第3話 胸がドキドキした
次は1年の
美羽は、元々は剣士だったが、桜坂高校剣道部に入部して早々、咲に実力の違いを見せつけられ、6月に引退。以降はマネージャーとして選手を支えている。
咲とは同じクラスで、出席番号1番2番という関係でもあり、いつも一緒にいる。
一方の陽平は、男子剣道部では涼介に次ぐ実力者で、涼介の親友でもある。誰にでも気さくに冗談を言える明るい性格で、男子からも女子からも人気が高い。
オバケとも友達になりそうな陽キャの2人は、最初から冗談連発で盛り上がった。
「ところで、美羽ちゃん」
ひとしきり盛り上がった後、陽平が改まった感じで聞いた。
「はーい」
「美羽ちゃんて、つらくねーの?」
「え、何がですか?」
「涼介のこと。あいつたぶん、咲ちゃんのことが好きだぞ」
美羽は涼介クンが好き、と公言している。最初はイケメン涼介への憧れだったが、ある事件に巻き込まれたとき、助けられたことがきっかけで、本気の恋に変わった。
「そう……かも知れないですね」
と美羽が応える。
陽平はこういうことをさらっと言える性格だ。
しかし、今、それを美羽に伝えたのは、単にお調子者だからではなく……。
「俺があいつ、ぶん殴ってやろうか。美羽ちゃんの気持ちも考えろって」
「このこのぉ。そんなことしないクセにぃ」
と言って、美羽が陽平の脇腹を肘でこづいた。
「アハ、バレた?」
と陽平がおどけて見せる。
「咲は剣道が恋人みたいなところがあるし、涼介クンは、何ていうか、みんなと同じ距離を保とうとしてるから、2人が付き合うことはないと思います。それに……」
と言って美羽はニカッと笑った。
「あたしが大好きってことが大事なんです! 剣道も、涼介クンも」
陽平は一瞬、キョトンとした顔をして、それから言った。
「美羽ちゃんは強いんだな。でもさ……」
と不意に真面目な顔をする。
「もしも、俺が美羽ちゃんのことを好きだと言ったら、どうする?」
「えっ」
トンネルの入口から風が吹いて、美羽の前髪を揺らした。
美羽は一瞬目を逸らし、それからもう一度、陽平の方を見た。
まだ真面目な顔をしている。
(本気だ)
と思った。
美羽はうつむき、すぅーっと深呼吸する。それから、陽平に笑顔を向けて言った。
「そりゃあもう小躍りして喜びます! それから万歳して、ベッドで転げ回って、嬉し泣きして、でも、あたしは涼介クンのことが好きだからごめんなさいって言って、記念にケーキを買って、写真を撮って、インスタで全世界に公開します!」
陽平はポカーンとして、それからハハッと笑った。
「いっぱいオブラートでくるんでくれてありがとう。傷つかずに済んだよ」
「でも、大喜びするのは本当ですよ。何なら、あたしに告白してみます?」
「いや、やめとく」
「なーんだ。やっぱり『もしもの話』なんだ」
「そうそう」
「このこのぉ」
***
ずっと会話しながら歩いていたため、もうトンネルの出口が近づいていた。
ここからの話は、向こうにいる涼介たちにも聞こえるかも知れない。
陽平は改めて言った。
「俺、涼介のことも美羽ちゃんのことも好きだから、2人のこと、応援してるよ」
「ありがとう。嬉しいです」
トンネルから出ると、美羽は「涼介クン、ただいまー♡」と言って腕に抱きつき、「暑苦しい」と振り払われた。それを見た陽平が涼介の尻を強めに蹴る。
「痛ッ。てめぇ、何すんだ」
「うるせ。何となくだ」
美羽は咲の背中に抱きついて、呟いた。
「あー、ドキドキした」
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