2.




噂ってのは思っていた以上に広がるのが早いみたい。



「手幡さん、会長と付き合い始めたの!?」


「いつから!?」



教室に着いた瞬間、クラスメイトどころか隣のクラスの人からも質問攻め。


あの腹黒に何発かビンタしても許されるんじゃないか。


そんなことしたら、次どんなことされるか知れないサディストだから、しないけど。



「付き合ってない!!」



と一言言い張って、私は荷物を自分の机に置き、先に来ていた藍花の所に逃げた。


それでも、「でも会長のデートって言ってたじゃん」と質問は続く。


もういい、全部会長に丸投げしてやる。



「会長が勝手に言ったことだから私は知らない!会長に訊いて!」



仕返しだ。


これで会長も私と同じ苦しみを味わえばいい。


……とは思うけど、あの会長なら上手いこと対応するんだろうな。


これ以上口を開く気のない私に、仕方ない、といった感じで皆諦めていく。



「皆から話聞いてびっくりしたわよ。会長のこと断るって言ってたのに、会長と付き合ってるって」


「全部会長のせいだし……」



まだ授業も始まっていないというのに、朝から疲れた。


ただでさえ寝不足だったのに。



「いいの?全部会長に丸投げして」


「いいよぉ、こうなったのも会長のせいだもん」


「でも、またあらぬこと言われない?」


「……あ」



そこまで考えてなかった。


あの会長なら、付き合い始めたの?って訊かれて肯定しかねない。


いやいやいや、さすがに虚言癖はないでしょ。


……多少強引でも落とすって宣言されたじゃん。


顔から血の気が引く。


心なしか頭もクラクラする。


今日、最悪だなぁ。



「ちょっと、大丈夫?顔色悪いわよ?」


「うん……、たぶん大丈夫ー」



えへへ、と笑うけれど、藍花はじっと目で私を見る。



「信用ないなぁ。大丈夫だってぇ」



そう笑って答えたけれども。


3限を終えた頃には体力の限界が来ていた。



「李眞、絶対保健室行った方がいいわよ」


「……んえ?」



あれ、いつの間に授業終わったんだろう。


気づいたら目の前で藍花が心配そうな目で見ていた 。



「顔、さっきより真っ青になってる」


「大丈夫だってぇ」


「いいから行きなさい」



有無を言わせない言葉の圧。


はーい、と渋々立ち上がる。



「1人で行ける?」


「んー、大丈夫ー」



頭はクラクラするけど、何とか歩けてはいる。


みんなからの視線を感じながらも無視して保健室に行くと、先生は机で仕事中だった。



「あら、最近噂の手幡さんじゃない」



ドアを開けた私に気づいた先生はそう言う。


……先生たちまで知ってるのか。


とんでもない生徒会長だな。



「顔色悪いわね」


「友達にそう言われて来ましたぁ。私は大丈夫だと思うんですけどねぇ」


「とりあえず検温するわよ」



そう言われて熱を計るけど、絶対大丈夫だって。


風邪なんてもう5年引いてないんだから。


ピピッと機械音が鳴り、脇から体温計を取って見る。


あれ、壊れてるのかな。



「せんせー、この体温計壊れてますよぉ」



そう言うと、先生に「見せてみなさい」と言われて渡す。



「……壊れてないわよ。全部ベッド空いてるから好きなところに早く寝なさい」



ピシャリと言われて、えーと口答えすると、睨まれる。


仕方ない、これ以上口答えすると怒られる。


ゆっくりとした足取りで私は隅のベッドに行き、横になった。


38.5℃なんて、絶対体温計が壊れてるのに。



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