フレーバーテイスト

柳よしのり

プロローグ

   *

 生ぬるい雨が降っていた。

 空から舞い落ちる水滴が服に染み込んでいるのに、滴る液体に冷たさなんて感じない。むしろ梅雨も終った初夏の熱風に誘われた湿気が重たく身体にまとわりつくことの方が不快だった。目の前に伸びる歩道は、生臭い雨の匂いと共に降り続ける雨水が色を濃く変えていく。

 そんな生憎と不愉快な空模様の中であって、傘も差さず濡れることも気にする様子がない一人の男がいた。

 引き締まった体格に、目に映えるような真っ白なポロシャツ、そして濡れてより紺が映える色合いとなったジーンズというカジュアル系アパレル店の広告に出てきそうな出で立ちが、不思議と違和感なく似合っている。歳の頃は三十は過ぎているだろうが、しかし男の顔立ちにはまだまだ若々さが窺えて中年と見るには些か早い。

 同じ服を着ても大抵の人物なら安物で身を固めた野暮ったい印象を受けるのだろうが、その男の整った容姿も相まって清潔感すら窺わせている。しかしだ。どんな風貌であったにしろ、おぼつかない足取りでフラフラと右に左にとよろめく姿は、情けないの一言に尽き、どこからどう見てもまごう無き酔っ払いであった。

 男が行く歩道はレンガ調で揃えられ、趣ある風合いの舗装で綺麗に整備されていた。その側には波も立てずに川が流れ、都会の雑踏からは少し離れた物静かな場所であった。

 そこは大阪は中之島という地名で知られている。大阪平野を流れる旧淀川系の土佐堀川に挟まれた中州の地形であり、川を挟んで直ぐ北側が大阪で最も栄えた繁華街・梅田の地でもある。その中之島から川を隔てて数々の高層ビルを見上げることになるが、中之島自体に存在する建物は、どれも独特の洗練されたデザインであるにも関わらず、それらの建築物の意匠に統一感はない。なんともはや、どうにも雑多な印象がぬぐえない辺りが、確かに大阪らしいとも言える地区であった。

 そんな大阪市のただ中にあっても土佐堀川に挟まれた中之島公園は、雑踏が遠ざかり落ち着いた空気に満ちていた。繁華街に近いという場所柄か夜の帳が落ちた時間帯であっても道行く人影は絶え間なかったが、男が酒に酔って一人歩いていても誰も気にする様子もない。中之島にもビアガーデンなどの飲食店も存在するが、ふらりふらりと歩く男はどこかの店に入るわけでもなく、誰かと連れ合うこともない。ただ一人、千鳥足を巡らし、多色にライトアップされた川沿いの遊歩道をとぼとぼと進んでいた。

 赤、白、青と、時間経過で目に飛び込んでくる光色が変わる光景は、酔った男の視界を眩しく照らしていた。

 ライトアップされているのは川辺だけではない。遊歩道にも多くの外灯が並んでる。それに加え、並び立つビルのガラス越しにはビル内の照明灯り、水面に反射して煌々と遊歩道を照らすものだから、さすがに昼と同様とはいかないが、歩くだけなら心細さはまったく感じることはない。

 闇夜に完全に落ちることのない中之島は、繁華街から少し外れた場所ではあったが、だからこそ大阪にしては少し落ち着いた街並みを臨めるスポットとして人気があるのだ。

 とはいえ、酒に酔って歩くその男に目的地があるわけでなし、千鳥足でふらつく身で何かをしているわけでもない。ただ単に酩酊した身体で気のままにうろつく姿は、警邏けいらしている警察官が居れば、駆けつけ一声かけたくなる程度には一目で泥酔していると見て取れるものであった。

「あー、クソッ! ツケぐらい利かねのかよっ!」

 男は悪態を吐いて、遊歩道のベンチに抱きつく様に座り込んだ。遊歩道に点在するベンチも降りしきる雨に濡れ、ジーンズ越しにも伝わる不快感があったが、酒が入った男にとっては、それがどうした、と何の躊躇ちゅうちょもなかった。

 そしてブツブツと先程まで居たスナックに対する愚痴を口にするのだが、それも長くは続かず、ベンチの背もたれに身を預けて天を仰ぐように大口を開けた。酒の力に身を任せ、そのまま意識が薄れていく。男はそのまま瞼を落としてしまいそうであったが、残念ながら降り続く雨がそれを許してくれなかった。

「……まっじ」

 軽く咳き込み、口に入った雨粒を吐き出す姿に、偶然通りがかった通行人が鼻笑いを漏らすが

「なんか文句あっかっ!」

 と男がわめき散らしたので、通行人は差していた傘に隠れるようにして早足に離れていった。

 男は頭を押さえる。そろそろ酒の酩酊めいていより頭痛の方が強くなってきた。先程手持ちが足らずに追い出されたスナックでは安物のグラッパをボトルで空けたが、普段ならそんな酒の飲み方をすることはない。しかし、今日に至っては男は飲まずにはいられなかったのだ。

 男の名は小乃浦このうら正志ただしという。三十五という働き盛りの年齢にして普段から酒に溺れた生活をしているつもりはないが、ここしばらくは酒でも飲んでいなくては気が収まらない、そんな精神状態に追い込まれていた。

 どれくらいの間、スナックでグダグダと一人酒をしていたのかも覚えていないが、日が沈んでいるところをみるに、優に3時間はグラッパ、日本では馴染みの薄いワインをから作られる蒸留酒を喉に流し込んでいたようだ。本来であれば葡萄酒独特の香りを楽しめる酒ではあるのだが、蒸留酒の安物とくれば悪酔いするのが常である。むしろ小乃浦はその酔いを目当てに酒を呷っていたのだ。そんな有り様だから日の明るいうちからマスターに煙たがられながら入店したスナックからも追い出され、どこ行くわけでもなく梅田の繁華街からぶらりと歩いて来たのだ。

 普段の小乃浦自身からしても馬鹿げた酒の飲み方だ、と一蹴できるような自棄に駆られた客を追い出しにかかったスナックのマスターの判断は間違っていなかっただろう。あのまま飲み続ければ1時間とせずに小乃浦は潰れて救急車で運ばれていたかもしれない。そもそも小乃浦は下戸ではないもののそれほど酒に強い方ではないのだ。

 降りしきる雨に張り合うように小乃浦は深い息を吐く。当然のように酒臭い息に彼自身が顔をしかめた。

 ベンチから見上げる空は真っ暗だった。ポツポツ雨を落とす雲に遮られ、星どころか月すらも見えない。それなのに街はライトに照らされて明るいものだから、逆に上空は吸い込まれるような漆黒で、眺めていると不意に意識が吸い込まれそうな錯覚に陥りそうであった。

 何することもなくベンチで空を見上げ、顔に滴る雨水の感触に晒される。何かを洗い流そうとするかの様な行為に、意味はない。

 何もかも忘れてこの焦燥も怒りも全ての感情がなくなってくれればいいのに。そう思ったかどうかは定かではないが、気温が高いとはいえ雨に晒された身体は次第に熱を失い、小乃浦は次第に酒の高揚感が薄れ始めていた。

 せっかく酔って全て忘れようとしてるのに、自分が酔っていると自覚出来てしまうと、どうしても思考が回ってしまう。

 アルコールが切れ始めたぼやけた思考で頭に浮かぶのは、仕事のことであった。小乃浦は自分自身嫌になるが、自分自身で分類するなら彼は世間で言うところの仕事人間であった。働いて働いて、まともな休日なんて記憶にない。毎日毎日厨房に通い続ける人生を過ごしてきた。それが小乃浦正志の生き方だったのだ。

 酔って真っ暗な空を見上げても、小乃浦の脳裏には日常と化した業務、明日の店で出す献立とその仕込み時間の計算が嫌でも思い浮かぶ。終電でも家に帰ればまだいいが、これが朝帰りとなると明日のランチの仕込みが間に合わなくかもしれない。酔っていてもそんなことを思い返せる自分は、どこまで行っても厨房から離れ慣れないな、と小乃浦自身、自笑に頬を歪めた。

 そう、小乃浦正志は料理人、しかも自身の店を持つオーナーシェフであった。

 店持ちを一国一城の主ともいうが、小乃浦の店は小さく彼以外の従業員は配膳と会計を手伝うバイトが二人だけの交代シフト、特に厨房は全て彼が一人で切り盛りしていた。だからこそ彼の責任は重大であり、仕込みに影響が出るような酒の飲み方など以前はしたことがなかった。それなのに最近は深酒に頼る事が日に日に増していた。

「くっそ、なんで客がこねーだよ、おれの飯がまずいってのか……」

 先程喚いていた声とは打って変わって、ほとんど声にもなってないような小さな呟きだった。だからこそ虚勢でもなんでもなく彼の本心、彼の心の声そのものであった。

 店を大阪環状線の駅でもある福島駅の外れに持てたことは幸運であった。裏路地ではあるがなかなかの好立地。梅田とは比べるべくもないがそれでも繁華街として有名な駅の徒歩圏だ。テナントの広さは十分ではなかったが、初めて持つ自身の店だ。カウンター席のみの店でも文句はなかった。

 それなのにどうしてか客が入らない。いや、開店当初は物珍しさからかまずまずの客足だったはずだ。しかし開店して1年が経とうとしている昨今では、昼夜合わせて客数が一桁の日も珍しくない。この日も店は営業日であったが夜の予約はゼロ。それに加えて昼のランチに客が一人も来ないという惨状に耐えられず、急遽夜営業を閉めて酒に走ったのだ。

 その判断もすでに真っ当とはいえない。夜に客が来る可能性を自ら潰してしまった自分自身に腹が立ち、また酒を呷る。そうして手持ちの金が尽きるまで飲んで、早々に店を追い出されての有り様が、川沿いのベンチで雨に打たれる今の姿であった。

 情けない、という言葉がこれ以上当てはまる人間はいないだろうことを、酒に酔った状態でも小乃浦自身が一番よくわかっていた。

「あー、もういい! どうせランチを仕込んでも誰も来ねぇよ!」

 ああ、やめたやめた。もう何もかもどうでもいい、と続けて漏らす。嗚咽おえつ混じりの声だった。

 本心ではない。単なる自暴自棄なのはわかっている。

 自分の腕に自信があった。パスタを作らせれば大阪で十指には入るという自負。自分可愛さの過大評価のつもりなど毛頭ない。自分の舌でそう信じるに値する料理を生み出してきたつもりなのだ。

 それなのに店はずっと閑古鳥が鳴く始末。客足が遠のいても数ヶ月間は踏ん張り続けてきたが、もう限界だった。酒に酔った勢いであっても、遂に小乃浦正志の緊張の糸は切れてしまったのだ。

 店を畳む。いつかはする決断が今この時なのであろう。小乃浦はそう念じ自分に言い聞かせた。雇っているバイトに給料を出せるうちに決断しなければ、それが店を持った者としての最低限の責任なのだと、その一線だけは守りたいと小乃浦は思っていた。

 俺の腕は悪くない。俺の飯は不味くない。俺は悪くない。全部全部、客の舌が悪い所為だ。本格的なイタリアンを解る人間なんて大阪に居なかったんだ。何が天下の台所だ。どいつもこいつも味音痴ばかり。安物のカレースパゲティなんか食べてる奴らだ。所詮日本人なんて醤油や味噌の塩辛いもんばっか食ってる田舎者なんだよ。心の中でそう叫ばないと小乃浦は頭が発狂しそうだった。学生の頃から十年以上、有名レストランで修行して磨いた腕が悪いだなんて、これまでの人生全てを否定されたのも同じだった。

「……俺の飯が、不味いわきゃねーだろ……」

 そう漏らして、小乃浦はまた天を仰いだ。いつの間にか雨も本降りになり始め、大粒の雨が彼の顔を叩いた。

 視界を占めるのは雲夜の暗闇とライトアップの電灯の煌めき。この雨なら泣いてもバレやしない。瞳から流れる液体は雨が全部流してくれる。声を出したって誰も聞いてやしない。

 そうか、どこに向かうわけでもなく歩いていたのではなかったのか、無意識に人の少ない川辺の道を目指していた。そうしてここに泣きに来た。大の大人がみっともなく泣きわめくために今日は酒を飲んでここまで来たんだと、小乃浦正志はやっとに理解した。

 悔しくて、腹立たしくて、でもどうしようもなかった。店がこうなる現状に、ただ指をくわえて見ていたわけではない。チラシを配ったり広告を出したりと何とか店に足を運んでもらおうとしたのだ。そしてパスタさえ食べてもらえれば、自分の人生をかけて縒りをかけて作るパスタさえ食べてもらえれば、わかってもらえるはずなのだ。

 どうしてこうなった。何が原因なんだ。何が悪かったのか、誰か教えて欲しい。

 もう限界だった。これまで必死に耐えてきた小乃浦の瞳から涙があふれ出した。目に写る夜景がぐっと歪み、そして消えた。

 雨に濡れる大阪の街がどこにもなかった。空の暗さを引き立てるライトアップの輝きも何も見えない。

 一瞬頭が真っ白になった。涙を流してた目に何も写らなくなったのに驚いて、顔に滴っていた液体を腕で拭う。

 と、そこに現れたのは、幾何学的な図形、放射線状に広がる直線。一体それが何なのか、一瞬理解に苦しんだが、なんてことはない。それは傘、和風の番傘であった。

「……あの、濡れてますよ?」

 古めかしいデザインの傘だった。まるで本当に和紙で作られているような質感の古風な番傘。それをベンチに座り醜態を晒していた小乃浦に差し出した者がいたのだ。

 突然のことに、小乃浦は戸惑いながらも首だけを声の方に傾けた。

 意外なものを見て小乃浦は息を飲む。

 そこには和服を着た女性が一人立っていた。淡い若草色の着物に金糸細工の帯と真っ赤な牡丹の柄が一際映えていた。そして番傘を持つ手の細くしなやかな曲線は、和服の美の体現に見えた。何より目を引いたのは黒髪を纏めて上げた首筋に見えるうなじの白さ。京都でなくとも和服姿の女性はちらほらと見かけるが、ここまで自然に和服に馴染んでいる女性は早々いない。それも酒に潰れた小乃浦が一目で見惚れる美人となれば、本場の京都を探してもなかなかに見つからないだろう。

「あの、大丈夫ですか?」

 首を傾げる女性のか細い声。雨に濡れてベンチで天を仰ぎ見ていたのだ。不審者と思われても仕方がないのに、ゆっくりと上品な口調で声をかけられては、酔いが覚めきらぬ小乃浦も背を正すしかなかった。

 辺りを見ても他に誰もいない。普段の中之島公園ならジョギングや散歩をする人が行き交っていてもおかしくはないが、あいにくの天気で人影はない。今はたった二人、小乃浦正志と和服の女性だけ。女性は誰も連れずにたった一人で、不審者と言われてもぐうの音も出ない小乃浦の身を案じて声をかけて来たのだ。

「傘が無くてお困りですか? とりあえず、駅まででしたらお送りしますよ?」

 最寄りの駅なら『なにわ橋』駅だろう、と酒に酔った小乃浦でも直ぐに判断がついた。そこまで傘に入れてもいいという親切な申し出だった。

 その心遣いもさることながら、和服の女性の清楚な立ち振る舞いに小乃浦は言葉を失っていた。酒に酔っていなければ、いや酒に酔っているからこそか、目の前の和服美人を口説きたい、という現金な衝動に駆られてしまう。だが親切心で声をかけてもらっている初対面の女性に、そんな生々しい感情を悟られることがあれば、さすがに気恥ずかしい。

「あの、本当に大丈夫ですか? だいぶ酔ってはりますね? 車を呼びましょうか?」

「あ、いや……、すいません。ちょっと休んでいただけです。……でも大丈夫。歩けますよ」

 そう言って無理するようにベンチから立ち上がった小乃浦は女性の小柄さに少し驚いた。小乃浦は男性の中でも比較的身長は高い方であるが、それにも増して女性は小さく華奢に見えた。こんな女性が夜の川沿いの遊歩道に一人で居るのは危ないことだ。麗しい女性をそんな危険な状態に居させるわけにはいかない。そんな紳士めいた考えが小乃浦の脳裏に浮かび

「駅までお願いできますか?」

 と、薄暗い遊歩道からすぐに離れる提案をした。急に知らない人間から声をかけられた戸惑いはどこえやら、あきらかに小乃浦はまだ酔っぱらっていたのだろう。

 それよりも、雨が涙を誤魔化したようで和服の女性に泣いていたことを知られずに済んだのだと小乃浦は安堵していた。いや、もしかするとそれを察しいたのに触れずに居てくれる女性の気遣いかもしれない。どちらにせよ、小乃浦は女性に迷惑をかけないように酔った足元を正して毅然と歩くように努めた。無論、それで急にアルコールが抜けるわけでもなし、もつれる歩みはたどたどしいものだ。

 遊歩道を傘を挟んで歩く二人に会話はなかった。黙り込んでいるよりは世間話ぐらいした方がいい、と小乃浦も気をもんだが、その女性は気にする様子もなく足元がふらつく小乃浦に歩調を合わせてくれていた。

 ゆらりゆらりと奇妙なリズム進む二人。

 元々酒に酔ってふらついた小乃浦が歩いて来た場所だ。それほど距離を歩かずとも中之島の中央公会堂の明かりが見えてきた。大正期に建てられた独特のバロック様式は、コンクリートビルばかりの街では特に目を引くものであった。残念な天気でもなく、これが目の前にいる和服の女性とのデートであれば、そういった夜景を好ましく思ったのかもしれない。そんな雑念が頭に浮かび、小乃浦は自分が不埒なことを考える余裕があった事実に驚いた。

 あまりにも隣を歩く女性の方をまじまじと見てしまっていた小乃浦は気恥ずかしくなり、少し慌てるように口を開いた。

「ああ、駅の入り口ですね。ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」

 レンガ地が続く遊歩道に、現代建築風のガラス張りの建造物。知らない者が見ればまるで植物園の温室に見まがうような建物が、地下に建設された「なにわ橋駅」への入り口だった。小乃浦達は、入り口の風除け扉まであとは短い階段を昇るだけというところまで来ていた。

 少し名残惜しいが、小乃浦は改めて女性に礼をを言うと、眩しいぐらいに明るい照明の地下への入り口に向かって傘から飛び出そうとした。酔った身体にまかせて勢いよく階段を数段駆け上がった小乃浦を止めたのは、別れを済ませたはずの和服の女性の声であった。

「あ、あの」

 大声というより強い声だった。あまりそういう声を出し慣れていないのだろう、どこか無理をして出した声に小乃浦は何事かと振り向いた。

「お料理でお困りなら力になれますよ?」

 料理人である小乃浦正志にとっては、何を言われたのか一瞬理解できないぐらい心外な言葉だった。傘から飛び出した身を雨に晒すこともいとわず足を止めるしかなかった。あまりに思考が回らず、小乃浦は自分が酒に酔っていることすら忘れていた。

 目を見開いて振り返った小乃浦に凝視されたのが気恥ずかしかったのか、和服の女性は番傘をくるりと回して見せた。

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