂といった感じの大きなホールになっていた。天井画や壁画で飾られたホールは一見の価値があると思う。
「はー、こりゃ凄いな。システィーナ大聖堂もかくや……だな」
「ケントの国の神……か?」
「説明が難しいが……そんなところだ」
俺たちが壁画などを眺めていると、神官の一人が近づいてきた。
「軍神ウルドの加護をお求めですか?」
「いや、
「さようで御座いますか、ではこちらへ」
神官についていくと、ホール横のドアを抜けて廊下に出る。いくつも並んだドアの一つを開けて中に入るように促された。中には幾つかのテーブルそれぞれに神官が座っていた。
「
「そうです」
神官の対面の椅子に座るように指示されたのでそうする。
「
「レベルとか能力とかが分かるくらいしか……」
「能力石は一種の魔法道具です。購入される方と魔法的に繋がって様々な情報を表示することが出来ます。その為、
「なるほど……」
要は本人認証が付いてるスマホみたいな感じだろうか?
「
「了解です」
「それでは……この魔法板の上に両手を……」
魔法板と呼ばれるものに両手を置くと、神官は
『
呪文が唱えられた瞬間、
しばらくすると、その光の糸は弱くなり、次第に消えていく。
「完了です……」
神官はそう言うと、ガクリと力が抜けた感じになる。疲労困憊とった様相だ。無詠唱で魔法使ってるからマジックアイテムを使ってると思うんだが。別のものかな?
「これでこの能力石は貴方のものとなりました、お布施をお願いします」
お布施……ああ、代金か! 確か白金貨二枚だったっけ?
俺は白金貨二枚をテーブルに置いて、
「使い方はご存知ですか?」
少々疲れ気味だが頑張る神官。
「いや、わかりません」
「難しいことではありません。使いたいと念じるだけですので。詳しくはこちらをお持ち下さい」
そういうと一枚の紙を渡された。取説的な何かだ。
「ありがとうございました」
「ウルドの加護がありますように」
クリスチャンが良くやるようなジェスチャーをして神官が見送ってくれた。
ハリスはもう終わっていたようで、廊下で待っていた。
「とうとう手に入れたな」
「ケントのおかげ……だ」
午後まで大分時間があるので俺とハリスは露天を物色して冒険に使えそうなものを買い込んだり、昼飯代わりの買い食いをした。
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