5.




会長が離れて落ち着いたからなのか、顔が真っ赤になる。


熱のせいではない、体の熱っぽさと心臓の鼓動。


唇の感触が離れない。


台所でガサッというレジ袋の擦れた音がして、部屋のドアが空いた。



「関山、遅かったな」


「家に寄ってきたからな。……李眞は?」



稔が会長に訊いたので、起きてるよーと私から答えて、会長によって倒された体を起こした。



「お前、顔真っ赤だな」



ベッドに近づいてきて稔がそう言うと、稔の奥にいる会長がニヤリと笑った。


……この腹黒が。


今回は自業自得かもしれないけど。



「熱は?」


「体温計なんてうちにない」



諸事情で私は高校進学と同時に一人暮らしだ。


おまけに熱なんて久しく出てないんだから。


だからそう言うと、稔は持っていた鞄から体温計を取り出して私に渡した。



「そんなことだと思ったら家から持ってきた。ついでに食料も買ってきたから。今日家泊まるぞ」


「伯母さんの許可は?」


「取った」


「ならいいよー」



頻繁に自分の父親と喧嘩しては、私の家を私の許可なしに避難所にしてるんだから、今更すぎる。


しかし、会長は違った。



「え、関山、手幡さんの家泊まるの」


「そりゃあ、今日のこの状態の李眞を1人にするわけにはいかないだろ」


「ひとつ屋根の下に男1人と女1人?だったら俺も泊まる」



駄々っ子のように言い張った会長。


いや……、それはさすがに。



「会長は帰りなよ。稔は頻繁に止まってるから、布団、稔の分しかないし、会長に迷惑かけられないよ」



それに、さっきの件があるから警戒しておかなくなる。


拒否されるのをわかっての発言だったのか、会長は寂しそうな顔をしつつもあっさりと引き下がった。



「まぁ明日までには体調治すから大丈夫だよ」



そう言って笑顔を作ったが、アホかと稔に叩かれた。



「ちょっと、私病人!!」


「だったら病人らしく数日は休んどけ」



稔のその発言と同時に、体温計の機械音が鳴る。


見ると、39.0℃。


……なぜだ。


あんなにたくさん寝たのに、なんで昼前より熱が上がってる。


体温計を稔に取られ、体温を見た稔はため息を吐いた。


会長も体温計を見て、ため息を吐いた。



「無理しないでちゃんと休むんだよ、手幡さん」


「治るまで俺が見張っておくから、会長は安心して家に帰れ。李眞、母さんが明日、午前中に病院連れて行ってくれるらしいから、ちゃんと行けよ」



追い打ちをかけるように会長も、「休まなかったら怒るよ」と言ってきて、頷く以外できなかった。


……大したことないと思うのになぁ。


夏風邪だし、インフルエンザなわけないし。


でも反抗したら怖いから、黙っておく。



「関山帰ってきたし、手幡さんとも話せたから俺は帰るよ」


「おー、ありがとうな、会長。助かった」


「どういたしまして。手幡さん、お大事にね」


「うん、会長ありがとう。心配かけてごめんね」



全くだよ、と言いつつも会長は優しく笑い、家を出ていった。


……そういえば、私どうやって家に帰ってきたんだろう。




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