第2話 風邪

1.


 翌朝、家を出てから欠伸を1つ。あんまり眠れなかった。これも全てあの腹黒生徒会長のせいだ。



『多少強引でも落とすよ、手幡さんのこと』



 強引って、昨日のあれだろうか。会長の手の感覚がまだ残っている。あの触り方も。あの目も。あの声も。

 ……って、朝から何思い出してるんだ!!首を横にブンブン振る。体が熱い。もうすぐ7月だけれども、そういう暑さじゃない。

 会長、本当に高2なのかって思うぐらいの色気があるんだから、あんなのを毎度毎度なんて、心臓がもたない。会長に言われた通り、気が抜けないな。食べられるどころか、心臓が止まって死ぬ。

 階段を降り、アパートの入口に立つ。



「李眞、おはようって……、お前すげぇ隈だぞ」



 いつも時間通りにご苦労さん、稔。登下校はだいたい、いつも稔と一緒だ。ふわぁっともう一度欠伸をした。



「あんまり眠れなかった」


「それは見てわかる。御門に昨日聞いたが、 会長のこと断ったんだろ?」


「うん、まあ一応ね」


「なんだよ一応って」


「断ったけど、逆に会長に火が付いた」



 なんだそれ、と稔は呆れたように言った。私が聞きたい。



「会長、諦めてねぇってことか」



 頷いて私は欠伸をした。

 私の家から学校までは歩いて10分ぐらいその間に10回は欠伸した自信がある。授業中寝なければいいけど。



「あ、手幡さん!!」



 何回目かの欠伸をした時、お気楽そうな声が聞こえて、びくっとした。



「か、会長……」


「おはよ、手幡さん。あはは、朝から警戒心たっぷりだね」



 昨日自分がしたこと忘れたのか。会長の笑顔を見る限り、昨日のことは忘れた方が良さそうだ。

 今日は抜き打ちの服装検査らしい。正門の前で生徒会と風紀委員が立っている。生徒会長がここにいるのも、服装検査の最中なのだろう。



「今日、隈ひどいね。大丈夫?」



 会長は私の目元に触れた。そして優しく撫でる。ゆ、油断した……!!昨日のあの感覚を思い出して、また体が熱くなる。



「会長のせいなのに……」


「俺のせい?何で?」



 言葉と反して、会長はニヤニヤと笑っている。確信犯か、この男!!



「知らない!稔、早く行こ」



 そう言って私は会長の手を振り払い、走り出した。



「あっ、待ってよ手幡さん!!」



 誰が待つもんか!そもそも会長は生徒会の仕事中だから追いかけられないはず。逃げるが勝ちだ!!

 ……そう思っていたけれど、次の会長の行動に、負けを認めざるを得なくなった。



「今日デートしよ!!放課後、教室に迎えに行くから!待っててね!」



 今は登校してきた生徒で人が溢れている。会長のその発言に、辺りが一斉に騒ぎ出した。……完全にやられた。会長が私の目元に触れた時から、多少のざわめきはあったけれども、それでも見ていた人たちだけだ。

 でも今のは。



「え、会長デートって言った!?」


「付き合ってるってこと?」


「会長よかったね!おめでとう!!」



 コソコソと聞こえる言葉たち。恐らくこの場にいる全員、会長の発言が聞こえていたのだろう。怒りで会長を振り向けば、会長はにっこりと笑っている。

 強引ってこういうことか!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る