第2章 ── 幕間 ── マルレニシア

「よくぞ参った。スヴァルツァ斥候隊長」

「はっ!」


 私は女王の前で跪く。

 陛下に招喚されることは滅多にない。緊張で体が震える。


「遠見の呪者が報告してきました。森の混沌を打ち払ったそうですね。嬉しく思います」

「失礼ながら、陛下。森の混沌を払ったのは私たちではありません」


 周囲に並んでいる評議員たちがざわつく。

 陛下の言葉に異を唱えるのは不敬にあたるが、真実を述べない訳にはいかない。


「静かになさい」


 陛下の一喝で、辺りは静けさを取り戻す。


「どういうことですか隊長。遠見の呪者は混沌が打ち払われたと申しました。その方が現場にいたとも」

「はっ! 混沌であるワイバーンは、我らが到着する直前に、トリエンの冒険者二名により討伐されました」


「ワイバーンだと!」

「魔獣軍の尖兵!」


 評議員たちがワイバーンと聞いて口々に唸る。私だとてワイバーンの死骸を見た時、膝が震えた。


「冒険者とな……たった二名で?」

「はっ!」

「ワイバーンほどの魔獣を屠るとは、素晴らしい。その方、その戦いを見ましたか?」

「隊の最も腕の良い斥候兵が一部始終を見ていたと報告してきました。私が見たのは、ちょうどケントと名乗る剣士ソードマスターが、ワイバーンの首を一撃で落とす瞬間だけでございます。」


「一撃で……エリス、あの町にそのように力のある冒険者がいたのですか?」

「いえ、報告にはありません。最高ランクでもカッパー・ランクであったはずです。もっともカッパー・ランクの冒険者は引退寸前の老骨であると報告にはありますが……」


 エリス・ラターノ外交大臣が即答する。


「その斥候兵を連れてまいれ」


 近衛兵が謁見の間から出ていく音が聞こえた。


「斥候兵を連れてまいりました」

「遊撃兵団斥候ファロネル・ローレス、仰せにより罷り越しました!」


 私の隣にローレス斥候兵が跪く音が聞こえた。


「斥候兵ローレス、冒険者とワイバーンの戦闘を見たと聞きました。詳しく話してください」


「はっ! 私が見たままを申し上げます! 剣士ソードマスターがワイバーンに向かった瞬間、野伏レンジャーが弓を撃ちワイバーンの注意を引きました。剣士ソードマスターはその隙を突いて毒尾を寸断。ワイバーンは剣士ソードマスターを攻撃しようとしました。野伏レンジャーは次々と矢を放ち、ワイバーンの行動に牽制射撃を行っておりました。剣士ソードマスターはワイバーンの攻撃を跳躍で避けると、首の上を疾走し背中へと到達……」


「そんな、馬鹿な」

「聞いたこともない」

「人間技じゃないではないか」


 評議員が次々と報告に罵声を浴びせる。


「静かになさいと言ったのが、聞こえなかったのですか?」


 陛下の叱責が飛び、評議員達は慌てて口をつぐむ。


「続きをお聞かせなさい」

「はっ! 背中へと到達した剣士ソードマスターは『翼落斬』なるスキルを使い、たった……たった二撃でワイバーンの両翼を切り落としました!」

「凄まじいですね……」

「地面に降り立った剣士ソードマスターは、取って返すと『扇華一閃』なるスキルを使い、一撃でワイバーンの首を切り落としました!」


 辺りが静まりかえっている。

 当然だ。この報告は事実なのだから。私でさえ、あの一撃を見たときに体が熱くなったのだ。まさに英雄たちの戦闘だった。


「斥候兵ローレス。報告を感謝します。下がってよろしい」

「はっ!」


 ローレスが謁見の間から下がっていった。


「スヴァルツァ斥候隊長」

「はっ!」

「貴方の報告と同じでしたね。素晴らしい冒険譚を聞いた思いです」

「恐縮です」


 陛下が、短い吐息を漏らすのが聞こえる。


「一度会ってみたいものですね」

「僭越ながら陛下。そのもの二名を王城へと伴ってまいりました。ご希望であればここに招喚することが可能です」


 ほう……と陛下の嬉しげな声が聞こえた。


「良い。連れてまいれ」

「はっ!!」


 私は立ち上がり、敬礼と共に踵を返し、謁見の間を出た。

 さあ、私たちが見出した英雄たちを陛下にお会いさせねば!

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