第2章 ── 幕間 ── その1 ウスラ

 アルテナの森は静かだった。そこに四人の人影が音を殺して歩いていた。

 数日前、ワイルドボアを討伐にきた冒険者グループの片割れとでも言おうか。


「くそ、ワイバーンなんて聞いてねぇよ」

「あれから二日も待ったんぞ……もうおらんと思いたいものだやな」

「あの二人は無事でしょうか……」

「ハリスが一緒だもん……大丈夫じゃない?」


 冗談じゃねぇよ。いくら銅貨もらったって、割に合うわけがねぇ。というより、アイツらが無事なわけねぇだろ。

 何にしても、確認しとかねぇとギルドに報告できねぇし……


 心の中でウスラは悪態をつく。

 金持ちのボンボンらしい新人冒険者に簡単なクエストのサポートをして恩を売りつつ、多少の金を巻き上げられると思っていた彼は、ワイバーンなどという凶悪な魔獣の出現で計算が狂ったことに腹を立てているのだ。


 自分の力量をわきまえもしない新人冒険者に心底腹が立つ。おまけに俺の片腕であるハリスまで失った。


「そろそろ、静かにしねぇか! 現場が近いだろうが」


 彼の言葉にリククとサラが口に手を当てる。ダレルも周りを警戒し始める。


 音を立てないよう、慎重に歩を進める。

 しばらく、進むとワイルドボアと戦った洞窟が見えてくる。周りにワイバーンの気配も動物の気配もしない。鳥の声すら聞こえてこない。


 何分か周りをうかがうが大丈夫そうだった。

 ゆっくりと、洞窟に近づく。


 二日前、このあたりで解体作業をしていたはずだが、ワイルドボアの死体の影も形も見当たらない。

 当然だ。ワイバーンに食われたに違いないのだから。


「ワイルドボア、ないね……」


 リククが小さな声で言う。


「ワイバーンに食われたに違いないだやな」

「テメェら、何を当たり前のこと言ってやがる」


 やり場のない怒りをリククとダレルにぶつけるように言う。

 くそったれ共が……


 彼は最後にハリスとケントを見たあたりまで近づいていく。そこには二日も前だというのに、大量の血痕が残されていた。


「こりゃ、生きてねぇな」

「ひっ!」


 リククが息を飲む声が彼の耳に聞こえる。血痕を見る限り、一人分とは到底思えない。間違いなく二人は死んだに違いない。


 ガタガタ震えるリクク、首を振るダレル、鎮魂の祈りを捧げるサラに彼は声を掛ける。


「村に戻るぞ。ここに居ても仕方ねぇ」


 全く、ツイてねぇ。銅貨五枚じゃ足が出ちまう。盾にも使えねぇ新人なんか連れてくるんじゃなかったぜ。もうちょい使えるヤツなら仲間に入れてやったのによ。


 心の中で毒づきながら、ウスラは、仲間を引き連れてアルテナの村へと戻る獣道を歩いていく。

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