第2章 ── 妖精都市ファルエンケール

第2章 ── 第1話

──2日後


 俺たちはエルフの町、いや都市を一望できる丘の上にたどり着いた。


「すげぇ!」

「ここが、我が種族の都、妖精都市ファルエンケールだ」


 俺の感嘆の言葉に、マルレニシアがふり返り、得意げに教えてくれる。

 石と木が織りなす不思議な作りの巨大な都市だ。トリエンの一〇倍くらいあるのではないだろうか。


 都市の真ん中には大きな湖があり、その中心にはドイツのノイシュヴァンシュタイン城をもっと立派にしたような美しい城が建っている。太陽の光に照らされ、所々キラキラと輝いて見える。

 

 キラキラと輝く城と湖の周りは一見森に見えるが、木の幹にへばり付くように建物やデッキが設置されていて、それらは吊橋で連結されている。

 枝葉に隠れているので詳しくは見えないが、独特なフォルムをしていて、円筒形のログハウス(……なのか?)にとんがり帽子のような屋根がついていているようだ。

 木々の上だけではなく、地面にも円筒形の石造りの家々。屋根はやはりとんがり帽子だ。

 それらを堅牢な石の城壁がぐるりと守っている。城壁には約一〇〇メートルおきに高い尖塔がある。城壁外には建物らしきものはない。


「おぉ。これはすごい……な! これほどの都市は見たことがな……い!」


 ハリスが珍しく饒舌じょうぜつだった。語尾はいつもどおりだったが。あまりの珍しさにハリスの顔をガン見してしまった。その視線に気づいたのか、ハリスの頬が少し赤くなったが面白かった。


「さあ、まいろうか!」


 マルレニシアとエルフの護衛数人、そして俺たちはファルエンケールの城門へと向かった。


 城壁まで来た俺は、改めてその壮麗さに感嘆のため息を漏らす。シンプルかつ強固であり……要は機能美を追求しているのだ。

 中世の城といえば直線的で武骨なものという印象だが、この城壁は曲線的でもある。根本は太く、上にいくほど細くなっていくという感じだろうか? しかし、この曲線は装飾じゃなさそうだ。魔物の突進などの直線的な衝撃を上へと逃がすためじゃないかと思う。真っ白な城壁の所々に、魔物の駆け上ったような足跡があるからだ。

 城壁づたいに城門へとたどり着いた。マルレニシアと同じような銀色の鎧を着た衛兵が二人一組で城門の左右に歩哨として立っている。

 マルレニシアがその前を通ると、衛兵が拳を胸に当てるようなポーズをしている。あれが敬礼かな?


 城門入り口に来ると、何やら黒いローブに同じく黒いとんがり帽子をかぶった幼女が行ったり来たりしている。コスプレ?


「文官殿、何をなさっておいでです?」


 その言葉にコスプレ幼女が振りむいた。


「マルレーン! 戻ったか!」

「マルレーンはやめて、ミルレ」

「なら、そっちもミルレはやめな、斥候隊長殿」


 何を揉めているんだか。


「で、文官殿、何故ここに?」

「女王と評議員から斥候隊長殿に招喚命令が下された! 早急に王城へ参られよ!」

「はっ! ご下命賜りました!」


 と、マルレニシアがさっきの衛兵と同じ敬礼をする。


「……あのー……俺たちは?」


 俺の言葉に、ミルレと呼ばれた文官様とマルレニシアが振りむく。


「この人族の小僧どもは何だ、マルレーン?」

「ミルレ! 失礼ですよ! この方たちは、森の秩序を乱していた元凶を排除されたワイバーン・スレイヤーの方たちです!」

「何いってんのマルレーン、冗談も程々に……」


 半笑いのミルレが、押し黙るマルレニシアの真面目顔を眺めるうちに、だんだんと顔色が変わってくる。


「あわわわわ……大変失礼しました! アルテナ森林評議会次席文官ミルレアル・プリアスと申します!」


 ペコペコと頭をさげるミルレがちょっと可愛い。見た目幼女だしね。

 しかし、なんか雲行きが変わってきたかな……


「ど、どうも。ケントです。こっちは野伏レンジャーのハリス」


 俺たちは馬車に載せられて王城に連れて行かれた。


 王城へと向かう馬車の中でミルレアルから色々と情報をあつめてみた。

 マルレニシアは美人さんすぎて、俺にはちょっと敷居が高かった。その点ミルレは見た目幼女(種族はレプラコーンらしい)だから話しやすかった。


 妖精都市国家ファルエンケールは、女王を中心として妖精族で構成される評議会が治める都市国家だそうだ。女王ケセルシルヴァ・クラリオン・ド・ラ・ファルエンケールは、周辺の国と同盟関係を作り、アルテナ森林一帯を領土としている。ただ、ファルエンケールは、人族や亜人の国家でも支配者層や政府上層部のみが知り得る存在で、平民や兵士、下級貴族には明かされない秘密らしい。なんで秘密なんだろね。そういや、トリエンでもエルフは見かけなかったっけ。


 今回のワイルドボア騒動などは、森林の守護を担うファルエンケール側にとって、同盟条約に違反することになるらしい。早期解決出来たことは国際問題になる前に解決できたということで、大変な手柄なのだそうだ。


 それから、ワイバーンについて。アプデ後のこの世界において、ワイバーンはトリエン程度の小さい町なら壊滅させられるほどの戦闘力を持ったモンスターなんだそうだ。俺としてはそれほど強い魔物とは思わないのだが……

 それと、ワイバーンから取れる素材(主に皮革や鱗、牙、角、爪、骨)は、様々な武具や工芸品、錬金術のレア材料となるそうで、余すところなく利用できるそうだ。もちろんの事だが、肉なんかは高級食材として各国の王侯貴族に好まれているらしい。残念美人のサラが滂沱ぼうだの涙で食べてたのは、そういうことだったんだな。

 そんなわけで、ワイバーン・スレイヤーというのは、大変な名誉と財力を意味する称号らしい。ドラゴン・スレイヤーだったらもっとすごいことになるんだろうな……いつか再挑戦しよう。


「こちらの部屋でお待ち下さい」


 俺とハリスは、場内の豪華な一室をあてがわれた。


「なんか大変なことになったな」

「……」


 ハリスはこの都市に来てから、というかマルレニシアたちと出会ってからというべきか、殆ど喋らなくなった。会話の相手くらいしてくれてもいいのに。万年ボッチだった俺としてはあまり困らないけどさ。

 暇なので、客室に備えてある本棚から本を取り出してきた。エルフ語らしい。トリエンでも知らない文字が読めたけど、エルフ語もなぜか読めるようだ。


「なになに……『世界の創造と神々たち』?」


 名もなき創造神と世界を治めるように命じられた神々のエピソードや寓話を物語風に書いたものみたいだ。


 この世界は名前も知られていない絶対的な能力を持った神によって創造された。名もなき神は試行錯誤しながらも世界の秩序を作り出し、それぞれの秩序を司るものとして様々な神をも作られた。秩序を司る神々は、木々や野の花、動物などを作り出し、世界は神々の楽園のようになった。そのうち、それら神々を補佐するために、エルフや人間、獣人などが生み出された。これらを人類種と呼ぶ。


 なるほど、この世界にも創造神話のようなものがあるようだ。というか、ドーンヴァースにこんなバックストーリーなかったけど、いつ作ったんだ?

 魔物についても書かれている。


 どこからともなく混沌を司るものが出現した。それは混沌と破壊の女神カリスといった。創造神の作り出したすべての秩序を破壊しようと怪物を作り出した。最初に作られたのがドラゴン種だった。しかし、ドラゴンたちは、その強大な力と英知のため、カリスにすら制御できなかった。ドラゴンたちは世界中に散って、自分の好きなように暮らした。このままでは計画を進められないカリスは、もう少し力の弱い制御できる怪物、魔物を生み出した。魔物には、知性を持たない魔獣種と、それを使役する知性を持つ魔人種がいる。これらを総称して魔物と呼んだ。魔物たちは軍団を組み、人類種等を滅ぼそうと戦争を起こした。人魔大戦と呼ばれた出来事である。後世、この時代を神々の暗黒時代と呼び、多くの秩序の神々が実体を消失し、天界へと戻っていった。


 序盤だけ読んでも、随分と濃い世界観だな。ドーンヴァースに出てくる神々は、フレーバーテキスト内で言及されているだけで、関係性とかよく分からなかった。俺が蘇生した教会のマリオン神や、トリエンに大神殿があったウルド神などは、この人魔大戦で勇猛に戦って実体を消失した神々だそうな。サラの信仰していたラーシュ神なんかは、荒廃した世界の人々や動物たちのために命を賭して恵みをもたらしたらしい。


 ま、暇つぶしには面白い読み物だったよ。ずらずらと一〇巻くらいシリーズが並んでるけど、全部読む気にはならないな。

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