8.




授業が終わって、藍花に声をかけることなく、私は足早に帰る。


正門を出て、いつもとは違って駅の方へ歩く。


毎週金曜日はこうだ。


学校から駅までは歩いて10分程度。


目的地は駅の目の前のカフェ。


……今日も人多いな。


正面の入口から店内に入らず、裏口へと回った。



「おはようございます」



裏口から店の事務所に繋がっていて、そこから女子更衣室に入ると、休憩中の女子大生アルバイトがいた。



「おはよ、手幡ちゃん。聞いたよ、先週風邪引いたって?もう大丈夫なの?」


「熱発だけだったので、もう大丈夫ですよ」


「手幡ちゃんが3日も休むなんて珍しいから、店長びっくりしてたよ」



そう言われて、私は「ご迷惑おかけしました」と笑った。


ロッカーを開けて、学校の制服からこの店の制服に着替える。


1年前から、毎週金曜の学校終わりと土曜日曜の午前中、この駅前のカフェでアルバイトをしている。


高校は、周りの高校と違ってアルバイト禁止なんだけど、一人暮しってことで許可を得ている。


成績を下げないことを条件に許可を貰っているのだから、テスト前にバイトなんてしたくないんだけど、生活がかかっているから仕方ない。


先週、休んだし。


着替えを終えて、事務所で勤怠を切ってから表に出る。


昼時を過ぎているというのに、やっぱり今日は人が多い。


駅前に店を構えられるぐらい人気のカフェだから、仕方ないか。



「店長、おはようございます」



キッチンでコーヒーを入れていた40代の顎に髭を洒落て生やしている男性に声をかけると、手を止めて顔を上げた。



「おお、李眞!もう体調大丈夫か?」


「はい、おかげさまで」


「なら良かった。見ての通り、今日も人が多いからな。無理しない程度に頼んだぞ」



言い終わるとすぐに店長はコーヒーを入れ始め、「これ、あのテーブルに運んでくれ」と早速仕事を命じる。


この店は店長の個人経営。


スイーツがすごく可愛くて美味しいということで、人気を集めている。


店長は私のお父さんの幼馴染で、友達の一人娘である私を気にかけて、こうしてアルバイトとして雇ってくれている。


時給も大学生と同じ額貰っている。


シフトの融通も利かせてくれている。


この上なくありがたいから、バイトを休むなんてできない。


私がホールに入った時がちょうどピークだったらしく、しばらくして客足が落ち着いてきた。


これからディナーの時間に入るから、こんなの束の間なんだけどね。


さっきの女子大生アルバイトの他に、ホールには2人。


キッチンには店長と常勤さんが1人。


キッチンが忙しくなったら、私もキッチンに行くのがいつもの流れだ。


正直キッチンの方が接客しなくて好きなんだけど、1番若いからってホールに立たされる。


まぁ、仕方ない。


注文も入らないから、何もすることがなくて、フォークとスプーンとナイフを磨く。


いつお客さんが来てもいいように、店の入口が見えるカウンター席の前にいると、見慣れた制服の男女3人組が入ってきた。


高校生がこの店に来るなんて、珍しい。


そう思いながら、いらっしゃいませと声をかけ、3人組の顔を見て目を見張った。



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