第85話 「男子大学生の日常」
~前回までのあらすじ~
リーネ大学で鳴らした俺たち罪人部隊は、正当な理由を着せられ当局に逮捕されたが、いつまでも牢の中でくすぶっているような俺たちじゃあない。
いつかきっと、この狭い世界から抜け出して見せる。
俺たち、馬鹿野郎Aチーム!!
俺はリーダーのナリカネ ノゾム。
通称 ノゾム。
居酒屋接客と貯蓄の名人。
俺のような異世界転移者でなければ、百戦錬磨の馬鹿どものリーダーは務まらん。
俺はマーリー・パンサー。
通称、純白の貴公子。自慢のコレクションは、みんな女からの略奪品さ。
ハッタリかまして、ブラジャーからパンツまで、何でもそろえて見せるぜ。
……ナギ・フィーロ。通称、ナギ。天才だ。
『第二王女』でもぶん殴ってみせらあ。
でも、洗脳だけは勘弁な?
俺たちは、世知辛い世の中に挑戦した結果、あっさりと掴まった!!
馬鹿野郎Aチーム!!
助けてくれる誰か、いつでも名乗り出てくれ!!
「……もう、良いか?」
誰も居ない空間に向けて、サムズアップを決めていた俺に向けて、後ろから不機嫌な声が投げ掛けられた。
振り返れば、そこには苦々しい顔で頭を押さえる少年の姿があった。
「ああ。悪いな、ナギ。牢屋にぶち込まれるなんて、なかなか無いシチュエーションだったから、どうしてもやりたかったんだよ」
「意味が解らん」
「なんとなく楽しかったですけどね。俺は」
「マーリー君はノリが良いな」
「……ちっ。まぁ、何でも良いさ。これで貸しは無しだぞ? ノゾム」
そう言うと、彼は溜息を吐きながら牢屋の隅に移動しようとする。
そんな彼の肩を俺は遠慮なく掴み、言葉を投げた。
「おいおい、おいおい。これだけの事で、お前の『王女暗殺を未然に止めた』っていう借りが、チャラになる訳が無いだろう。……というか、コレは自己紹介のようなモンだって最初に言っただろうが。眠るにしてもせめて、今回の事件の背景くらい吐いていけ」
「……痴漢のくせに、意外とまともな事を言うんだな。でも、お前も知ってる通り、俺は半ば自分の意思じゃあ無かったんだぞ?」
「痴漢とか、元凶のお前だけはそれを言うんじゃねぇ!! 俺だってそんなつもりは無かったっつーの!!」
「いや、流石にノゾムさんには脱帽でしたよ。……まさか直で、王女の胸を揉みに行くとは。俺でも護衛が限界だったっていうのに」
「マーリー君。お前も少し反省しろよ? ……というか、俺がここにぶち込まれたのは、お前の所為でもあるんだからな?」
「え? そうなんですか?」
「……お前が事情聴取の時に変な事を言うから、俺まで同類扱いされたんだよ」
「変な事と言われましても――俺は自分の信念、行動を恥じてはいませんから」
「……OK。改めてもう一回、俺から聞くわ。お前があの時、あの場所に居た理由。そしてカリエさんを助けた理由は何だった?」
「いや、学生寮で見かけた時に、カリエさんとか言う護衛の女の子が可愛い上に巨乳だったんで、彼女の下着を盗む為に、町をフラフラしてまして」
「……どこが恥じるところが無いんだ?」
「気持ちは分かるけど、ナギ。話しは最後まで聞いてみようぜ。どんでん返しがあるかもしれないし」
「そしたら、不自然な結界魔法があるじゃないですか? 気になって、中に侵入してみたんですよ」
「……半ば意識が朦朧としてる時に張った結界とは言え、こんな変態にやすやすと抜けられたと思うと衝撃がデカいな」
「落ち着けよ。マーリー君はアレでも結界魔法だけはエキスパートらしいから。……それを下着泥棒にしか活かせないのが残念ではあるけど」
「それで中の様子を見てたら、そこの彼がこの世の財産である巨乳を消そうとしだしたので、咄嗟に
「隠すつもりも無いな」
「うん。いっそ清々しいわ」
「自分を偽るのは間違いです。そう教えてくれたのはノゾムさんじゃないですか」
「……お前がこの変態を作り上げたのか」
「さらっと自分の業をこっちになすりつけるな、下着泥棒。後、若干引くんじゃない、暗殺者」
「痴漢に言われたくは無いな」
「ノゾムさんに比べたら、俺なんてまだまだですよ」
「良し、構えろお前ら――これより正義を執行する」
牢屋に収容されて、もう数時間。
ノワールたちが帰った後の牢屋の中で、俺たちはすっかり仲良しだった。
「でも、真面目な話。今回の件の背景が知りたいのは本当だ。襲撃の時の様子とか、自分で言ってた『洗脳』って所からなんか事情があったんだとは思うんだが……話してくれないか?」
「……ちっ。あんまり思い出したくは無いんだけどな」
「男の過去とか、俺は興味ないんで寝てますね」
「一応、聞いとけ。阿呆」
「ノゾムさんが言うなら、了解です」
「やけにお前に懐いてるよな、その変態……なぁ、ノゾム。お前、やっぱり――」
「こいつの誕生に対して……ほんの僅かに、微粒子レベルで微かに、俺にも責任があるのは事実かもしれない案件だが、それはお前のセキュリティ・クリアランスには公開されてない情報だ。あと、今回の件には関係ない」
「……まぁ、釈然としないが、借りがあるのは事実だしな。仕方ないか」
やれやれ――とそう呟くと、観念したように彼は話し始めた。
自身のこれまでの過去を。
「……ううっ」
「なんで、お前が泣くんだよ」
「うっせぇ……民族性だよ、こんちきしょう」
そうして語られた彼の話は、平和な日本の中でジブリを見ながら育った俺に取っては、涙なしでは聞けない程に切ないモノだった。
誰が想像するだろうか。
隣の席で講義を受けていたクラスメイトが、実の親にいたずらに捨てられ、十の身空で唯一の育ての親と死に別れ、育った村から迫害を受けた挙句、自由意思を剝奪され暗殺者になりかけていたなんて。
「……なんか、ここまで泣かれると、それはそれで気持ち悪ぃな。おい、マーリー? だったか? お前から宥めてやれよ」
「Zzz」
「寝てんじゃねぇよ」
「あいったっ!?!? なんだ、なんだ!?」
「ノゾムみたいに泣かれるのも落ち着かねぇけどよ。寝られるのは論外だわ」
「知らねぇよ。大体、俺だって前半は頑張って聞こうとしてたんだぜ? でも正直、男の不幸話に興味はねぇし。登場人物にしたって、謎の男、爺、お前、だけじゃねぇか。俺の気を惹きたかったら、せめて女子を出せ、女子を」
「……お前、ノゾム以外にはふてぶてしいのな。逆になんでアイツには敬語なんだ?」
「あの人は俺に取って教祖様だからな。なんなら、お前にも敬語を使わせたいくらいだ」
「はっ。言うじゃねぇか。悪いが、俺は下着泥棒の言う事を聞くつもりはねぇし――」
そう言うと、彼は涙を流す俺を指さして高らかに宣言した。
「――痴漢に敬語を使う気も無い」
よっしゃ。
こいつは敵ですわ。
ナギは死すべし、慈悲は無い。
「おいこら。さんを付けろよ、デコ助野郎。同情してたら良い気になりやがって」
「誰がデコ助だ、誰が」
「お前だ、お前。あんなに強く頭を搔き毟りやがって。絶対将来禿げるぞ、お前」
「そうか。死にたかったのか、お前」
「あ……魔力は止めて! それ以上いけない」
俺は平伏し、彼に頭を下げた。
実際、じゃれ合いとはいえ魔力を交えればそれは、俺に取って殺し合いと変わらないのだから。
「……変わり身早ぇな。さっきの勢いはどうしたよ?」
「馬鹿野郎。作戦は命を大事にが鉄則だろうが――それに勢いを無くした訳じゃねぇわ。かかって来いよ、ナギ。魔法なんて捨ててかかってこい」
「なんだ、お前。魔法が怖いのか?」
「……勿論です。
「さすがはノゾムさん。なんて正直な人なんだ」
――牢屋に居ると言うのに、そうやって騒ぐ俺たち。
やっぱり俺たちは最高の馬鹿野郎たちだった。
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