第8話

よくよく話を聞けば、やまちゃんこと山上君は、毎日一人で山に虫を捕りに行っていたらしい。無類の虫好きで、将来は、虫の研究をするのだそうだ。

一度だけ、足元が崩れそうな場所で転びかかったのを「タケル」という名の少年が、助けてくれた。

時々ばあちゃんにお裾分けを持ってきたときに見かけるこの家の孫にそっくりだったから、てっきり、僕だと思っていたらしい。でも、僕は、しらない。


そういえば、やまちゃんが、言っていなかったか。

「昨日もここで、別の子が落ちそうになって、危なかった」って。

僕は、ぽかんと口を開ける。どういう、ことだ。

落ちそうになったのは、僕で、やまちゃんじゃない。

助けたのは、タケルで、山上君じゃない。


「何でお前、毎日、俺と一緒だなんてカモフラージュしてくれたの?ばあちゃんが、タケル君が毎日迎えに来るのに先に行くなって」

「何言ってるの、やまちゃん、僕と毎日山で遊んだじゃん!」

「え?」


僕はやまちゃんに、山で会ったやまちゃんの話をする。

聞いている山上君の目が、だんだん、丸く見開かれていく。


「おい、誰だよ、それ、怖えな!」

「えええー⁉」

「ちょっと、やめろよ…」


互いに、しばし見つめ合い、それからじろじろと全身を眺めまわす。

やまちゃんも、何かに気づいたのか、小首を傾げて僕を見た。


「葉っぱ。今日はついてない」


ふたりとも共通するのは、僕が見たやまちゃんも、山上君が見たタケルも、身体に不自然に葉っぱが付いていたこと。

それから、確かに、どちらもお互いの話の内容に、覚えがないこと。


「誰に会ったんだろう…」


2人で唖然と、顔を見合わせた。

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