牡丹餅

勝利だギューちゃん

第1話

「やあ、元気?」

「君は?」

「忘れちゃった?雛乃奈々よ・・・」

「雛乃さん・・・だって、雛乃さんは・・・」

「そこから先は、シーね」

「わかった・・・」

「どうして私が、君の前に現れたのか、わかる?」

「わからない・・・」

「だよね・・・君は鈍いもん」

突然の再会に、僕はとまどう・・・


「君に貸したままの本があったよね?」

「・・・うん・・・」

「読んだ?」

「まだ、読んでない・・・」

「うふふ・・・いいわ。あの本は君のあげる」

「でも、宝物だって・・・」

「いいの。私から君への、最初で最後のプレゼント」

「プレゼント?」

「うん。それに、私はもう、読めないでしょ?」

彼女を傷つけたしまった事に、罪悪感を覚えて、胸が痛む。


こんなやりとりを、昔から出来ていたら、

僕と君との関係は、違っていただろうか・・・


「君のほうから、私の声を掛けてくれた事は、一度もなかったね。」

「・・・そういえば・・・」

「いつも、私からだった・・・悲しかった・・・」

「えっ、」

「私、いつも待ってた。君から声を掛けてくれるのを・・・」

「嘘でしょ・・・」

「本当・・・でも、一度もなかった・・・ね・・・」

今更ながらに後悔する・・・でも、僕にそんな勇気は、そなわっていなかった・・・


「今もないでしょ」

「えっ・・・」

さすがだ・・・今の君なら、心を読める・・・


「でもね・・・待ってるだけじゃ、何も起こらないよ」

「・・・でも・・・」

「『棚から牡丹餅』は、知ってるよね」

「・・・うん・・・」

「でも、棚の上に牡丹餅は、そうそうないわ」

「確かにね・・・」

「なければどうするか?答えはわかるよね?」

「自分で作る」

「正解」

彼女が拍手をする。


「そうすれば、君の作った牡丹餅を、きっと気に入ってくれる人がいる」

「本当に・・・」

「うん。私が保障する。君なら出来る」

「・・・わかった・・・出来るだけやってみる・・・」

「約束だからね。はい、指きり・・・」

彼女と小指と小指をからませる・・・


それから、僕は毎日、牡丹餅を作り始めた。

来る日も、来る日も、作り続けた・・・


ある日、ひとりの女の子がやってきて、牡丹餅を手に取ってくれた。

「この牡丹餅、なかなかいいね。君が作ったの?」


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牡丹餅 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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