9.




「え、会長……?」



店に入ってきたのは稔と藍花と、会長。


会長は私を見て笑顔を作った。



「……なんで」


「何でって、手幡さんが今日、このカフェでバイトしてるから」



稔か藍花が言ったのか。


会長の後ろにいる2人を見ると、2人は同時に首を振った。


じゃあなんで知ってるの。


とりあえず、カウンター席に3人を誘導して、メニューを渡した。


ここ、高校生が来るような店じゃないんだけどなぁ。


雰囲気もそうだけど、値段的にも。


そう思っていたけど。



「何だ?知った顔が2人いるじゃないか」



キッチンから出てきた店長がそう言いながら私の隣に立った。



「久しぶりだな、稔坊と藍花嬢ちゃん」


「坊って言うのやめろって」


「言うようになったな、坊」



稔の嫌そうな顔を見て、カフェには似合わずガハハと豪快に笑う店長。


本当に小さい時から、店長は私だけじゃなくて稔と藍花にもよくしてくれた。


だから、この店に2人が来なくなったのも理由がある。



「もっと頻繁に遊びにこいって言ってるのに、全然来なくなってよ」


「来たらおじさん、何でも奢ってくれるじゃない」


「だから遊びに来いって言ってるだろ?」



申し訳なくて来なくなったって気付きなよ、店長。


独身だからなのか、店長は私たちを自分の子どものように可愛がってくれる。



「それで、そっちの兄ちゃんは李眞たちの友達か?」



そうだった。


店長の登場で会長に話聞くのすっかり忘れてた。



「そうです、高校の同級生です」


「李眞がこんなイケメンの兄ちゃんと友達か。すげぇな」


「あはは、俺は手幡さんと友達から先に進みたいんですけどね」



さらっと答えた会長に、店長は目を丸くして、そしてすぐに声を出して笑った。



「李眞、どうやってこんなイケメン兄ちゃん落としたんだ」



バンバンと私の頭を叩く店長。


……身長縮む。



「知らない。私が聞きたいぐらい」


「こんなちんちくりんだが、頼んだぞ」


「はい、もちろん」



付き合ってもないのに、にっこりと笑う会長。


そんなことよりだ。



「会長、私がバイトしてるって知ってたの?」


「うん。去年から知ってたよ。駅前だから通りすがりに働いてるところ見てたし」


「何で」


「忘れたの?手幡さんにアルバイト申請書を渡して、その後アルバイトの詳細を提出しろって言ったのが俺ってこと」



そうだった。


会長との初接点はそこだった。


去年のこの時期は、入学して高校に慣れてきたぐらいだったから、アルバイトをしようと担任の先生に言ったら、生徒会室に書類を取りに行けって言われた。


その時に書類を貰ったのが当時から生徒会役員だった会長。


許可が貰えて、アルバイト先とかの詳細が書かれた書類を提出したのも会長だ。



「生徒会にプライバシーはないの」


「生徒に関する書類はだいたい生徒会が目を通して、先生に渡すからね。俺としては手幡さんのこといろいろ知れていいけど」



ストーカーかよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る