歩く

春嵐

歩幅は夢も変わらず

 少し疲れた。

 立ち止まる。水。口に含み、しばらく待つ。適温になってから飲みこむ。足の状態。大丈夫。疲れているのは、心のほう。

 服の状態を確認する。スカート。大丈夫。濡れてない。というか、水辺だけど水が跳ねない。

 ここは夢の中。

 日常生活の跡がない。少し水が張った水面。少し前は、草原だった。

 歩きはじめる。足取り。大丈夫。まだまだ歩ける。

 ときどき、こういう夢を見る。普段の生活では、特段歩くことに気を使っていない。靴が壊れたら新しく買う程度。仕事も普通だから、自転車も自動車も電車も使う。

 夢の中では、私はよくわからないまま歩く。

「夢遊病みたいかも」

 呟きながら、歩く。たぶん、布団の中で足を動かしている自分がいるのだろう。

 普通の生活。普通の人生。しかし、この夢だけが、普通ではない。

 好きだった。

 夢の中で、本当にあるかもわからないような、綺麗な景色の中を、歩く。

 記憶は、あったりなかったり。夢の中で何も分からず歩いていることもあれば、起きた瞬間に歩いていた景色が飛んでしまうこともある。

 とにかく、今を、歩く。

 この景色を楽しみながら、自分の感覚を大事にしながら、歩く。誰もいない、私だけの世界。

 ここに、歩く理由は必要ない。

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歩く 春嵐 @aiot3110

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