第34話 「ダンガンロンパ」


「君たちには王都にある、リーネ大学へ行ってほしい」

 翌日。

 ギルドマスター室へ入った俺たちは、そんな言葉で迎えられた。

「……リーネ大学ですか?」

「ああ。この学術国家の中でも、一番歴史が深く、あらゆる分野の研究にも力を入れている、この国が誇る最高の学校だ」

 ギルドマスターはそう言う。

 実際、凄い所なんだろう。

 ――だが、王都と聞いた時点で俺たちの答えは決まっていた。

「すいません。ありがたい話ですが……この話は無かったことに」

「おや、学校へ行きたいと思っていたのですが、何か問題があるのでしょうか? ……良ければ聞かせて頂いても?」


 大学進学裁判 開廷!


 ん? なんだろう。……何か空気が変わったな。

 この場の空気が――


「話し合いをしましょう。私は君たちにこれまで感じたことも無いほどの『希望』を見ている。君たちが大学へ行くことを遮る何かがあるのなら、私がすべて排除します」


 議論開始


「先ほども説明した通り、リーネ大学はこの国の中で最高の学校だ。君たちが学びたいというのなら、一番理想的な環境だと思います」

「……もともと私たちは何かを学びたいという意思で学校へ行くわけではありませんから」

「そうじゃのぅ。妾としても嫌いではないが、体を動かす方が好きじゃしのぅ」

「そう言う訳で、学校へ行かなくても……」

「それは違いますね」


 論破っ!BREAK!


「ならば何故、昨日試験を受けられたんですか? あなた方はなんらかの理由で学校へ通うことを検討された。……そこには理由があるはずです」

 確かに、その通りだ。

 ……なんだこのギルドマスターの言葉。

 昨日までとは違う『凄み』がある。


議論開始


「恐らく、あなたたちは学校には通いたいと思っていますね?」

「……認めましょう。俺たちは確かに学校へ通いたいと思っていました」

「じゃが、その目的はリーネ大学では果たせないのぅ」

「それも違いますね」


 論破っ!BREAK!


「あなたたちの目的は十中八九、学歴ですね。失礼ですが、貴方たちが初めてこのギルドへ来た時の様子を聞かせてもらいました。……討伐依頼などを熱心に見られていたようですね?」

 くっ!! なんだ。なんだこの論破されていく感覚は!!

 ギルドマスターの言葉が弾丸のように刺さってくる。

「リーネ大学へ行かれた経歴があれば、学歴としては最高のものと言えるでしょう。冒険者としての活動もスムーズになるかと」


議論開始


「……バレているようなのでハッキリ言いましょう。確かに俺たちの目的は学歴でした」

「なら……」

「……ですが、王都へは行けません」

 この世界のセキュリティはザルだ。

 冒険者カードがあれば国内の町を簡単に移動できる程には。

 ……だが、王都ともなるとさすがにそれは無い。

 中に入ってくる人間には<鑑定>というスキルがかけられると聞いた。

 そうなってしまえば、俺が転移者でナイアが魔王だと言うことがバレる。

 ――それだけは避けなければならない。

「なるほど。君たちの行動を阻害しているのはリーネ大学自体ではなく、王都ということだですか。……恐らく、そこの使い魔さんが原因ですね」

 っ!! 当たらずとも遠からずかっ!!

 ノワール自体は俺のユニークスキルであり、かなりチートなスキルだ。

 <鑑定>をされたら大きなトラブルを生む可能性はある。

「人語を解する使い魔。……私もギルドマスターなどをしていますが、見たことがありません」

「……だったら、分かってくれますよね?俺たちが王都へいけない理由を」

「ええ。探られたくないのですね。自分たちのことを」

 ギルドマスターはそう言って頷いてくれた。

 ……よかった。

 ノワールのことは使い魔と思っているな。

 なぜかハラハラさせられたが、これで引いてくれるなら構わない。

「ならば、問題はありません。……大学側にも貴方たちの事情は探らせませんし、王都へ入る時も鑑定などを初めとした個人情報の開示を全て免除するように徹底させましょう」


 論破っ!BREAK!


 ――だが、ギルドマスターは止まらなかった。

「なっ!! 何を言っているんですか!!」

「代わりに、王都の中でも大学内しか移動できなくはなりますが……学内には寮も食堂も購買もありますし、問題は無いでしょう」

「そんなことが出来るわけないでしょう!!」

「そんなこともあるかと思って、昨日理事長に了解を取っておきました」


 論破っ!BREAK!


「なぜそこまでしてくれるんですか?」

「……そうですね。本音を言いましょう。私は貴方たちへどうしても大学へ行ってほしいんです。そのためなら、何でもするほどに。……貴方たちの知識にはそれほどの価値がある。ナイアさんの知識はこの国の魔術体系に、ノゾム君はあるいはこれまでの学問の全てを破壊するほどに。学問の探求こそ、この国が何よりも優先するもの。種族的には弱者とされる人間が発展したのは『知識』によるものなのだから」

 ……なるほど。

 ここまでの熱烈なアプローチは、昨日の俺の勉強会が原因か。

 前世では当たり前だった『知識』だが、この世界ではそれほどまでに価値があるものなのか。

 『知識』それによる発展は確かに素晴らしいものだろう。

 彼の吸血鬼ですら、復活してからの自動車には驚いていたしな。

 ……その後、広い歩道を走らせていたのはさすがだったけれど。

 閑話休題。

 目的はその珍しい『知識』を『大学』を通して、この国の発展に役立てることか。

 利益を明確に見せてきたギルドマスター。ただの思いやりよりは信じられる。

 大学へ通えば、俺たちには『学歴』が手に入るし、ついでに足りてないこの世界の『知識』も手に入れられるだろう。

 ……確かに俺たちにもメリットはある。

「……それに勝手なんですが、貴方たちの足を止めているのが、どうも後ろ向きな悩みに見えたので」

 俺が逡巡していると、ギルドマスターは雰囲気を変えて、優しくこちらを見てきた。

「知識もあり、若さもある貴方たちがつまらないしがらみによって先に進めないのは勿体ないと感じました。……詮索はしませんが、もっと未来に希望を持って欲しかったのですよ」


 俺たちは気づけば、ギルドマスターの声だけを聴いていた。


「希望は前に進みます。どうか絶望に負けないで下さい」


 ギルドマスターの持つ希望が、俺たちの中にあった絶望を吹き飛ばした。

 俺たちは、満場一致で大学へ行くことを決めた。


大学進学裁判 これにて閉廷っ!!

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