本当は妹が勇者なんだけど、危ないから俺が世界をすくってやる!

セイヤ。

もういっそ見た目もゴリラにしてもらった方が安心出来るレベル


「お兄ーちゃーん、起きてー!はやくしないとご飯は冷めて、学校には遅れて、あと何個かおたまがダメになるから急いでー!!」


そんな妹のモーニングコールが聞こえる。足のサイズとは随分違うスリッパを履き、パカパカ言わせながら階段を上がる音も一緒に。


俺はその声を聞いて、脳から体が目覚めたのを感じながらゆっくりと体を起こそうとする。

今日も今日とて機能しなかった目覚まし時計を横目に入れるとふと、息苦しいレベルの重さが俺の胸から足先まで掛かっていることに気づく。


「……おい、バニラ。起きてくれ、重い。息苦しいし、……あとこの後、俺の身にシャレにならないレベルの危険が迫ってるから一刻も早く撤退を願いたおなしゃす」


刻一刻と近づいてくる足音を聞いて、指示なのかお願いなのかよく分からなくなった語尾はさて置いておこう。俺は胸元に見える白みががった金髪のつむじを、つん、とひとつきする。もぞもぞっとしたので起きたのだろう。


「んむ〜。ミーの充電はまだまだひゃくぱーせんとではないのです。起動不可……」


どうやらコンタクトを失敗したようだ。警戒されて布団のさらに奥へ潜ってしまった。


「ってダメだろ!第一お前はロボットじゃねーだろ!睡眠不足なのは夜遅くまでゲームしてるお前が悪い!三葉が来るからさっさと降りんかい!」


「ぐぴゃっ!!」


俺は被っていた布団ごとバニラを床に放り投げた。

ふう、これで俺の安全は確保された。後は上手い言い訳トークでダンガンロンパ。それは違うよ!


この騒がしい朝の中心にして主役である俺はかむり葉平ようへい。高校二年生、ごく一般家庭に生まれた長男だ。


「む〜。ひどいぞ、よーへー!!ミーを投げ捨てるとは神への侮辱!さぁ!早くミーに最高で最上の安眠を捧げるべくベッドをさし渡すのだ!」


そしてベッド横の床でジタバタしているこの小さいのが『バニラ』。その甘そうな名からは想像できないが、彼女はいわゆる〝神〟という存在らしい。今は地上に降りるにあたり、神格を返上し、それらしい力はほぼ無いそうだ。


……そして何故か背中から生えた小さな羽が手足と一緒にぴょこぴょこしていた。ビジュアル的には神というより天使っぽいが。まぁ、人の世に慣れすぎてよく神という事を忘れるがな。


……ん?っておいおい皆様や。なんで俺をそんな蔑んだ目で、まるでアニメや漫画の見過ぎで現実から目をそらし、妄想の金髪幼女と戯れている引きこもりを見るような目をしないでくれよ。俺は〝正常〟だ。金髪幼女神様も現実にいるし、そう例えばこんな存在が薄れてしまうほど衝撃で笑撃的な存在がもう一人。異常でしか無い人が、この家には……


「お兄ーちゃーん!あーけーるーねー!」


バァンッッ!!!!!


「あっ……また壊しちゃった。あ、おはようお兄ちゃん、起きてたんだね。ごめんね、力が抑えられなくて……。何処かの金髪のおバカさんの気配がしたからかな?あはは」


妹はゴトっと俺の部屋のドアを廊下に置き、パーカーの襟元から下がる紐の先端をつつきながら部屋に入って来た。



そう、この家には明らかに人離れしたパワー、耐久、精神を持ち、神曰く、この世界で唯一にして最強の戦士となり、魔王を滅ぼさんとする『勇者』となる妹。


かむり三葉みつはが住んでいる……。




☆ ★ ☆




時は現代から約半世紀以上前の出来事。突如太平洋沖に現れた謎の巨大生命体『魔王』によって世界の人口の約三分の一が無残にも消し飛ばされた。


『魔王』は巨大な赤黒い柱に大量の大小の目を付けたような見た目をし、会話や意思疎通は出来なかった。

異様、化物、妖怪、怪異。どれも当てはまりそうな『魔王』は太平洋を少しずつ移動してアメリカ大陸に上陸。そして大陸に根を張り生物を次々と吸収していった。


人々はこの世の物と思えない『魔王』に怯えながらも世界のため、正義のために武器を取り立ち上がった。


『魔王』が出現し五年。圧倒的な戦力不足で人類の勝利は絶望的と言われていた最前線は、一人の男と一振りの剣を中心に現れた人達によってひっくり返ることになる。


その中心の男は一人で一国家軍を圧倒できる戦力を持ち、少数ながらも

『魔王』なる巨大生命体を討ち滅ぼし、最小限弱めたところで封印するまでに至った。人類が勝利した瞬間だった。


その男は勇者として讃えられ英雄として後世まで語り継がれることになった。


しかし『魔王』の正体については解明されることが無かった。


そして再び現代。世界中の人々は『魔王』のような存在に対抗するために「剣術」「武術」などを中心に様々な戦闘技術を育成することが義務になっていた。


俺、かむり葉平ようへいはこの話をこの話を幼少期に婆ちゃんから聞かされていたが、いまいちピンと来ていなかった。


勿論歴史の教科書や街中で見かける銅像にその姿が残されているが、今現代『魔王』たる者が残した爪痕の傷さえ残されていないな等しいからだ。


削られた三分の一の人口をすっかり回復しているし、世界は殺人やら立て篭もりやらテロやらで人間同士で殺しあっている。日本なんて『魔王』よりも最近急激に増えた地震や台風、豪雨、土砂災害と言った自然災害に怯える日々だ。


第一アメリカ大陸に至っては現在世界一の経済大国と言われるほど栄えているんじゃ実感がなぁ……。


と、まぁ平和ボケしていた俺なんだが、最近妙に『魔王』がいると実感出来る妙な出来事があった。

それが今現在我が家に居候している自称神さまである『バニラ』の存在だ。


「なぁようへー!ようへーも何とか言ってくれよ!何でミーの食事だけの上でしかも床に置いてあるのですか!人権はどこへ言っちゃったのですか!?そもそも!神さまですが!」


金髪自称神さまが俺の袖をくいくいっと引っ張りながら我が妹を指差し、言い放った。


「あれあれ?すみませんね〜。ウチには人様の使う食器しか無いのでわざわざそれ以外をお出ししたのに〜。バカだからその位がお似合いかと〜」


それに対して制服エプロンに黒髪をお団子二つに結った何とも可愛らしい姿の妹三葉は、笑顔で毒を吐き捨てた。


「バカとはなんだ!第一!この家にはペットなどいないです!何故わざわざこれを買うのですか!これだからゴリラは」


「どこかのおバカさんがお兄ちゃんの安眠を妨害し、あろうかとか布団に侵入なんて……。うらやま……最低な行為だよ。どこのゴミかな?お兄ちゃん、燃えるゴミでいいよね?」


「なんだとぉ!?」

「なに?」


とここ最近の朝はこんな調子で、勇者と神さまなんてこれもまた現実味の無さ過ぎる二人であるが、バニラを受け入れたのは他でも無い俺な訳でそれには相応の理由があるからだ。それについて話したいところだが、その前に……。


「おい三葉いい加減その位にしてくれ。このバカたれて来たのは俺なんだからさ、少々気にしないっての」


「あー!ようへーもばかって言ったばかって!!」


俺は腕をぐるぐる回して俺に抗議するバニラを尻目に妹に近づく。俺の脚はガクブルと小刻みに震えていた。おおぅ、体が無意識に危険を察知しているぞ。

妹は力持ちだからな。怒らせて何回か死にかけたことあったけど。


「むぅ。お兄ちゃんが言うなら……」


今日はすんなり大人しくなってくれたようで何より。

俺は拗ねたように唇を尖らす妹の肩にぽんと手を乗せる。俺の手はバイブレーションの様に震えている。


「後それとこれ以上、家壊さないで貰いたいなぁなんて」


俺はバキバキに壊れてしまったテーブルを見下ろしながら苦笑いした。

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本当は妹が勇者なんだけど、危ないから俺が世界をすくってやる! セイヤ。 @daks0008

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