5.

 放課後になったけど、会長はどこにいるのだろう。いつも会いに来てくれるから、会長を探したことなんてない。放課後だって、私が帰るタイミングで生徒玄関にいて……。

 あ、だったら生徒玄関で会長を待てばいいのか!!

 走って生徒玄関へ向かう。今日もいるよね、会長。



「どうしたの、手幡さん?そんなに急いで……」



 案の定、いつものように会長は私のクラスの下駄箱の所にいた。よかった。



「あの、会長……」



 息切れしたままでそう言うと、会長は落ち着いてから話して、と待ってくれる。やっぱり会長、いい人だなぁ。

 会長に言われた通り、息が整ったところで私は口を開いた。



「会長、話があるの」



 そう言えば、会長は笑顔を作った。いつかの、あの優しくて寂しそうな笑顔。会長はたぶん、私がなんて答えるのかわかってるんだ。



「ここじゃあ人目があるし、生徒会室においで」


「え、でも生徒会室って……」



 生徒会役員以外は用がない限り入っちゃいけないんじゃ。



「いいよ、バレはしないし。生徒会長権限で何とかできる」



 わ、悪い人だ……。あはは、と会長は笑う。


 生徒会室は2階の正門がよく見える場所にあった。会長が部屋の扉を開けると、そこには先客が1人。確か副会長で去年クラスが一緒だった……。



耀毅テルキ、申し訳ないけど」



 会長がそう言った時には、副会長は立ち上がっていた。会長の後ろにいる私を見ながら。……睨みながら?

 副会長、初めてよく見るけど稔よりガタイ良くて目付きが悪い。だから、睨まれた瞬間、足がすくんだ。



「耀毅、睨むなよ。手幡さんは何も悪くないぞ」



 見かねた会長がそう言う。



「元々こういう目付きだ。どうぞごゆっくり。終わったら呼び戻せ」



 副会長はさっきまでしていた仕事の書類を持って、生徒会室を出ていった。

 2人だけの空間になって、なぜだか緊張してくる。あれ、そういえば私と会長、2人きりになったことない……?



「さて、邪魔者がいなくなったし」


「副会長を邪魔者って」


「今は邪魔者。……返事、聞かせて?」



 生徒会長は椅子に座った。私も椅子を勧められたけど、首を横に振る。なんて言えばいいんだっけ。言葉が出なくなって立ったまま俯く私を、会長は何も言わず待ってくれる。早く言わなきゃ。



「あの……ね、会長、私……、会長とはお付き合い、できないです……」



 ぽろぽろと涙が落ちてくる。なんで泣いてるんだろう、私。胸が痛い。



「泣かないでよ、手幡さん」



 会長は私の足元にしゃがみ込んで、下から私の顔を見て笑う。会長の方が辛いのに。なんで会長笑ってるの。



「手幡さん、優しすぎるよ。俺の気持ちをわかって泣いてくれてるんでしょ?」


「だって……、だって、会長私のこと好きって言ってくれて、すごく優しいし、すごくいい人だし……。でも、私は会長みたいにすごいところなんて1つもないから……」


「だから、俺に手幡さんは似合わない?」



 こくん、と1回頷いた。



「じゃあ、手幡さん自身は俺のこと、どう思ってるの?俺はそれが聞きたい」



 会長のことをどう思っている?私が、会長のことを。私は……。



「私は、会長と友達でいたい、です。会長と話すようになってから、すごく楽しかったし。でも、告白断ったら会長と関われなくなるのは、嫌」


「それが手幡さんの本心?」


「うん。会長は、私と友達なの、嫌?」


「嫌なわけないよ。 むしろ嬉しいよ。手幡さんが俺と話すのが楽しいって言ってくれて」



 会長は椅子に座る。そしてまた私に椅子を勧めるから、今回はそれに従った。椅子に座って、会長と向き合う。会長は真っ直ぐに私を見る。少し恥ずかしいぐらいだ。



「手幡さんの眼中にない状態から、手幡さんと恋人になれる、なんて思ってなかったし。それで友達でいたいって思ってくれるなら、すごく嬉しい」



 ありがとう、と会長は付け足して笑う。 寂しさはない、優しい笑顔。涙はいつの間にか止まっていた。



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