第1章 ── 第7話
「ひい、ふう、みい、よー……」
ダレルが獲物を数える。数え方、日本風?
「全部で一二匹だやな。依頼は一応達成できただやね」
「ヨシ! 血抜きを始めるか! 大量だぜ! ガハハ」
色々突っ込まれずに場を流せたようで、
倒した証明のために、サラがワイルドボアの尻尾を集めてた。なるほど、やはり物的証拠は必須ですよな。
ウスラの取り出したロープを使って、ワイルドボアの死体を手近な木に吊るして血抜きを行う。ボスはでか過ぎて吊るせないな。
「これの血抜きはどうする?」
「地面に穴を掘って……そこに出すしか無い……な」
俺はハリスの指示に従って、ボス付近に大きめの穴を掘っていく。腕力はそこそこあるから結構手早く掘れた。ハリスが少し驚いていたが、なにか言ってくることはなかった。
堀った穴に、ボスの首を持ってきて、首の下側あたりに剣を突き入れる。ドボドボと大量の血が出てくると思いきや、驚くほどではない。やはり吊り上げたりしないと難しいのかな。
リククたちが吊り下げたボアはちゃんと血が出てる。重力は大事な。
しばらくして、血抜きの終わったワイルドボアの腹を割いて内臓を取り出す作業を開始する。
血の匂いもアレだが、内臓のニオイがすげぇ……気絶しそう。豚のモツは処理さえすれば美味いけど、このニオイを体験すると食いたいと思えなくなるな。
みんなで頑張って作業をしている時だった。
一瞬だけ太陽光が遮られ、俺たちに影を落としたが、すぐにまた日が指してきた。空を見上げても雲はなかった。
作業に戻ろうとした時、何か大きなものの羽音が聞こえてきた。
──バサッバサッバサッ
何か新手のモンスターでもきたかな。柄に手を掛けて見上げると……
プテラノドン……ではないな、ワイバーンだ。なんか以前よりでかく感じるけど、気のせいだろう。周りのメンバーを見回すと、驚愕して固まってる。
「ワイバーン……こいつが……今回の元凶……か」
ハリスが呻きながら弓を構える。
「なんだよ……なんでこんな所にワイバーンなんて出るんだよ……」
「やばいやばいやばいやばい!」
「おお……神よ……我を助け給え……」
「こ、こりゃマズイだなや……」
おい、皆。戦闘準備忘れてるぞ。仕方ないな。
「ハリス! 援護を頼む!」
俺はワイバーンの方へ駆け出す。ハリスは俺の言葉に僅かに
「GROOOON!!」
ワイバーンの咆哮に、他のメンバーが動き出したようだ。
「おい! バカ逃げろ!」
ウスラの声が聞こえたが、ワイバーンごときに遅れを取る俺じゃないよ?
ハリスが矢を放ったようだが、ワイバーンの鱗に弾かれている。
だが、その攻撃でワイバーンはハリスに近付こうと動き出す。狙い通りだよ。俺の上を通り過ぎようとするワイバーンの尻尾に片手剣をブチ当てる。
「GAROOOOON!?」
ワイバーンの厄介ポイントの一つ、尻尾の毒針を毒腺ごと切り落とす。鮮血がボトボトと落ちてくるが、俺はもうそこにはいない。
くるりと振り返ると、俺の方へ向き直るワイバーンと、再び矢をつがえるハリスが見える。
って、あれ? 他のメンバーが一目散に逃げていく後ろ姿も見えるんだが……ハリスは置いてけ堀ですか?
まあ、俺一人でもワイバーンくらいなら狩れるから大した問題じゃないか。ハリスが殺られないように注意しよう。
ワイバーンが憎しみを宿したような視線を俺に向けてくる。よし、ヘイトは稼いだ。あとはどうするか……飛ばれていると魔法しかないが、ワイバーンは魔法耐性あったよね。物理攻撃でなんとかするか。まずは翼だな。
「うおおおおおお!」
俺は大きな声で気合をいれながら突進する。
ワイバーンは待ち構えていたようで、突進する俺に噛みつき攻撃をしてきた。
それも狙い通りだよ? アルゴリズム単純すぎだ。
大口をあけた頭が迫ってくる。並んだ牙が恐ろしげだが恐怖はない。噛みつかれる寸前に俺は跳躍する。
──ガチン!
俺の真下で噛みつき攻撃が空振りした音が聞こえる。臨場感パネェ。
頭の上に着地すると、そのまま首の上を疾走していく。目的地までもう直ぐです。
やっと背中まで到達。この間、一秒と掛かってない。
「双撃……翼落斬!」
俺は素早い二連撃を繰り出し、ワイバーンの翼を斬り飛ばした。
クドいようだが(以下略)。
頭の中でカチリと歯車が合う感覚を覚える。馬車に乗ってた時の感覚と同じだ。これは何なんだろう?
そのままワイバーンの背中を蹴って地面に着地する。
──ズドォオォン!
ほぼ同時にワイバーンが地面に落下した。
翼の無いワイバーンなんて、二本足のトカゲのようなもんだよね。あとは楽勝。
振り向こうと首をこちらに向けたワイバーンの顔にファイアショットを撃ち込む。ただの目くらまし。
ワイバーンが
「これで終わりだよ! ……扇華一閃!」
駆け抜けつつ、頭上の首へと大ぶりの一撃を見舞う。
──ドススーン……
後ろでワイバーンの頭と巨体が倒れる音がした。一丁あがり。
「また、つまらぬものを斬っちまったようだぜ」
どっかのアニメキャラのキメ台詞を借用する。
ハリスには怪我はないようだ。良いことだ。ただ、ハリスは驚愕を通りこして呆けてしまっているような気がする。
「大丈夫か、ハリス?」
肩をポンと叩き、ハリスの横にならんでワイバーンを見やる。
「ケント……お前凄い……な」
「まあ、いつも一人で狩ってたからね。ワイバーン辺りは楽な部類だよ」
後ろを振りかえって逃げたメンバーを目視で探すも、姿かたちも気配もない。ワイバーンの解体どうするか……
「すまない……まさか……仲間を置いて逃げるとは……」
「ああ、ウスラたちか。仕方ないよ。レベル差倍以上だしね」
「俺も……お前みたいに……強くなりたい……な」
「なれるさ」
「そう……か」
その時だった。前方の森の奥から、銀鎧の美女が現れたのは。
「これ……貴方たちだけで倒したの?」
美人さんが目を見開いてビックリしている。よく見るとエルフだ。エルフなら美人なのも仕方ない。
「ああ、そうだよ」
「最近、森がおかしかったから巡回してたけど、原因はこれだったのね……」
美人エルフはワイバーンの鱗を撫でながら、その巨体を見上げている。
「そのよう……だ」
「これで、森も静かになるわね。感謝する」
お礼言われるようなことかな?
「ま、襲ってきたから倒しだだけだよ。礼を言われることじゃないでしょ」
「いいえ、この森を守護、管理する種族として、最大の感謝を」
ほほー、この森ってエルフが管理してたのか。確認しようとハリスを見ると首を振っている。
「そんな話……聞いたことな……い」
「当然でしょう。人族は森の民ではないのだから。森には森の秩序があり、それを守るのが私たちの種族よ。一部の人族しかその事実は知らないわ」
まずいね。一部の人間しか知らないことを俺たちは知ってしまったってことだ。拘束とかされたら嫌だなぁ。感謝されてるから、お目こぼしを期待するしかないかな。
「まあ、俺らはワイルドボアを討伐する依頼を受けてここまで来たんだけどね。解体してたら、こいつが襲ってきてね」
「ワイルドボアを……?」
ハリスが頷く。
「人里の作物が……荒らされたん……だ」
「なるほど……ワイバーンが原因だと見て間違いなさそうね」
「ん? どういうこと?」
「ワイルドボアは非常に用心深いの。人族に自分から近づくことはないわ。でも、人族より恐ろしいワイバーンが現れたら……」
「なるほど、自分の行動圏の外に餌を求めると」
「ええ。ワイバーンのおかげで秩序が乱されたわけね」
「ま、ドサクサで事件解決できたんなら一石二鳥ってことで! じゃ、解体作業したいけどいいかな?」
パチンと手を打って、俺はこの問題を終わらせようとする。
「待って。この事を私の種族の評議会に報告するのだけど、一緒に来てもらえないかしら?」
「早く解体しないと……」
俺は気が乗らない振りをする。
「解体作業と運搬は、私たちに任せて」
美人エルフがそういうと手を上げる。俺たちのいるところの四方八方から、エルフがずらずらと出てきた。
「囲まれて……いたの……か」
おいおい、
「解体と運搬は、私の手のものがするわ。来てくれるわよね?」
俺は逃げ道を探すが、たぶん無理だな。仕方ない。ここは従うとしようか。
「仕方ないね、行くよ」
「感謝を。私は、アルテナ森林評議会遊撃兵団斥候隊長マルレニシア・スヴァルツァ。よろしくね。」
「ハリス・クリンガム……
「ケントだ。よろしく」
「こっちよ、付いてきて」
マルレニシアは、俺たちに頷くと付いてくるように促した。
ある意味、もうどうにでもなれ状態だが、スレンダー美人のマルレニシアとお近づきになるのも悪くないかもね。
それに、エルフの町があるようだし、ちょっと見てみたい気もする。
前のドーンヴァースには、エルフだけの町とか無かったしね。プレイヤーキャラクターとしてのエルフはいたけど。エルフの文化とかは表現されていなかったはずだ。設定資料でも言及されてなかった。
俺とハリスは、マルレニシアの後を追って、深い森の奥へと歩み始めた。
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