第67話 「血管から食べることで、更に数倍!!」
「会議を行いたい!!」
医務室での激戦を終え、またしてもローゼさんの車によって、学生寮まで運ばれた俺は、自分の部屋でノワール、ナイア、メルを前にそう口を開いていた。
ちなみに、ナギ君はローゼさんに頼んで、自宅に送ってもらった。
これで、今日の内に彼が迷宮に入ることは無いだろう。
試合でボロボロになった日くらい、ゆっくりと休養を取ってほしいものである。
閑話休題。
「また急ですねご主人?」
「うむ。妾も驚いたぞ、一体どうしたのじゃ?」
「会議ですか?」
そんな俺の台詞は、仲間たちからすれば困惑の対象だったようで、三者三様にそう言ってきた。
「いや、今日の実技訓練で俺は悟ったんだ。強くなる必要があるってな」
「ああ。成る程。……確かに、ご主人は実技試験の度にボロボロになってますしねぇ」
「ふむ。そういうことであったか」
「ノゾムさんが苦しそうなのは見てて辛かったです」
三人は俺の言葉を受けて、頷いた。
ご納得頂けたようで、何よりである。
「分かって貰えたなら、何よりだ。……試合の度に、こんな体になるのは嫌だからな」
そう言う俺は寝っ転がり、天井を見ている状態だった。
全身に激痛が走っている所為で、座っていたり、立っていたりすることが辛いのである。
「まぁ、ご主人が強くなってくれれば、私も助かりますし、会議に異論はありません」
「うむ。妾としても、ノゾムが強くなってくれるのは望ましいのじゃ」
「ノゾムさんが元気になるなら、賛成です」
そんな情けない俺に対して、三人はそう言ってくれた。
「ありがとうな、三人とも」
俺は感動を覚えながら、三人にそう返して、息を吸い、続きの言葉を紡いだ。
「それじゃあ、議題は『俺の戦力をどう上げるか』ということで、会議をしよう」
こうして、久しぶりの会議が開かれた。
「まぁ、最初に思い浮かぶ方法は、レベルアップによるステータスの向上ですよね?」
「うむ。そうじゃのぅ。ノゾムのレベルはまだ低いし、現状であればレベルを上げるのも容易い筈じゃ」
「そうだな。やっぱり、それは外せないか」
そうして始まった会議だが、最初に出たアイディアはそんな内容であった。
この異世界には、レベルやスキルやステータスというものが存在する。
そして、まるで『RPGロールプレイングゲーム』のようにモンスターから得られる経験値を利用して、レベルアップという方法で強くなれるのだ。
異世界人である俺からしたら、意味不明なシステムではあるが、せっかくあるんだし利用しない手は無いだろう。
「そうなると、やっぱり休日を利用した『ダンジョン探検』は続けた方が良いでしょうね」
「うむ。前回は半日ほどしか潜れなかったが、それでも『スケルトン』程度なら倒せるようになったしのぅ」
「そうだな。確かな成果として、レベルが三つと、各ステータスも上がったしな」
名称
<ナリカネ ノゾム>
LV:5 (+3)
HP :120/120 (+50)
MP : 0/ 0
攻撃力 :40 (+25)
防御力 :32 (+20)
魔力 : 0
魔力防御 : 0
速さ :42 (+25)
所持スキル
<ノワール>
称号
<来訪者>
<貯金好き>
そう言いながら、俺は前回の成果であるステータスの成長を思い出す。
数字的な考え方になるが、結果を見ると攻撃や防御や速さといったステータスは、ダンジョンに潜る前より、二倍近い成長をしていた。
それを踏まえると、迷宮探索は引き続き行った方が良いだろう。
「それじゃあ、やっぱり休日は積極的にダンジョンに潜ることにしよう」
俺は改めて、レベルアップの結果を確認しそう言った。
そして続けて呟く。
「……でもなぁ、レベルアップでは俺の『魔法関連』のステータスは上がらないんだよなぁ」
「あー。そう言えば、そうでしたねぇ、ご主人」
「ううむ。こればっかりはのぅ」
その呟きの内容は、俺自身のステータスに対する嘆きだった。
この世界で、強さの秤となるステータスだが、これは種族ごとで大きく異なるうえに、個人によっても差が大きいものらしい。
分かりやすく言うなら、種族値と個体値とでも言うべきだろうか。
これには本人の資質が影響するらしく、攻撃の伸びが異常に良い個体もいれば、魔力の成長が非常に高い個体もいる、という感じでバラつきが出るらしかった。
そして、問題の俺だが――
「……俺だって、別に六Vロクブイとか贅沢は言わないんだけどな」
「ご主人の場合、『MP』『魔力』『魔法防御』の三項目に対して、資質が無いという事が分かってしまいましたからね」
「普通はどれほど低くとも、レベルアップに際して、一~二は上がる筈なのじゃが、ノゾムの場合は四つレベル上がっても、その三項目は変動無しじゃったからのぅ」
――という状態だった。
まぁ、分かりやすく纏めると、次の三点である。
一.俺に魔法は使えない
二.魔法が当たれば、俺は死ぬ
三.気分は消されたライセンス
「……マジで、いつ見ても絶望的だよな、このステータス」
「ええ。まさに『M0エムゼロ』ですね、ご主人」
「ノワール。相手の魔法を消せるなら、俺にも文句は無かったんだけどな」
若干のドヤ顔で言葉を挟んできた黒猫に、俺は溜息をつきながら言葉を返す。
残念ながら、俺にそんな便利な能力プレートは無い。
現実は非情なのだ。
……ん? プレート?
「ああ。そう言えば確認して無かったなぁ。……ナイア」
「ん? なにかのぅ、ノゾム?」
ノワールとの会話の中で、ヒントを得た俺は、ナイアに確認してみる。
「この世界って、『魔法防御』を上げる防具とか、道具って無いのか?」
そう、俺が思いついた可能性。
それは、装備品やアイテムによる強化である。
……。
理想を言えば、食べるだけでステータスが上がる『木の実』とか『種』があれば良いんだが。
最悪、コンソメスープでも良い。
俺は期待を込めながら、ナイアにそう聞いてみた――
「そうじゃのぅ。……アイテムは知らぬが、妾の知識じゃと、ドラゴンの鱗などで作った防具であれば、そこそこ魔法を弾いたはずじゃ」
――のだが、残念ながらそんなアイテムは無いらしい。
『ちから』や『すばやさ』とかは自力で上げろという事か。
やっぱり、この世界でもドーピングは駄目なんだな。
「そうか、ありがとうな、ナイア。……それなら、防具を買うっていうのは良いかもしれないな」
だが、防具は存在することが分かった。
それだけでも、良しとするべきだろう。
「そうですねぇ。我々の所持金ではドラゴンは無理でしょうが、何も着けていないよりは良いでしょうし」
「まぁ、そうじゃのぅ。そう言えば、三〇〇年前の冒険者たちも、多種多様な武器防具で身を固めておったぞ」
「よし、それじゃあ今度、市場を見に行こうと思うんだが、二人はそれで良いか?」
俺がそう言うと、二人は頷いた。
「異存はありません」
「うむ。妾もそれで良いと思うのじゃ」
「ありがとうな、二人とも。それじゃあ、今回はこれで――」
「――あ、ご主人。少し待ってください」
方針も決まったので、俺が会議を閉めようとした時に、ノワールが声をかけてきた。
「ん? どうした、ノワール?」
「いえ、一つだけ言っておきたくて……防具を買った後は、私の強化もして下さいね? 私だって、実技訓練は毎回ギリギリなので」
「ああ、分かった。……それじゃ、今度こそ終わるぞ?」
俺がノワールにそう返して、ナイアを見ると、ナイアはコクリと頷いた。
そうして、今度こそ俺たちの会議は終了したのだった。
「……うぅ、全然に話に入れなかったのです」
いつの間にか、空気になってた精霊を残して。
……まぁ、実際。
生まれてから一度も、この学生寮から出ていないメルが会議に混じれないのは仕方が無かった。
ううん。
今度はメルが話せる議題にしよう。
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