6.

「そういえば、手幡さん」



 急に会長の目付きが変わる。久しぶりに背筋が凍った。何で、怒ってる……?



「俺に手幡さんは似合わないなんて思ってたとはね」



 へ、蛇だ。笑顔だけど、目が笑ってない。



「俺を落としたのに、よくそんなこと言えるね」


「だから……、それは会長が勝手に……。ひぃ!!」



 バンッと強く音を立てて、会長は私の真横の机に手を付いた。立って、座っている私の目の前で、今度は上から見下ろしてくる。稔と変わらないぐらい身長の高い会長が立っていて、平均身長に全く足りていない私が座っている。私が立っていても座っていても、目の前に立たれただけで怖いのに、今は眼力もあって威圧感が割増だ。



「次そんなこと言ったら、無理矢理にでも彼女にするからね」


「ご、ごめんなさい……」


「あと、危機感なさすぎじゃない?気を抜いたら食べるって言ったよね」



 腰を屈めた会長。目の前に会長の顔が来る。うっわ、目の前で見てもイケメン……、って思っている場合じゃない!!

 後ろに下がろうにも椅子の背がある。会長は空いた手で私が座っている椅子の背に手を付いている。つまり、逃げ道はない。



「人通りがなくて、先生も誰も入ってこない生徒会室に、好きだと言われている男と2人きり。何もされないとでも思ったの?」


「だ、だって会長、今まで何もしなかったし……。人目があるから生徒会室で話そうって言ったのは会長だし……」


「それが危機感なさすぎるって言ってるの。何もしなかったけど、俺が手幡さんのこと好きだから、下心しかないよ。襲われたいの?今この状況で俺から逃げられる?その小さくて華奢な体で」


「小さい言うな……」



 必死に睨み返すけど、勝てる気がしない。逆に会長に何それ、と言われる次第。



「涙目で上目遣い。煽ってるの?襲っても文句言えないよね」



 会長は私の髪に触る。次に耳。そして頬。目を強く瞑って耐えるけれど、その触り方がなんとも厭らしい。聞いたこともない声が、唇から漏れる。



「んっ……」


「ほら、その声。やっぱり煽ってる。ねぇ、食べてもいい?」



 目に涙を溜めたまま瞼を開くと、会長は据わった目で私を見ていた。手が唇に触れた。全身に電気が走ったみたいに鳥肌が立つ。

 ……何のこれ。目の前にいるのは、本当に会長?



「はい、お遊びはおしまい!」



 突然、そう言って、会長は私から離れた。つい今までと雰囲気も声色も違う。いつもの笑顔で私を見ている。さっきまでのは一体なんだったんだろう。



「会長……?」


「わかったでしょ。俺は優しい男じゃないよ。手幡さんが思ってるほどいい人でもない」



 聞こえるか聞こえないかの声で、会長は危なかったと呟く。何が危なかったのだろうか。



「ほら、もう遅くなるから帰るよ。俺も仕事あるし、耀毅もそろそろ呼び戻さないと怒られるから」



 そう言われて時計を見ると、生徒会室に来てから30分以上が経っている。本当だ、早く帰らないと!!



「生徒玄関まで送っていくよ」



 私が鞄を背負っていると、会長はそう言った。そのお言葉に甘えて、玄関に一緒に行く。



「じゃあ、会長また明日」


「また明日ね、手幡さん」



 会長の笑顔を見て靴を履く。そして履き終えた時だった。



「そうだ、言い忘れてたよ」



 会長を見るとさっきの笑顔。……いや、違う。



「手幡さんが俺と友達でいたいって言うから、 友達として付き合いは続けるけど、俺はそんなつもりないからね」


「……え」


「諦めないどころか燃えてきたから、多少強引でも落とすよ、手幡さんのこと」



 蛇の目。黒い笑顔。この男、腹黒サディストか……!!!



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