2.




「いつも手幡さんってお弁当だよね。手幡さんの手作り?」


「うん、そうだよ」


「すごいね。美味しそう」


「朝から作ってるのはちょっとだけだよ。あとはほとんど昨日の夕飯の残りものと冷食だもん」



お弁当をじっと見ているから、食べる?と訊くと、食べる!と嬉しそうに答える。


夕飯の残りをあげるのはあれだから、今朝作った卵焼きを会長の手に乗せた。



「ん!美味しい!!」



手に乗せられた卵焼きをひょいっと食べると、目を輝かせてそう言う。


大袈裟だなぁ。


普通のだし巻き玉子だっていうのに。



「李眞の料理は美味しいからね」


「御門さん、食べたことあるんだ」


「たまにね、泊まりに行くから。あと、テスト勉強のお礼で」


「お、それはいいね!!」


「……え、何が?」



さっきよりもっと目を輝かせた会長に問い返す。


また強引なことでもするの……?


私は慣れてないんだから勘弁してほしいぞ。



「勉強教えるお礼だよ。休日1日中デートしよって誘おうと思ったけど、手幡さんに拒否されそうだったし、何してもらおうかなって考えてニヤニヤしてたんだけどさ」


「ちょっと待って、何をしようと考えてたの」



怖い、この腹黒会長。


自分でニヤニヤって言いやがったから、絶対宜しくないこと考えてた。



「過激なこと要求しないよ?嫌われるのは嫌だからね。妄想はしたけど」


「しないでよ!!」



今更だけど、私、結構やばい人に好かれた……?


完璧超人だし、腹黒だし、ナルシストだし、サディストだし。


それに加えて変態とは。


会長の自己紹介欄に、『変態』を付け加えて、更に左向きの矢印付けてNEWって書きたいぐらいだ。



「勉強教えてもらえるんだから、お礼はもちろんするけど、そんな大層なことはできないよ?放課後に遊びに行くんだったらいいけど、休日を丸一日使うのは無理だし」


「え、放課後デートしてくれるの?なら、それも付け加えるね」



……何個要求するつもりなんだ、この人。



「とりあえず、何したらいいのか教えて?」



尋ねると、会長は嬉しそうに答え始めた。



「まず、俺と付き合ってほしいな」


「放課後に遊ぶの付き合うならいいよ」



さらっと告白してきたから、さらっと受け流すと会長は舌打ちする。


会長の舌打ち、本気に見えて怖いからやめてください。


こっちは告白されるのにも慣れてないんだから、受け流すぐらい大目に見てくれ。



「放課後デートと、手幡さんの手料理が食べたいな」



あ、なるほど、さっきのはそういう意味での、「それはいいね!!」だったのか。



「その2つなら全然大丈夫だよ」


「じゃあ、もう1個付け足していい?」


「いいけど、また、付き合ってとか言ったら、絶交ね」


「ちっ」



やっぱり。


油断ならないな、この腹黒。



「手強いなぁ。じゃあ、手幡さんの成績が今までより格段に良くなったらでいいからさ、俺のこと名前で呼んでほしいな」


「名前……?」


「本当は下の名前がいいけど、抵抗あるなら苗字でもいいからさ。手幡さんに会長って呼ばれるの距離置かれてるみたいで嫌だから」



会長は悲しそうな笑顔で、苗字でもいいよ、と繰り返す。


そこを強調するのは、たぶん私が周りの目を気にしていることをわかっているから。


人気者の会長に特別視されてるってのは、私でもわかる。


皆も知っていて、そのことで自分が奇異の目で見られていることもわかってる。


平凡第一で過ごしてきた私にとって、それは結構つらくて。


会長はそれに気づいたんだ。


本当は告白する前に気づいてほしかったけど、他人の気持ちってのはどうにもならないから仕方ない。



「わかった。いいよ」



そう答えると、会長の表情がパッと明るくなった。


会長を名前呼びかぁ。


会長の名前……。


……あれ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る