第3章 ── 第2話
街道の途中の村で一泊することになった。整備された街道を馬車で急いだので、明日の夕方にはトリエンの町に到着できそうだ。
その夜、団長を問い詰めると、義手は冒険者に戻るために作っていたそうで、女王には腕が治ったら兵団を辞めることが最初から許されていたことを知る。時々黒い笑いをしていたのは、これが念頭にあったからなのだろう。ほんと、団長は腕白小僧みたいだ。
しかし、何十年ものスパンで夢を諦めないエルフの人生観というか忍耐というかには感服するね。
翌日の道中は何もおこらず、日が傾く前にトリエンの町の南門が見えてきた。
トリエンの町の南門で、俺とハリス、マリストリアと団長は冒険者カードを見せた。カスティエルさんたちは、何やら書状のようなものを見せていた。町の衛兵が仰々しく敬礼をしていたから、権威筋の許可証か何かだったに違いない。
カスティエルさんの隊商の最初の目的地はトリエンの冒険者ギルドなので、そこまで一緒に行く。カスティエルさんたちとは、ここでお別れだ。
マリストリアが一目散にギルドの入り口から入っていった。カスティエルさんも用事があるとかで、すぐに中に入っていった。俺とハリスはというと、ギルドの建物をしばらく見上げていた。色々あったせいか何か懐かしい。団長も同じだろう。
「久々のギルドだな」
「そうだ……な」
「私なぞ六〇年ぶりだぞ」
「団長はスケールが違いますね」
団長を振り返ると、俺を怪訝な顔で覗き込んできた。
「もう団長じゃない。トリシアと呼べ」
「いやー、伝説の冒険者を呼び捨てはどうかと……」
「ハリス! お前はトリシアと呼ぶよな?」
ハリスは団長にギロリと睨まれ震えだす。
「も、もちろん……トリシ……ア……」
「うむ。ケントもそう呼べ」
やはり団長は押しが強い。
「わかりました、わかりましたよ! トリシアと呼べば良いんですね!」
「そう、その調子だ。リーダーが部下を呼び捨てしないでどうするか、ははは」
団長は俺たちの頭をポンポン叩きながら笑う。
「どっちかっていうと、団……トリシアがリーダーするべきじゃないの?」
「自分より強いものがリーダーをするのは当たり前だろ」
何、その価値観。実力主義の冒険者はこうなの? 日本人的発想なら年功序列なんすけど?
「まあいいか……そろそろギルドに入ろうか。ワイルドボアの一件がどうなってるかもあるし、護衛の依頼の完了報告も必要だしね」
「了解……だ」
俺たちは三人でギルドのドアから中へと入る。
一〇日程度なので、別に中には変わりはない。何人かの冒険者が掲示板と睨めっこしているが、初めて来た時ほど人数は多くない。夕方だからだろう。
空いている受付までハリスと共に行く。もう一方の受付はマリストリアが占領している。カスティエルさんの姿は見えないので、応接室か何かに行っているのだろう。
「ハリス・クリンガムと……ケントだ……依頼の報告をした……い」
ハリスが冒険者カードを受付に差し出したので、俺も同じように出す。
「少々お待ち下さい」
『
呪文を唱えた受付嬢の眉間に皺が寄る。
「あの……御本人様に間違いはありませんね?」
「うん、どっちも本人だけど?」
俺が肯定すると、受付嬢の眉間の皺がより深くなる。
「少々お待ちください……」
そう言うと、奥の廊下に小走りで入っていった。何なんだろうね? ちょっと時間がかかり過ぎたとか?
しばらく待つと、受付嬢と共に、男の職員がやってくる。
その職員は、受付嬢から預かったであろう冒険者カードと俺たちをジロジロと見比べている。顔写真入ってるから、本人かどうか確認しているようだ。
「失礼しました。ハリス殿、ケント殿。実は数日前、貴方たちの死亡報告がなされておりましたので……」
「へ?」
詳しく聞いてみると、ワイルド・ボア討伐任務中、ウスラチームはワイバーンに襲われ、撃退はしたものの、俺とハリスはワイバーンに喰われて死亡したという報告がなされたとのことだった。
「確かにワイバーンと遭遇したけど、俺ら生きてるし、ワイバーンは二人で討伐したよ」
「は……? ワイバーンを討伐?」
「うん、多分だけど、さっきエルフのカスティエルさんって商人が来たでしょ? その人が報告してくれるって話だったはずだけど?」
俺がそういうと、男性職員が再び奥へと引っ込んだ。受付嬢は冷や汗をかきながら作り笑いをしている。
その時、ギルドの入り口が大きな音を立てて開いた。
ハリスと俺が振り向くと、そこにいたのはウスラとダレルだ。
「よう。久しぶり!」
俺がニコやかに二人に挨拶する。
「……な、なんで……? 生きていたのか……?」
「し……しんじられんだなや……」
二人が幽霊でも見るような目をしている。ウスラに至ってはガタガタ震える始末だ。
「なんて顔してるんだよ……」
「だって……お前たち、ワイバーンに喰われたはずじゃ……」
「え? ワイバーンは倒したけど?」
もっと信じられないといった顔になる二人。その時、後ろからさっきの男性職員が声を掛けてきた。
「ケント様、ハリス様。応接室にてギルドマスターがお呼びです」
「ギルドマスター? なんでそんな偉い人が……」
「とりあえず、こちらにいらして頂きたいのですが……」
なんか切羽詰まったような雰囲気なので、了承して着いていく。ウスラとダレルは顔を見合わせていた。
ハリスは、二人など見ていないかのような態度だったので、ちょっと不思議に思った。
ギルドマスターが待つ応接室にはカスティエルさんと、ちょっと小太りの中年男性が待っていた。
「よくぞ戻ってくれた、ハリス殿、それにケント殿!」
ギルドマスターらしき男性は流れる汗をハンカチで拭きながら愛想よく出迎えてくれる。
「いえ、クエストでしたので」
俺がそういうとハリスも頷く。
「こちらのカスティエル殿が持参してくれたファルエンケールの公式報告書で判明した。しかし、ワイバーンの討伐とは! 大いに喜ばしい!」
何を感激しているのか分からないが、俺の手を両手で握ってくるギルドマスターにちょっと引く。
「あ、それもなんですけど、なんか俺ら死んだことになってるって聞いたんだけど。ワイルド・ボアの討伐クエストは失敗にされちゃうの?」
俺は疑問に思っていたことを聞く。
「その事なんだが……冒険者ウスラの報告は虚偽であったことが、ファルエンケールの報告書により判明した」
どうやら、受付で聞いたように、ウスラたちは虚偽報告をしたらしい。
「で、どういうことになるの?」
「冒険者ウスラはギルド規定二一条、二二条、六七条、違反をしたことになる……他のメンバーには二一条違反のみが適用される」
俺はハリスの顔を見る。
「二一条と二二条は……虚偽報告に関する条文だ。六七条は何だったか……」
「二一条は存在しない脅威の排除や本来起こっていないことを報告することを禁止する条文だ。二二条は虚偽報告に伴って報酬を請求することを禁止する条文。六七条は仲間の死に対して贈られる見舞金の条文だ」
二一と二二は虚偽報告したから違反だよね。六七条って、俺たちを死んだことにして見舞金をせしめたってこと?
「詐欺なのかな?」
「詐欺だ……な」
「冒険者ウスラはワイバーンを撃退したことと、君たちの死亡という報告で金銭を不当にギルドから搾取したことになる」
少しの間、静寂が訪れる。
他のメンバーはともかく、ウスラは犯罪者ということらしい。やれやれ、ウスラは大変なことになりそうだね。まあ、自業自得だとは思うが。
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