3.

「李眞」


「なんでしょうか!!?」



 次は誰なんだ。靴を履きながら、そう思って顔を上げると、そこには知った顔がいた。



「あ、ミノル



 細身の高身長で、短髪の少し目付きの悪い男。従兄の関山セキヤマ稔だった。よく見ると、稔も生徒会長に負けず劣らず顔が整っている。目付きと高身長による威圧感のせいで浮いた話はあまり聞かないけれども。



「なんかお前、今日機嫌悪い?」


「そりゃあね」


「じゃあ、あの噂、本当なのか?」



 やっぱり稔も知ってるか。今日何度目かわからないため息を落とした。帰るぞ、と言って稔は私の持っていた荷物を1つ取って歩き出す。



「女を振りまくってるあの生徒会長が、李眞をねぇ」


「何ニヤニヤしてんの」


「いや、おもしれぇなって」



 面白がるな、と言って横腹を殴る。仕返しと言わんばかりに、痛えわと頭を叩かれた。



「どうすんの」


「生徒会長への返事?その話題飽きた」


「飽きたからってぞんざいにする訳にはいかないだろ」


「まぁそうだけど……」



 去年、か。



「稔、去年会長と同じクラスだった?」


「……そういえば同じだったな」



 なんという偶然。



「会長と私のこと話したことある?」


「ある。会長と喋ること少なかったけど、喋る時はほとんどお前の質問だった」


「そんなに何回も訊かれたの?」


「割りと多かったな。俺と喋る話題がないからお前の話だったのかもしれないけど。お前と関わりなかったなら、お前の話する必要もないのにな」



 じゃあ去年から見てたってのは間違いないんだ。でも、そもそも生徒会長は私のどこに惚れたって言うんだ。去年から好きって、生徒会長と関わったことないのに。

 あ、1回だけ話したことあるか。ちょうど1年ぐらい前のことだ。会長、去年も生徒会役員だったから生徒会室で書類を渡してもらっただけだけど。その時に一目惚れ?そんなことできるほど、私は可愛くない。だから思い当たる節なんてますますない。


 突然、ぽんっと、頭が重くなった。隣を見れば稔が心配した顔で私を見ていた。



「あんまり抱え込むなよ」



 そう言って稔は何度も私の頭をぽんぽんと撫でる。



「そうやって真剣に人と向き合うのはお前のいいところだけど、それで悩みすぎるのはよくないからな」


「でも……」


「お前を好きになったのは会長なんだから、お前がそこまで責任感じる必要はない。巻き込まれたんだ、ぐらいの被害者感覚でいろ」



 それはそうだが、あまり納得いかない。うん、とか細い声で頷くと、稔は今度は頭を鷲掴みした。そして、私の頭を左右に激しく動かす。



「ちょ……、頭もげる!!」


「悩むなっていってるだろうが。こんな冴えない私を貰ってくれる人が現れたわ!やったわ!!とでも思っとけ」


「何その口調!私の真似!?」



 変なの、と言って腹を抱えて笑う。稔はまた私の頭を撫でた。



「お前はそうやって笑っていればいい」


「うん」


「断ったら会長を傷つけてしまう、なんて考えるなよ」



 うん、と私は笑顔で答えた。会長の告白があってから、今日初めて笑えた気がした。



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