第32話 「諦めたらそこで試合終了ですよ…?」
「「「町だぁぁぁああああああっ!!」」」
馬車の中から新しい町が見えた時、俺たちはとにかくハイテンションだった。
「早く行こうぞっ!! ノゾムっ!! ノワールっ!!」
「ああっ!! 俺だって最高にハイって気分だからな」
「行きましょうっ!! 行きましょうっ!! 町は大変なものを盗んでしまいましたっ!!」
「俺たちのっ!!」
「心ですっ!!!」
ピシガシグッグッ!!
俺はノワールと友情を確かめた。
ナイアが興味深そうに見てたので、やり方を教えて、一緒にやってみる。
ピシガシグッグッ!!
ワザマエッ!!
俺たちは仲良しだった。
「あ、あの。すぐに着くからもうちょっとだけ落ち着いて……」
商人のおっちゃんが少し慌てていた。
うん。すまんね。
俺たちがこうなったのにはもちろん理由がある。
前の町から、この賢者の国への移動を兼ねた数日間。道中はとにかく平和で何もやることが無かった俺たちは助けた商人のおっちゃんと雑談をしていた。
曰く、その国は学術が盛んであり、色んな学校があるらしいこと。
曰く、賢者さんは辺境に隠居なさっており、人と関わってはいないこと。
曰く、別国の王族が暗殺者を寄越す事は国家間の問題になる可能性が高いので、考えにくいこと、
曰く、各英雄はそれぞれの国に在を置いているので、他の英雄と会う可能性は低いだろうということ。
雑談の中から、ここまでの情報を得た時点で、俺たちは有頂天だった。
つまり、賢者の国に入ってしまえば、王女からの追手も勇者も賢者も警戒しなくて良いのだ。
なにその楽園。
俺たちが探していたベストプレイスはそこにあった。
この素晴らしい国に祝福を!!
そんな経緯から、俺たちは賢者の国こそ、俺たちが探していた天竺だという結論に至った。
ああ、この冒険は第三部で完だった。
「いやぁー! 本当にありがとうございましたっ!!」
「いやいや、こちらこそお礼が出来て良かったよ」
町に入って、俺たちは商人のおっちゃんたちと別れて、冒険者ギルドへ向かった。
この町に入る時に初めて知ったのだが、冒険者という存在は国を越えても認められているらしく、冒険者カードを見せるだけでスルーパスだった。
王都とかになると、鑑定されたりもするらしいが、国境に一番違いこの町ではカードだけで良いらしい。
……やはり、この世界のセキュリティは心配である。
「さてっと。それじゃ、まずこの町のギルドに行くか」
「ええ。手持ちの銀貨も三十程度まで減ってしまいましたし、なにか受けれそうな依頼があれば受けた方が良いかもしれませんね」
「うむっ! 妾もまた回復したことじゃしな。今ならオークまでなら片手間で殺れるぞ!」
「おおっ!! 良く分からんが凄いぞ!!ナイアっ!!」
「さすがですっ!! ナイアっ!!」
そうして、俺たちはウキウキしながらこの町の冒険者ギルドに向かった。
「……まさかな。」
「……ええ。こんな落とし穴があったなんて。」
「……」
一時間後。
俺たちは、町の外にいた。
賢者の国。
それは俺たちにはあまりに厳しい場所だった。
「あ、ご主人。それです」
「おう」
「……」
「……ナイア。それは違います」
俺たちは再び薬草をブチブチ抜いていた。
「さすがは学術都市。まさか、異世界で学歴社会を経験するとは思わなかったぜ」
「ええ。冒険者ギルドは各国で個性があるとは聞いていましたが、これほどとは……」
「……」
ギルドに入った俺たちを迎えていたのは、学歴社会の闇だった。
どうやらこの国の冒険者ギルドでは、依頼を受けるにあたって信用を強く求めるらしく、依頼の受諾条件に学歴という証が必要になるのだ。
それがない俺たちは、またもや薬草採取などの雑用に逆戻りだった。
「……」
ちなみに、それが分かってからはナイアはずっと死んだ目で、沈黙を守っている。
うん。
一番楽しみにしてたし、張り切ってたもんな。
「……」
「…ナイア。せめて、何か喋ってください。無言で草を差し出されると、何か心にくるものがあります」
「……これ……は……薬……草……?」
「……違います」
天真爛漫なうちの魔王様をコミュ障にするとは、学歴社会の闇は深い。
俺たちの明日はどっちだ。
某日 迷いの森 最深部
賢者の家
僕はルーネ・リカーシュ。
巷では賢者なんて呼ばれてるけど、実際はそんなに大したものじゃない。
ただのしがない魔女だ。
普段はこの誰も来ない森の奥に引きこもってのんびりと暮らしている僕だけど、今日は朝から嫌な予感がしていた。
不本意ながら賢者と呼ばれる僕が、根拠の欠片もない予感というものを信じるのもおかしい話かもしれないが、この予感が割と馬鹿に出来ないのである。
そのおかげもあって、魔力感知の範囲を普段より広げていた僕は高速で接近してくる魔力に気づいた。
慌ててドアを開ける。
そのすぐ後――
「ルーゥネーェェ!!」
――その侵入者は高速で僕に飛びかかってきた。
「……あ痛っ!!」
そして、僕の目の前の魔力障壁に顔面を強打していた。
「うぅ……酷いよ。ルーエ。久しぶりに会ったのに……」
「エル。お互い、いい大人なんだから少し落ち着こうよ」
鼻を抑えながらそう言う彼女だが、勇者である彼女の突進を正面から受け止めるなんて僕には出来ない話である。
「まぁ、とりあえず掛けなよ。会うのは半年ぶりくらいかな? 歓迎するよ」
「ん。ありがとっ」
着席を促して、お茶を入れる。
この家にもそれなり愛着があるのだ。
彼女のステータスなら何かの拍子に壊してしまうかもしれないし、そういう可能性があるなら、少しでも彼女が落ち着くように行動するべきだろう。
「はい。いつもの」
「いただきます。……うん。美味しい。やっぱりルーエは紅茶入れるのが上手だよね!」
ニコニコと紅茶を飲む彼女。それを確認してから、僕は聞くことにする。
「……それで、今回は随分と変なテンションだったけど、何かあったの?」
「あっ……あぅ……」
僕が尋ねた瞬間。エルは顔を真っ赤にして、俯いた。
普段は真っすぐにこちらの目を見てくるのに、こんな彼女は珍しい。
僕が観察していると――
「あ……あの。……告白されたの。」
――彼女はそう続けた。
……成る程。
賢者である僕もそうだが、勇者パーティである僕たちは、一部の国民たちに神聖視されることがある。
まぁ、それぞれが一般的な人間のステータスを大きく超えているし、建国の時代からいるので致し方ないとは思うんだけど。
なので、偶に神に懺悔するような感覚で自分の罪を告白してくる人もいる。
そういう話は大抵がヘビーで、救いがない。
僕たちのパーティの中でも、一番純粋な彼女が心を痛めるような内容でも告白されたんだろう。
「そうかい。……それは災難だったね」
「えっ!? ……いや……災難では……」
彼女は葛藤をしているようにそう言ったが、あえて言葉の途中で割り込んだ。
「エル。君は優しいから、色々と考えているんだろうけど、あまり思い詰めても仕方がないよ」
「ルーエ?」
彼女は、不思議そうにこっちを見る。僕はゆっくりと話す。少しでも彼女の気持ちが楽になればと思って。
「そうさ。結局は僕たちに出来ることは限られている。一般的な人たちよりはその範囲が大きいってだけでね。だからこそ、出来ない範囲は忘れた方が良い。君が重荷を無理に背負う必要はない」
「そう……なのかな……?」
彼女はそう言うと、少し考えて、やがて気持ちの切り替えがついたらしく、結論を出した。
「ありがと。……そうだよね。結局、私は勇者で国を守ることが私がやるべきことなんだ。それ以外のことに振り回されちゃ駄目だよね」
そういうエルは、たまに見せる勇者の顔で、そう言った。
なにか吹っ切れたようなら何よりである。
「元気になったみたいで良かったよ」
そう言いながら、僕は久しぶりにあった友人とのティータイムを楽しんだ。
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