5.




ずっと勉強に没頭していたらしい。



「おい、もう19時だ」



根渕くんが私たちの近くに来て、初めて時計を見た。


確かに、時計は7時を指していて、外を見れば、夏だから明るいけれども日は落ちている。


勉強を始めて、2時間半が経っていたことになる。



「じゃあ、今日はここで終わろうか。続きは明日ね」


「うん、ありがとう、会長」



笑顔でそう言えば、会長も笑顔を返した。


久しぶりにこんなに勉強した。


1人で勉強するより余程効率がいい。


急いで勉強道具を片付けて、生徒会室を出る。


根渕くんが職員室に生徒会室の鍵を返しに行くと言うから、お言葉に甘えて会長と生徒玄関へ行く。



「送っていくよ」



先に靴を履き終えて、私を待っていた会長がそう言う。



「え、でも会長って電車通学だよね?」



最寄り駅は私の家とは逆方向だ。


電車の本数は多いけど、遅くなるのは親御さんが心配するんじゃ……。


大丈夫だよ、と言おうとすると、会長は被せて大丈夫と言った。



「俺が一緒に帰りたいんだ。いいでしょ?」



そう言われると拒否できない。


わかった、と答えると、嬉しそうに笑った。


テスト勉強で校内に残っていた人たちからの視線を感じるけど、気にせずに会長と歩く。



「今日、根渕くんずっと生徒会の仕事してたね。会長、私に構ってて大丈夫だったの?」


「あれは耀毅の仕事だからね。俺の仕事はもう終わってるから、手伝ったら怒られる」



あはは、と会長は笑う。


会長でも怒られるのか。


今みたいな笑顔で軽く流しそうだけど。



「それに、実はあいつの方が仕事丁寧で早いんだよ。だから、あいつ今俺の倍仕事してくれてる」


「え、そうなんだ」



別に偏見を持っていたわけではないけど、会長より仕事早いってことは、根渕くん、相当できる人……。



「裏方の仕事させたら耀毅に勝てるやついないんじゃないかな」


「なるほど、だから副会長」



この高校はちょっと珍しく、生徒会選挙をするのは生徒会長のみで、副会長以下は全て生徒会長の権限で決まるらしい。


その他にも生徒会長の権限は強いし、生徒会の意向は全生徒の意向とされている。


だから、相当しっかりした人じゃないと生徒会選挙にすら出させてもらえない。


生徒会に入るためには、生徒会長に信頼されないといけない。


そんな生徒会に1年生の時から所属している会長はもちろん、根渕くんも相当すごい人ってわけだ。



「耀毅のこと、怖い?」



突然、声のトーンを下げて会長が訊いてきた。


眉間に皺を寄せ、心配している顔。


少し申し訳なさそうにも見える。


たぶん、怖くないよって言っても無駄なんだろうな。



「うん……、ちょっとね」


「まぁ、あんな目付きだしガタイも良いからね。怖いって思われてるのは耀毅も自覚してるから」


「でも、会長と仲がいいってことは、いい人ってのはわかるよ。私、 嫌われてるのかなっては思うけど……」



俯いてそう言うと、会長は突然、「手幡さん、頭撫でて良い?」と尋ねた。



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